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41話 戦場は悲劇の故郷

 ここは青年学校の裏庭。入学当初に、よくアルザスと飯を食った場所だ。

基本的に誰も来ないし静かで、考え事にもってこいの場所だ。


 ――命令文書が届いてから三日が経った…。

あれから何も手が付かない。自分のこれからについて考えるので精一杯だ…。

最低限手が付くことは、食事・排泄・風呂とかの生命維持活動くらいだろう。


アルザスは徴兵を受け入れる気でいる。バスキーも他の連中も。

むしろアルザスは騎士の家系だから好待遇で迎えられるかもしれない。早速エリートコースか。

アイツらはみんな、帝国への忠誠を忠実に果たそうとしているだけ。

でもアイツらは知らない。

いくら優秀な人材だとは言え、徴兵なんてただ一つの駒をを補うくらいにしか見られていない…。


以前にシュタウゼン大佐が言っていた、「気をつけろよ」とはこのことだったのか…。

前世でそれと似た歴史を学んできた俺ならわかる…。

そんなことを望んで受け入れる奴らはみんなバカだって。



「――誰がそんなこと受け入れるかよ…!俺はヴィクトル人じゃない…!」


そう、俺はエンティオ人だ。俺たちを迫害するヴィクタリアの兵士になるなんて冗談じゃない…!

そんなことを受け入れれば…殺された家族に顔向けできない…。

俺のレクイエムを(うた)い切ることはできない…。



「とは言っても従わなきゃ反逆罪とかだろうし…。どうすっかなぁ…。」


そう言えばクリスはどうしているだろう。

クリスの正体がバレていなければ、彼の所にもこの命令書が送られたはず。

仮にバレていたとしたら…捕まっていないだろうか。


「捕まったら即処刑…。無事に村へ帰れただろうか…。」


「――きっと大丈夫だよ。クリスが簡単に捕まるわけないのは、ヴァルターが一番わかってるでしょ?」

「…? あぁ、レイナか。」



俺が考え事をブツブツ言っているとレイナがやって来た。聞かれていただろうか。

レイナも徴兵を命じられている。

本来だと女が兵隊になることはないそうだが…レイナは魔術師として秀才過ぎた。



「…お前もこれを受け入れるのか。辞めておけ、下位民族のお前は散々にこき使われるぞ。少なくとも、俺はお前を行かせない…!」


「…私の事、心配してくれるの?」

「そういう訳じゃ…いや、そうだ。仲間だからな…。」

「仲間かぁ…。」


なんで「仲間」でちょっと嫌そうなんだよ。

今の俺ちょっとうざかった?

次にこの少女は、俺の前に詰めよってきた。


「でもアルザスの言う通りかもね。私もあなたも、そのうち嫌だなんて言ってられなくなる。」

「どういうことだ…?」


「アルザスがお兄さんを通して聞いた話なんだけど…ここが私たちが派遣される予定の場所。」



そういってレイナは持参した大陸地図を開いて見せた。

中央には大陸最大面積を誇るヴィクタリア帝国、

西部には『クーベルト人の国・ベルティア』、

東部は『魔獣の大量生息地域で人間は住んでいない』。

北部が『生き残ったエンティオ人の地・エミルド』。エミルドは今でも約80%が未開の地だ。


そして南部が『帝政に反発したヴィクトル人が創った国・ヴィクトル民族国』。

つまりヴィクタリアは南北に分かれている。帝国はこの国を『南ヴィクタリア』と呼称していた。

優等民族も一枚岩ではないという事だ。



「で…?南と戦争になるのは聞いたよ。だから俺たちは南方に行かされるってか?」

「なにも気付かない?私たちが派遣されるのはここ。」


レイナが帝国と南ヴィクタリアの境界周辺をトントンと叩いて示した。

そこに記載されている地名。俺にはすぐにわかった。

「そのうち嫌だなんて言えなくなる」の意味もわかったよ。


「派遣先は…リンクシュタット…⁉それもリンクランツまで…!」

()()()()()()だよ…。ここら一帯が戦場になるって言われてるみたい…。」


何の偶然か…それとも「神の示す運命」とやらで決められた必然なのか…!

よりにもよって俺たちの生まれ故郷であり…俺の家族が殺された地とは…。

そして今も故郷には、俺の共謀者がいる。


「ヴァルター、私は行くよ…!あそこにはお父さんとお母さんがいる…!私の生まれた家がある…!」


この時、俺にはこの少女を咎めることはできないのだと悟った。

家族を失いたくない、思いを寄せた所を失いたくないという気持ち、俺にはよくわかる。

だが俺は行かせたくないと思った。人の所業で戦争ほど無意味ことはない…。

それは国内で虐げられるよりも理不尽で…残忍なものだから。


それにクーベルトであるレイナは間違いなく、その強力な魔術を酷使されボロボロになってしまうだろう…!

それに戦地は男ばかりだ…!この少女がもし敵に捕まりでもすれば…いや、もしかしたら味方にだって…。

戦地で女が受ける所業(性的虐待)なんてどこの世界、いついかなる時代でも決まっている…!

クーベルトに命の保証なんて、あってないようなものだから。



「俺はあの故郷に何も残っちゃいない。あるのは家族が死んだ痕跡だけだ。」

「うん…ごめんね。故郷の…それも家族の話なんてしちゃって。」

「構わないさ。それがお前の決意なら…それを咎めることはできない。どーせ咎めたって聞かないだろうしな。」

「よくお分かりで。」


俺はそれ以上何も言わなかった。

気がかりなことはたくさんあるが。クリスの事に、共謀者のことも。


―――――――――――――――――――――――――


― ヴァルター 自宅 ―


最近はいろいろ漠然としすぎだ。直視できないことが多すぎる。

考えすぎてグチャグチャしている中、俺は今日も自室に帰って来た。

帰ってくるという行為がどれだけ幸せか…最近改めて思い知ったよ。


俺がドアの前に立った時だった。


「…ん?ドアノブが壊れてる…?」


これまた嫌な予感がした。明らかに侵入者の形跡アリ。

空き巣か?それとも俺を捕まえに来たとか…

俺は警戒しながら、思い切って部屋へ飛び込んだ。


「――ッ誰だ! 人の部屋に勝手に…」

「よぉヴァルター。鍵かかってたからドア壊しちまったよ…。」

「…クリス⁉」


窓際の椅子に腰掛けて俺を待っていた大男。クリスだった。


「一体何しに来た…、ってか無事だったのか。正体がバレちゃいないかと心配したぞ…?」

「ずっと潜伏してたんだよ、お前に話があってな。できればあの嬢ちゃんもいてほしかったが…。」

「なんでここにレイナがいると思ったんだよ…ここ男子寮だぞ。」

「いや…てっきり一緒に暮らしてるもんかと…」

「んなわけねぇだろ⁉」



ひとまず俺も落ち着こう…と、ベッドに腰掛けて向かい合った。

今日は相棒の大剣を持っていない。なのに戦士の皮から脱してない感じ…。


「ヴァルター…俺は今八方ふさがりでどうしようもねぇよ。」

「…やっぱり、警備隊から監視の目が?」

「まぁな。これ以上帝都に留まるのは危険だ。だが村に戻ったところでそこはエンティオ人の村だ。俺に賭けられた疑いは確証に変わり、下手すりゃみんな殺されちまう。」


まさに詰みというやつ。クリスがどの道に進んでも、その先は真っ暗闇か。

それが劣等の運命。…そんな運命冗談じゃない。


「もしかすると神様って奴は、俺たちに死ねという運命を示してるのかもな。」


「なぁクリス…自分の身の上を守る手段がそこにあるとしたらどうする…?もしその手段が屈辱的で、理不尽で、受け入れがたい手段だったとしたら。」

「…その時は全力で抗うさ。いつだって俺はそうしてきた。」


「…俺たちはこれから戦争に駆り出されるらしいぜ。それもヴィクトル人同士の内輪揉めにな。」

「まさかヴァルター…あの命令に従うんじゃねぇだろうな!」

「バカ言え…!でもやらなきゃいけない事実はそこにある。戦場になるのは、俺とレイナの故郷らしいからな。」

「そうなのか…?そりゃまた面倒なことに…。」


そうだ、ヴィクタリアの為に戦うなんて死んだ方がマシだ。

だが、戦場には守るべき故郷と共謀者がいる。

現状、命令と意志の板挟みにあっている状態だ。

ハハハ…。だが少し面白いことを思いついた…。


「要は南の連中と戦えばいい…!だが帝国の命令には従わない! …クリスお前よ、俺と一緒に手柄を立てる気はないか⁉」

「て、手柄…?」

「お前が手柄を立てれば、帝国はこれ以上お前に疑いを掛けずらくなるはず…!お前にとっちゃ好都合じゃないか…?」


「いやだけどお前…俺には村に残してきた家族が…」

「安心しろ…エミルドまで行ければいいんだな?そこまでの旅費、お袋さんの治療費を援助してくれるアテがある…!」

「ま、まじ…?」



突然ではあるが、俺の脳内にはある構想と作戦が浮かび上がった。

帝国の命令に従わず…リンクシュタットの防衛に努めて、なおかつ俺やクリスの立場を守ることもできる。

そしてこの構想を実行すれば、レイナを帝国軍なんぞに行かせなくて済む!


「お前はさっき、神は死ねと言う運命を示したとか言ったな?俺は神の敷いたレールに乗るつもりは無い!そんな運命は全力で破壊する!」

「お前…今度は何をする気だ…?その様子だと、また突飛なことを考え付いたってところか。」


「ご立派な忠誠心を持つヴィクトル人には、奴らの正規軍だけで頑張ってもらおう…!俺たちは俺たちだけで戦いをすりゃいい!」


俺がなぜこんな構想に自信を持てるのか。それは俺が転生者であり、ここよりもずっと進んだ世界の歴史を知っているからだ。

俺らのような人間はその歴史上に何人もいる。

その人間たちが国家のような大きな力に抗う時どうしたか。自分たちで武器を取るんだよ。


大丈夫。この世界の軍事レベルはたかが知れている。

特にこの帝国、魔術を使う基準値が高すぎるせいで科学技術が発展しなかった。

そうここは異世界だ。文明レベルは中世だ。


クリスの個人戦闘力、レイナの魔術。そして俺の文明の利器。

俺が第二の人生で培ったカードは、ここで発動する。


「クリス…俺についてこい! なにさ、あの魔石龍でさえ死の寸前まで追い詰めた俺たちが、人間の集団に負けるはずないさ…!」


咄嗟に思い付いた計画。それにはクリスが欲しい、レイナが欲しい、同志が欲しい。

構想の名称は…「傭兵(ようへい)計画」とでも呼ぼうか。

指導者とは常に、時代が創るものだ。

クソッたれなヴィクタリア帝国も、時代の節目を迎えているのかもしれない。


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