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40話 評議大会の真実

 揺れる馬車の中で、離れ行くブラムナスの土地を背に、俺たちは俯いたり外を見たりを繰り返していた。

誰もかれも、やっと帰れることや生き延びたこと、帰還後の栄誉受勲について喜びを露わにしたりはしなかった。


そればかりではない。アルザスもバスキーもその仲間のヴィクトル人たちも、絶対的な愛国心のもと忠誠を誓っていたヴィクタリアに不信感を募らせていた。


アルグレイが言っていた「首相、宰相の命令で助けに行かなかった」ということ。

これを聞けば皆がこう思うだろう。

「自分たちは生贄として見捨てられていた」と。



「…ヴァルター、それなに?その手に持ってるもの…。」

「これは…後で話すよ。今は気分じゃない…。」



お通夜のような雰囲気の中、レイナが静かな声で話しかけてきた。

俺の手の中にあるモノ、それは()()()()()()

あそこから離れる時にふと思った。


『高威力で大量の火炎を生成できる魔力』、『独自の治癒魔術によって傷を塞ぐ』などと言った魔石龍の特性。明らかに人間のソレとは違う。

魔獣にだって、人間ほど純粋なものではないが聖因子がある。だから疑似的でも魔術を持っている。

もしかすると魔石龍は、『聖因子を自力で生成できる』と言った生態機能があるのではないか。

そう思った俺は、こっそり傷口の肉片や爪、血液などを採取してきたのだ。



しかし、レイナに言われてすぐにそれを引っ込めた。

それには、この馬車の同乗者に理由があった。


俺はコソコソと、その同乗者を見つめる。紺色の制服に装備…。帝国警備隊の人間だ。

だがジッと見過ぎてしまった。その同乗者と目が合った。


「あぁ…すまない。自己紹介も無しに同乗してしまって。」


男は気さくに笑いかけて、自身の身分手帳を開いた。


「私はジャック。〈ジャック・ファドラー〉だ。見ての通り警備隊だよ。」


「あ、どうも…。アルザス・T・ヨースターです。」 丁重に返すアルザス。


「知っているよ、ヨースター大尉の弟さんだね。というか…前に会ったよね?」

「え?そうでしたっけ?」


なんと突然、アルザスと会ったことがあるというジャック警備官。

アルザスは帝国最上流貴族の生まれだから幼いころからいろんな人に会っていると思うが…。

それを俺は不思議に思った。何故なら、俺もこの男に見覚えがあったからだ。



「…あ!アルザスあれだ。シュタウゼン大佐に会いに行ったとき、駐屯地内でお前がぶつかった人…」

「…あれ?あ、ああ⁉あの時のねぇ…はいはい。」



こいつ絶対わかってないだろ。

とは言え、彼は間違いなくその時の警備官だ。

しかもシュタウゼン大佐と面会してたうえに、アルグレイとも親しげだった。

つまるところ…彼はそれなりにいい立ち位置の人間なんだろう。

だからそんな人に魔石龍の肉を採取したなんて知れたら、俺はお縄を頂戴することになりそうだ…。



「それで…軍属でもないあなたがどうしてこんなところに?管轄外では…」

「まぁ…仕事だよ。他のどんな事よりも()()()()()()()()()さ。」


「へぇ。一体どんな任務なんですか?」

「それは、極秘事項さ!」



疑念しかない。おかしな男だとも思う。

しかし俺にはなんとなくわかった。この男はジッと、同乗しているクリスを見ているのだ。

そしてこの男は一人で来ている、特殊任務か。近衛連隊の長たちとの関係も含めて考えれば…、


この男は間違いなく、ネスト(劣等)の件で派遣されてきたに違いない。

そして探しているんだ。クリスや他の劣等疑惑の人間を…。ついでに言えば俺の立場も危うい。


ピリついた空気の中、俺たちは帝都に向けて凱旋の道を辿って行った。



―――――――――――――――――――――――――――



― 帝都サンクトバタリアン 崇神王宮 前広場 ―


これから俺たちの帰還式典が行われる。広場には政府要人も多数だ。

まさに帰還と言うにふさわしい光景だ。

パリの凱旋門、ドイツのブランデンブルク門、この広場はそういった物に近い場所なのだろう。


評議大会は参加者の全員が同じ場所から出発するのではなく、各自の地域からブラムナスに向かっていた。

だから俺も、ブラムナスにいた全員を見たわけじゃない。

だけどこの有様は…酷いもんだ。明らかに人数が少ない…。



「諸君!襟を正したまえ!」 

広場の壇上に上がった偉そうなオヤジがデカい声で言った。


「まずは諸君、一か月間大変ご苦労であった。これより諸君らの栄誉を讃えるため、皇帝陛下から直々のお言葉を頂く! 惨めな姿を出さぬよう、心しておきなさい。」



「まじか…皇帝陛下が…?」  「俺たち…本当にやったんだ…」



などとあちこちから聞こえるどよめき。俺だって冷静なわけじゃない。

これから俺たちの前に現れるのは、大陸の覇権国家たるヴィクタリア帝国の『皇帝・バタリオ二世』。

優等民族ヴィクトル人の長であり…劣等民族の最大の敵でもある。



「それでは陛下…どうぞ、壇上へお上がりください。」


その言葉に続き現れた、白髪の長髪に長いひげの杖を突いた老人…。

一見弱弱しく見えるが…その装いと発するオーラが、只者とは一線を隔していると感じさせる。

まさに優等民族の威厳そのもの…!あれが…皇帝バタリオ二世…!


皇帝は壇を登り終えると、痩せた喉の筋肉を振るわせて言った。

非常にゆっくりな喋りだが、力のこもった重々しい声色だ。



「学生諸君…よくぞ、かの試練を乗り越えてここに帰ってきてくれた…。諸君らはかの地で互いに競い合い、そして高め合い、我が優等民族の名に恥じぬ闘争と精神を磨き上げたのだ…!」



互いに競い合い、高め合いね…。前半はあってるけど後半は違う。

アレはただの、醜いプライドが掛け合わさった殺し合いだ…!



「そしてなにより、諸君らはあの魔石龍をも抑え込む実力を有したのだ…!この功績は、何事にも代えがたい揺るぎない力の証明となるだろう…!」


「「「 皇帝陛下…。 」」」



「予は諸君らのような国民を、ヴィクタリアの子孫を持てたことを誇りに思う…!よって、諸君らの栄誉と功績を称え、ここに立つ者たちに『栄誉国民』の称号を与える…!」


「「「「「 うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…‼ 」」」」」



バスキー一派から巨大な歓声が上がる…!

巻き起こる『皇帝陛下万歳!ヴィクタリア万歳!』の大合唱…!

連中が目標にしていた称号、命を賭けてまで得たかった言葉…!

連中が生きている証は、今ここで形になったんだろう…。



「そして評議を突破した諸君らには…()()()()()()()()()()()()()()()()がある…!その義務を果たしてこそ真の忠誠、真の国民、真の優等なのだ…!」


「「「「「 うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…‼ 」」」」」


「今この時、帝国はいくつもの醜悪なる脅威に目をつけられている…。それは主に、南の反逆者どもによって創られた『偽のヴィクタリア』である…!奴らは大陸と、全てのヴィクトル人を支配するために予の首、そして帝国の玉座を奪わんとしている…!

しかし如何なる敵であっても、諸君らのような若者がいれば何も恐れることはない!

今この瞬間…!我が帝国のさらなる繁栄は約束されたのだ…!」



再び巻き起こる歓声。()()()()()()()()()()()()()()()()ほどの興奮。


これはまさしくあれだ…俺が忌避する『希望と期待』ってやつだ。

このヴィクトル人の栄光が、幾万もの犠牲の上に成り立っていると考えれば、俺は狂ってしまいそうだ。

だから今は考えたくなかった。



だが、今の俺たちには知る由もなかった。

皇帝の言葉の真意。それを思い知ることになるとは。



――――――――――――――――――――――――――――


― 二週間後 ―


俺やアルザス、レイナ、リオデシアは青年学校へと戻った。

無論、学校全体からヒーローのような待遇を受けたさ。


バスキー商会の圧力にペコペコしていたハゲ学長も、俺たちの功績を『本校の生徒』のレッテルと共に鼻高々と喜んでいた。クソ学長が。


全ての元凶であるバスキーも、今までの横柄な態度を少しばかり緩めたらしい。

俺やレイナ、クリスとの殺し合い。そして魔石龍との戦いを経験して、人として変わったに違いないさ。


クリス・ラビンスキーには…あれ以来会っていない。



また再び日常に戻るのかと、俺たちみんな思っていた。

これだけ持てはやされていても、一週間もすれば誰だって飽きるだろうと、それも予想していた。

そうすれば何事もなかったかのように、またカリキュラムを進めることになる。


はずだった…。日常を破壊する足音と言うのはいつも突然だ。



― 一学年 講堂にて ―


「―――ッ!ヒューリーズ()とヨースターっ…いるか⁉」


と、叫びながらドアを蹴り破って入ってきたのはバスキーや取り巻きだった。

前にもこの光景見たぞ…。嫌な思い出だ。



「おいおい…こりゃデジャヴか?また喧嘩でも売りに来やがったn…」

「そんな話ではない…‼貴様、これを見たか⁉」



といって俺の席に飛び込んでくるバスキー。

手には何やら文書のような紙を握っている。

随分と高価そうな紙で、公式っぽさがすごい。



パトリシア(レイナ)フリッツ(リオデシア)も来い…。これは帝国議会から、全国の評議大会に参加した学生に宛てられた『国家命令書』だ…!それも皇帝陛下のお墨付きのやつ!」



個人に国家からの命令書?しかも全国の参加学生に…?

どこかに集まれとかそういうものだろうか。と、俺は最初考えた。


文書には次のように記載されていた。




===================================

評議大会を突破した全栄誉国民に命ずる。


帝国は、反逆者による南ヴィクタリアからの悪逆なる侵略に備え、新たに帝国軍主力及び予備軍の増強を決定した。

上記に該当する者は皇帝陛下の命により招集。

予備軍編成においての主戦力として参加するものとする。


剣士・魔術師など能力を問わず招集。医術師等も例外ではない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


====================================




文章はまだ続いていた…。だが俺たちには、それを読む余裕はなかった…。

目の前の現実を、現実として受け入れるので精一杯だ…!



「――なんだよ…これ…⁉」

「これはつまり…徴兵?ということか…?」

「信じられない…まさか、最初からそういうことだったの…?」



…つまりそういう事らしいな。

最初の文言から読み取れること。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…!


評議大会はその戦争に必要な人材…、競い合う中で若い学生を鍛え上げて選別する…!

()()()()()()()()()()()()()使()()()()()…!いわば()()()()だったわけだ‼



「――ッッ⁉ ふざけるな‼俺たちは始めから皇帝の道具だってのか⁉俺たちはその為にあんなことをさせられたのか…⁉」


俺は怒りのあまり、周囲にある物を放り投げ、破壊してまわった。

そうせずにはいられなかった。ずっと続いていた違和感と鬱憤を、暴発させなければ死にそうだった。



「冗談じゃねぇ‼こんな命令誰が従うか…! なぁ!アルザス…、、アルザス?」



怒り暴れ狂う俺に対し、アルザスはとても静かだった。

その表情は怒りも籠っていいたが…同時に使命感にも溢れたような感じだ。

俺はそんなアルザスに同調を求めようとした。



「アルザス…まさかお前、これに従うってのか⁉悔しくないのか⁉」

「悔しいさ…。でも俺の家系を忘れちゃいけない…。俺の家は十三騎士族だ。その血を引く男が逃げれば…どれだけの恥になることやら。」


「…お前散々言ってたじゃねぇかよ!血筋に縛られるのは嫌だって…」

「それでもだよ! そんなガキっぽいこと言ってられる場合じゃないと、俺は思うんだ…。」


アルザスの目は本気だった。

ふと横を見ればバスキーもその取り巻きも、ヴィクトル人はみんな同じ目をしていた。

これが忠誠心だというのなら…それはただの狂気だ…!



「…もういい。お前は兄貴の背中を追っかけてればいいさ! だが俺は嫌だね!」



俺はそう言い残し、全員を睨みつけて講堂を飛び出した。

あまりにも理不尽極まりすぎて、もううんざりだ。


これが、俺たちが命を賭けた一か月の成果。

()()()()()()()だ…。


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