39話 評議大会の終わり
俺の指示が届くや否や一斉に駆け出すバスキー一派。
彼らだって逃げたいだろうし、俺に従うのは不本意だろう。
だがそんなこと言っている場合じゃないとわかっているはずだ。現に従っている。
「アルザス、クリス!もう少しだけ――、ブツが揃うまで時間を稼げ!」
「了解した…! ―――来いよ魔石龍…!」
「残りの魔力全部使うくらいでやってやるよ!」
魔石龍は左に方向転換した。二人もそれに対応するように正面へ回る。
「シャアアアアアアアアアアアア!」 「スパーク プレッシャーッ!」
龍の首へ突撃。しかし効果は薄い。鱗で弾かれたのだ。
即座に飛んでくる右腕、尻尾を回避するため空中で体を捻る。
アルザスは斬り刻み続けた左腕へ、クリスは未だに元気な右腕へ飛び乗った。
腕を伝って胴体上部へと向かい、連携を図る。
「「おるァァァァァッ!」」 再び一撃。しかしうごめく皮膚が鱗を運び、その個所を防御した。
「流石に関節部以外は硬ぇな…!」
「首に開いた傷を狙うぞ…!」
砲撃によって肉が露出した傷に向かって同時攻撃を仕掛ける。
アルザスの雷は最高潮だ。
「スパーク ディープチャージッ!」 「ドルァァァァッ!」
爆雷技の一撃に続き、クリスの重い一振りがアルザスの剣を叩きつける。
二人の撃ち出す力がプラスされ、魔石龍もそれなりの反応を見せた。
『ギャア゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…!』
「そろそろくたばる予兆くらい見せてくれないかね…⁉」
「むしろそうしてくれなきゃ困るよ…!」
『――スンッスンスンッ…グルッ⁉グウウウウ!ギャウウウウウウウウ…!』
周辺の臭いを嗅いだ魔石龍は、バスキーたちが向かった方へ首を向けた。
慌てたようにジタバタと、重くて軌道の悪い体を旋回させる。
「まずい…!龍の子供が見つかったか…⁉」
「これじゃバスキーたちの方へ行っちゃうぞ!物資の収集が…」
「アルザス!クリス!もう少し頑張れ!」
「ヴァルター…!私も…」
「お前は待て。最期の賭けは、お前がいなきゃ俺が死ぬ可能性・大だ。だからその時まで力を溜めろ…!」
―――――――――――――――――――
森や岩穴に入ったバスキー一派。ヴァルターに言われた物、またはそれに匹敵、類似するものを探し求めている。
しかし彼らは、この一か月のほとんどをブラムナス高地の陣地に引きこもって、高みの見物に費やしていた。
そのツケが回ってきたのだろう。
この土地のどこに何があるか、あらゆる物資がどこで調達できるかなんてわかったもんじゃない。
知っているのはせいぜい、斥候の役割ついでに探索も行っていた一部の者だけである。
「――あの男め…!どんな賭けだか知らんが…また失敗したら殺す…!」 バスキーの文句。
「その前に俺たちが龍に殺されるって!」
「ああもう!こんな時に限って食い物しか見つからん…!今はいらねぇよ!」
小さな洞窟に潜って心当たりのある鉱石を探し、林に入り毒草を探し、心当たりのありそうな場所を片っ端から探した。
後方から鳴り響く魔石龍の足音。唸り声。
徐々に迫ってくる死の元凶が彼らの精神力を削り、焦りを積もらせていった。
中には、いつの間にか姿が見えなくなった者もいる。とうとう逃亡者が出たのだ。
『キュウウウウウ…キュウキュウ…』
「静かにしてくれ…!お前の親御さんが来ちゃうだろ⁉」
「――あった‼ベルジェラと、同種の実だ…」
「こっちもデラフレシアがあったぞ…!くっせぇ煙を出す植物だ!」
「――お~い!ドルバミトス見つけたぞー…!洞窟埃っぽい…うぇっ!」
「ブラムナスって…こんなに天然の産物があったのか…。そりゃ魔石龍も住み着くわな。」
「それを俺たちが踏み荒らしたんだ。文句は言えんさ…。」
着々とブツを集めるバスキー一派。彼らが持てる限界まで作業は続く。
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「はぁ…はぁ… 流石に疲れたよ…。」
「アルザス、死にそうなら下がっていいぞ?」 クリスが少々煽り気味で促す。
「バカ言え…! 役目は果たすさ…!」
「いや、流石にもう無理だ…。 お前ら下がれ!」
俺は二人に撤退を指示した。しかし二人は引き下がらない。
こんな時にプライド発揮しなくていいんだよ。
お前らがやられたら有効戦力が無くなる…だから下がってほしいのに!
バスキー一派が行動を開始してから約30分以上は経過した…。
おそらく魔石龍は、自分の子供が彼らと共にいることに勘付いている。
臭いを辿ってそれを追い、移動を加速させた。
二人が片腕を手負いにしてくれて助かった…。動きが鈍くなっている。
だとしても…これ以上の足止めは厳しい。アルザスも限界が近い…。
「――ああ畜生ッ‼俺にもあいつらと同じように力があれば…有効打となる能力があれば…!」
俺は、二人が決死の思いで足止めをしているのにただそれを見ているしかない。
悔しく、とにかくもどかしい。
対人戦ならともかくこのバケモンに対してはライフル弾も通用しない。
俺にできることは…好機がやってくるその時まで耐えることだ。むしろそれだけだ。
その間にも魔石龍は、自身に群がる二人を殺してしまおうと、残った右腕、尻尾を振り回す。
たまに頭を突っ込ませてきて、二人を飲み込もうともした。
攻撃、回避行動共に限界が近い…。
「――あ。ヴァルター、お待ちかねの物が来たよ…!」 背中のレイナが耳元で歓喜する。
「ん?お、おお…!やっと来やがったかバスキー…!」
待ちに待った連中が戻って来た…!
バスキーが先頭に立ち収集した物資を大量にこさえて運んできたのだ。
連中が森から出ると、目の前にはいきなり魔石龍のデカい頭が飛び出してくる。
全員が悲鳴交じりの叫びをあげながら、それでも物資を落とさぬようにこちらへ走る。
魔石龍は地面をぶん殴り、衝撃で岩があちこちに吹っ飛んでいく。それが2名ほどに直撃したが、俺たちにはそんなこと気にしている精神的余力はなかった。
「ほらよ…!言われたものとそれに近いもの、あらかた搔き集めてきた…!」
「――ッ…これだけあれば十分だ! よし…!お前ら脱げ!」
「はぁ…⁉貴様こんな時にナニを…まさか…。」
「…え?ヴァルターちょっとソレは…。」
「お前ら変な想像すんなよ⁉ この大量の物資を包むものがねぇから、服を使うんだよ…!」
こんな状況でR18な展開を迎えそうだったが、とりあえず数人が上だけ脱いで風呂敷のように繋げた。
「…それじゃあ最後の一発勝負だ…!あとは任せろ!」
「ちょっと待て貴様…!」
俺が物資を纏めて立ち上がろうとしたとき、バスキーが険しい表情で俺を留めた。
「貴様が何をするつもりかは知らんが…今度こそ大丈夫なんだろうな…?」
「…わからん!だが、なんでもやらなきゃ死ぬだけだ…」
「俺はな!貴様が死のうがそんなことどうだっていい…!ただな…俺も俺の仲間も…あんなバケモンに無残に殺されるのはごめんだ…!」
バスキーは俺の胸倉を掴んで、強く怒るような感情のこもった声で訴えた。
自分はネストやバイマンの命を奪っておいて…とは思ったが、俺はバスキーの気迫に押された。
俺の目に映る今のこいつは、敵でもヴィクトル人でもない。
ただ生を渇望する、一人の生命体。人間らしすぎる人間だった。
「――いいからてめぇは作戦成功を創造主様にでも祈ってやがれ。みんなに散々命かけてもらったから…俺にもその時が来たんだよ…!」
俺はそう言い残し、バスキーの手をはらった。
「レイナ、行くぞ。魔石龍の真正面に立つ!奴が火炎の発射体勢に入った時がその瞬間だ。」
「わかった…! でもヴァルター…死ぬ前提はダメだよ?」
「…たりまえだ。」
―――――――――――――――――――――――――
俺は魔石龍の正面へレイナと共に向かう。少しでも高度を稼げる場所へ急ぐ。
時間稼ぎをするあいつらが見えたとき、俺は指示を飛ばした。
「スレアムさん!俺の足場を高くしてくれ…!」
「わかった…! 〈サーフェイス リフト!〉」
地面の隆起によって俺たちはある程度の高度を確保した。
次は…!
「アルザス、クリス!魔石龍の首根っこを抑えろ!口が見える位置まで!」
「「おるァァァァァァァッッ‼」」
魔石龍のダメージ部分を重点的に狙い、首の筋肉を少しでも傷めつけようとする。
そうすれば自然と首が下がるはずだから。
アルザスが残りの魔力で雷鳴を轟かせ、その剣をクリスが後押しする。
『ギャア゛ア゛アアアアアアアアアアアアアアア…!アア゛ァァァ゛』
喉元が見える…!口ががら空き…!これを望んでいた!
俺は足場にレイナを下ろし、物資の入った包みを正面に構えた。
「レイナ…俺が合図したら投射魔術でこれを吹っ飛ばせ…!奴の体内に突っ込む!」
「わかった…! このために魔力を溜めてたのね…。」
レイナは足をカクカクさせている。因子量が絶大でも回復は遅いのか…⁉
俺は後ろから支えになり、手をしっかりと握った。
「焦るなよ…。俺が支えてやる…!だからお前はしっかり前を見ろ!」
「――うん!」
お前は今から、一つの命を殺すのだ。
まだだ…!まだ耐えろ…。
俺たちは魔石龍の顔面の真ん前に立っている。いつ攻撃されたっておかしくない…。
その果てしない恐怖を、俺はともかくレイナはよく辛抱してくれた。
次第に、真っ暗だった魔石龍の喉奥が赤く光り始めた。
『グオオオオォォォォォォォォ……… 』
「今だ…!」
「=== フリージング カノン ===」
回復しきれていないとは言え、レイナの力はやはり凄かった。
発射時のあまりの衝撃で、支えの俺が足場から吹っ飛ばされそうになる。
物資の入った包みは、火炎発射状態になった魔石龍の喉を突き抜け…
『―――ッッシャアアアアアア、
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真っ赤な閃光。凄まじい爆風。俺たちは今度こそ足場から吹っ飛ばされた。
いくら魔獣とは言え、あれだけの火炎を噴くなら体内にそういう器官があるはずだと思った。
外部からの攻撃は蓄積ダメージこそあるものの、致命傷にはならなかった。
だから火炎発射と同時に爆弾をぶち込み、内側から暴発させれば…!と、俺は踏んだんだ。
魔石龍の胴体から、まるで火山の噴火のように穴が開き火炎が噴き出す。
一時的に内部からの圧力によって、体が大きく膨れ上がった。
これできっと…
―――――――――――――――――――
『ガァ゛ァ゛グ グググググググ… ――ッギャア゛ア゛ア゛ア゛アアアア』
「なっ⁉こいつ…まだ動くのか⁉ もう体内はグチャグチャだろうに…⁉」
完全に全身が地に着いた。火炎が逆流し、肉体に穴を開けた。
それでもなおこの超生物は起き上がる…。
それだけではない…。
「――おい⁉ なんかスゲェ因子量を感じるぞ⁉」 クリスが驚愕していた。
「あれは…まさか治癒魔術か⁉」
見れば、先ほどからの傷が徐々に回復していく…!
それは主に胴体部や首回りで、手足に変化はない。
一度肉体を鎮めて、重要部位の回復に専念するってのか⁉
「ハハ…まさに完全生物ってやつか…。」
「…何度だって相手してやるよ…!」
一部始終を見守っていた全員が、各々の理性を崩し始めた。
その時だった。
========== エンシェント イラプション ==========
魔石龍の頭部に向かって落ちてくる、炎舞の光。
俺たちは見ていた。それが頭を叩き割っていくのを。
俺たちがそれを、剣だと認識するのは次の瞬間だ。
炎の剣を落とすグレーの軍服を着た男。そして、赤髪。
魔石龍は声を上げる暇すらなかった。
その男はフッと、俺たちの方を振り返ってこう言った。
「遅くなってすまなかったね、アルザス、みんな。」
俺はその男が誰なのか一瞬でわかった。
もはや言うまでもない。アルザスは驚愕と歓喜の声を上げた。
「――ッ兄さん…⁉」
「随分と頑張ったみたいじゃないか…。最期のトドメだけで申し訳ないけど、あとは任せなさい。」
アルグレイ・T・ヨースター。 アルザスの兄で帝国の上級騎士…。
「中隊諸君…!攻撃開始!」
「「「「「「 はっ‼ 」」」」」」
アルグレイの号令で、俺たちの後方から一斉に駆けてきた軍服の騎士たち。
ヴィクタリア帝国騎士軍 グランドル近衛連隊だ…!
既に弱体化していたとはいえ、魔石龍の装甲のような鱗は健在。
それをいとも簡単に貫通させていく、帝国最精鋭の剣たち。
彼らがそれぞれ放つ剣の光は、因子で溢れかえって煌々としていた。
「少々哀れではあるが、その首貰おう。〈エンシェント レイジング〉」
半円を描くように振るわれた炎の剣は、魔石龍の首を綺麗に両断していく。
一瞬だったが、大量の流血と共にその首は落ちた…。
…俺たちが死に物狂いで戦った太古の魔石龍は、突然駆けつけた騎士たちの力によりあっという間にその首を斬られるという、なんともあっけない最期を迎えたのだった。
――――――――――――――――――――――――――
― その後 ―
「兄さん…突然どうしたんだ? どうして近衛連隊がわざわざ…」
「そんなの、太古の魔石龍が現れて、君たちがその現場にいるからに決まってるだろう。」
続々と到着した後続の兵士たち。
技術者、学者なども交えて魔石龍の死体を調べ始めた。
ほとぼりが冷めた頃にやってくるとはなんて奴らだ。と、俺たち全員が憤りを感じていた。
しかしそれはさておき、俺たちはアルグレイに聞きたいことが山ほどある。
「お兄さん、俺たちはこの帝国軍がブラムナスの土地に入らず、手前で様子見をしていたことを知っています。装備も魔石龍を意識したものとは思えません。なぜこのような行動を…?」
「うん。実は…私もよくわかっていないんだよ。ここに派遣された軍は、今言った場所で進軍を停止せよと命令を受けていたんだ。それも、帝国首相、宰相から直々の命令でね。」
「それじゃあなぜあなたは…というより、近衛連隊はここに?あなた方が命令無視をするとは思えません。」
「この中隊は、私やシュタウゼン大佐の独断でやって来たんだ。本来、近衛連隊は派遣される軍に含まれていない。それなら命令違反にはならないし、そもそもそんな命令はおかしいからね。」
なるほど。シュタウゼン大佐の上手い判断という訳か。
流石…、現場を重視する偉い人は違うな。
「あなたの独断は、弟がいたからですか?」
「それもあるけど…そもそも我々じゃなきゃ魔石龍は殺せないと思ったからね。
でも、君たちはそれをやってのける寸前だった…。よく頑張ってくれたよ…。」
だが俺たちは、近衛連隊が駆けつけてくれたから助かったようなものだ。
あの帝国軍の行動は、下手すれば俺たちみんな死ぬところだったんだぞ…?
そういえばエミリオは言っていた…。
「俺たちはハメられた」「不都合な真実を揉み消す」と…。
まさか帝国は…俺たち全員を見殺しにするつもりだったのか⁉
魔石龍をこの地に留めておくために、俺たちを撒き餌に使ったのか…⁉一体何が真実だ…⁉
「とにかく、後の事は我々に任せて。負傷者も大勢いるようだし、統計を取らなくては。さあ、帰ろう」
「――ッ!帰るってことは…、」
「そう。こんな事態にもなってしまったが、今日で評議大会は終了だ。」
そうか…終わったのか…。命懸けで完全に忘れていた…。
一度死んだ身とは言え、二度目は俺も勘弁だ…。
それを乗り越えたという安堵感と、何とも言えない虚しさに襲われる。
今回の帝国の行動には謎が多すぎた…。
評議大会が終わり、俺は帝都に帰って、…何をすべきか。
やるべきことはたくさんあるが…まずは死んだ奴を弔うとしよう。




