37話 賭けの期待
『―――グオオオオオオオオオオオオオオォォォォ…』
「…で?なんで貴様らはこんな所までわざわざ来た?」
「ポジション取りだよ…!」
俺は今、低地でバスキーと合流したところだ。
バスキー一派は総勢40名の所、残っているのはおそらく20名強らしい。
死んだ奴のうち約10名は俺やクリスがやったが、残りは魔石龍にやられたそうだ。
俺、レイナ、砲撃術師の4人は纏まって魔石龍の右側面でバスキーと合流。
クリスやアルザス、ダイン、スレアムは左側面に回った。
一応これが作戦であり、双方で何か非常事態があれば信号弾を出す手筈になっている。
そんな俺たちを見てバスキーは非常に嫌みな顔をしている。
「俺んとこの魔術師を取り込んで…皮肉でも言いに来たのか?金で雇ったという事実をいじりに来たのか?…ふんっ、みみっちい男だな。」
「…んだとぉ⁉ その言葉、お前にだけは言われたくねぇな!」
「ヴァルター…今は口喧嘩してる場合じゃないって…!」
おっといかん。バスキーの顔を見たらついムカッと…。
「バスキー、どうやら俺たちがこのデカ物から逃げることは大層難しいことらしい。だからコイツを討伐か、せめて足止めでもして時間稼ぎをすることになった。」
「このバケモノをか⁉貴様らは頭がどうかしてるのか…⁉」
「うるせぇ!いろいろ考えた結果だ!」
…そろそろ本題を切り出さなくては…。
こんなことをこの男に言うのは癪だが…ッ!仕方ない!
「――だがバスキー、俺たちだけじゃまずどうにもならん。コイツを倒すには人手がいる。…そこでお前らの手を貸してほしい…。」
「……、、、」
今の言葉を聞き、バスキーはしばし反応がなかった。
俺の顔を見て唖然と、なんか考えてるみたいなアホ面だ。
そしてその答えは…
「…断る!」
「よし、そうと決まれb―――ってはぁ⁉なんでだよ!」
Yesが来ると思っていた俺は驚愕した。
まさかこの状況でNOを出してくるとは、誰も思うまい。
「貴様に降参なんて醜態を晒して、そのうえ手伝えだと?俺は貴族階級だ。由緒あるバスキー商会の子息だ。これ以上貴様らの下手に出ることはできん。」
「――てめぇ…!この期に及んでまだそんなことを! 何が階級だ!くだらねぇ!てめぇのそのプライドなんざ、ここにいる命に比べたらクソ以下だよ!」
「なっ…言ってくれるな貴様⁉」
魔石龍が未だ暴れまくる中、俺たちは不毛な言い争いをしている…。自分で言うのもなんだが醜い…!
いや… 全員の危機にプライドにこだわって協力しないこのクズが悪い!
するとレイナが、、、
「お願い…協力して。さもないと私は、あなたを殺す…。」
バスキーの後頭部へ杖を向けている。
魔力は充填済み…軽い氷魔術でも頭が吹き飛ぶ…。
「くだらない感情を守って頭を潰されるか、力を合わせるか。どっちがいい?」
「貴様…やれるもんならやってm…」
「下位民族だからって舐めないこと。少なくとも、私はあなたより何百倍も強い。」
「―――ッッ!ああもうわかった!やればいいんだろ⁉」
脅しが効いたようだ。バスキーは悔しい表情を浮かべているが、レイナも杖を下ろしながら安堵の表情を浮かべている。
やはり命を奪うことは、脅しでも心苦しいらしい。
「…で?そこまで言うなら無策という訳もあるまいな?ヒューリーズ。」
「もちろん。あんたの仲間たちには、アルザスやクリスと一緒に魔石龍の左側面に回ってもらう。できる限り注意を引け。」
「わかった…。それで貴様らは?」
「大人数で左に注意を向けている間に、ガードが疎かになった右から集中攻撃する。火炎を発射されたら全力で逃げてもいいぞ。」
「わかった、というか逃げるわその時は。…では指示通り、俺も左側面へ移動しようか。」
「頼んだぞ…!」
バスキーは右側に残っていた仲間を引き連れて、アルザス達が控える左側へと向かっていった。
俺だってバスキーと協力なんざしたくない。だが、やらなきゃ全員ぶっ殺されるだけだ。
俺の作戦だって実質的に賭けで、成功する保証はない。―――死んでも恨むなよ。
「それじゃあ配置に着くぞ。 レイナ、魔術師4人組、行こうか。」
――――――――――――――――――
― ブラムナス盆地中部 魔石龍の左側 ―
「いやぁ…近くで見るとトンデモナイ迫力だなぁ…!」 クリスが余裕そうに感動を見せる。
「これでも100メートルは離れてるはず何だけどね…ちょっと不安になって来た。」
アルザスたちは今用いれる全ての装備、因子を搔き集め、攻撃開始の合図を待っていた。
続々と集まるバスキー一派。彼らは囮とは言え、その疲労にまみれた様相はまるで烏合の衆だ。
魔石龍は動きこそ鈍いものの、腕や尻尾を器用に操っている。
あれを有効活用されれば厄介だ。だから斬り込むならそこ、特に関節部だ。
それをクリスは、幾度となく積んできた魔獣狩りの経験から感じ取っていた。
「しかしまぁ、魔石龍はなんの罪もないのよねぇ。今しがた人を踏み殺したけど。」
「長い間ここで眠っていただけだもんな。その土地を俺たちが荒らした。俺たちは文句言えん。」
「だがなぁ、弱い奴は喰われる。それが世の常。今はそれを実証するだけよ。」
『グオオオオオオオオオオオオオオ…!』 魔石龍が左に展開する彼らを見た。
===空へ上がる赤の信号弾===
作戦開始の合図だ。魔石龍の意識は完全にこっちを向いている。
人知を超えた生物の強烈な瞳孔に、その場にとてつもない緊張と恐怖が走った。
この男を除いては。
「行くぞ…! てめぇらは魔術で援護しやがれ!」 クリスは大剣片手に単身突っ込んでいった。
「あの脳筋め…。スレアムさん!土魔術で足場を作ってください!」
「おうよ…! 〈サーフェイス リフト〉」
土魔術によってアルザスの足元が隆起し、魔石龍の狙い目までの高低差を無くしていく。
続いてバスキー一派も援護を開始する。
それぞれが得意とする属性やジャンルで能力を補い合い、相乗効果を狙っていく。
「全員…魔石龍の頭部を狙え!視界を塞ぐんだ!」
「ブラスト アロー!」「イグナイト ブレス!」 風により威力が増した炎の弓
「ウォーター ウェーブ!」「スパーク プレッシャー」 水と雷により感電を狙う。
「魔術の弱い奴は何でもいい!使えそうな武器を飛ばせ!」
学生たちがカリキュラムで培った知識や技術の集大成ともいえる必死の足掻き。
それが次々と魔石龍の頭部へ命中するが、距離減衰も相まってその効果は微々たるものである。
だが確実に、視界を奪う事には成功した。
「シャアアアアアアアアアアアア‼ 何十匹もの魔獣の血を吸ってきた大剣だ!」
「ゲイルッ! からの… ===レイジング スパーク===」
クリスの大剣が龍の上腕部に突き刺さり、その勢いで肉を削いでいく。
突風で跳び上がったアルザスが、剣技ロードレクイエムの雷で同じ箇所へ突っ込む。
豊富な聖因子をその剣に集中し、通常とは段違いの威力と質を誇る剣技。
高い因子の力を生まれ持った優等民族、その中でも特別な者にしかない剣技。
例えば十三騎士族…アルザスがまさにそれである。
「やっぱりだ…硬い鱗で覆われているのは胴体部だけみてぇだな!」
「畳みかける…スパーク バラージ!」
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼』
「うぉ⁉」 「おっと⁉」
腕に取りついた虫けらを払うように、魔石龍は左腕を振り回した。
その質量から、揺れ動く空気の音が嵐のよう。
しかしそれにも負けじと食らいつくクリスとアルザス。
クリスは一撃一撃が重く、上腕部を走るように大きく肉を削いでいく。
アルザスは雷の速さを生かし手数で重点的に傷を開いていく。
「―――オラオラオラオラオラァッッ!」
「クソっ…!よく暴れる…――って!うおぁぁぁぁぁぁああああ⁉」
暴れる腕の力に耐えきれず、アルザスは振り落とされた。
しかし魔力はまだまだ残っている。それが尽きるまでは手を緩めない…!
「いってぇ…!―――っまだまだァ‼」
―――――――――――――――――――――――――
「よし…向こうはなんとかやってるみたいだ!」
右側面の、少し小高い場所で配置に着いた俺たち。
こちらからも向こう側の様子が見える。
アルザスの閃光も、クリスが斬り刻むたびに上げる血しぶきも。
魔石龍は完全に向こうに釘付けだ。
「こっちもやるぞ…砲撃魔術用意ッ!」
俺の指令に合わせて4人組が魔術具を構える。
それに彼らの因子が集中し、大気にも圧力がかかるのを肌で感じた。
「狙いは体表組織が薄そうな奴の首だ…一か所に集中しろ! ―――撃てッ‼」
「「「「 メディウム カノンッッ! 」」」」
===発射の閃光===
四つの魔力の塊が魔石龍の無防備な首目掛けて突き進む。
===弾着===
爆炎が発生し、空気が揺れる。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア⁉⁉』
「レイナ!続いて撃てッ!」
「聖因子全開…‼ 〈フリージング グレイシャル レインッッ〉」
周囲の水性物質を吸収し、砲撃魔術の弾着部へ飛ぶ。
それが二重効果により氷塊へと変化。氷河の雨を降らせる。
砲撃により燃え上がった部分が氷河により鎮静化。大量の水蒸気が発生した。
しかしこれじゃ終わらない…!俺が真に狙ったのは…
「見えた…!―――やっぱり鱗が破損してやがる!」
砲撃魔術だけじゃ、あの鎧のような鱗は貫通できないと思っていた。
だからこれを狙った!メディウムカノンによって鱗に高熱を与え、そこを氷魔術で急速に冷却する…!鎧とは言え結局は硬質化した皮膚だ。
急激な温度変化によって耐久力が下がり軟質化、運が良ければ剥がすことだってできる…!
と、俺は踏んで賭けたが大方当たりだったようだ。
「もういっちょイケるか⁉」
「言われなくても…! 〈フリージング カノンッ‼〉」
いつもの数倍のデカさで生成したレイナの十八番、氷塊。
エラい質量の氷塊が、軟質化し破損した箇所へ弾道で落下する…!
生物なら体内の主要な欠陥や神経が集まる首は共通の弱点のはず…!
肉体の奥深くまで貫通すれば…!
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア⁉ ギャアッギャァ‼』
貫通を確認!損傷個所から大量に血しぶきが上がる…!
おいおいまさか…本当に勝てるのか⁉
俺の指揮で…?俺たちの力で…?このバケモノを倒せるっていうのか…!
――ッ何が劣等だ…!何が優等だ…!俺は…、、、
「―――ねぇヴァルター…?あれ…本当に効いてるのかな…?」
「え?……レイナ?」
「ごめん…大きな魔術を連続して使ったから…反動が来たみたい…、」
肩を落とし、膝が曲がるレイナ。俺は「しまった…!」と自分を責めた。
俺はレイナの圧倒的な因子量に過剰な信頼を寄せ、その体を無理に使わせてしまったのだ…。
彼女は元々体が弱いというのに…!
そして、レイナの心配をこの目で直視しようと魔石龍を見た。
『――グルルルル…!ギャウゥゥゥ⁉グウウウウウウウウウウウウウウ‼」
「おいおい…マジかよ…!」
それはあまりにも非常な現実だった。
さっきの連撃は、確かに俺の狙い通りに鱗を貫通し、魔石龍の肉体をエグることができた。
それどころか…奴の首からは骨の一部まで見えている…!
なのになぜ…奴はまったく弱っていないんだ⁉ なんならもう出血が止まっている…。
俺はまた淡い期待を寄せたのか…⁉
レイナの因子を酷使して、俺たちで倒しきれると信じて。
始めから賭けだとわかっていても、どこかで何か自分にもわからない自信のようなものがあったのかもしれない。バスキーと同じように…。
『グオオオオォォォォ…!
―――ッッシャアアアアアアアアアアアアアアアア…!』
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「マズい…⁉ お前ら逃げろっ‼」
「「「「 おぅわああアアアアアアッッ⁉ 」」」」
火炎放射が来た…!4人組は一斉に跳び逃げ、俺はレイナを抱きかかえて窪みへ退避した。
――― 一瞬だった。火炎の轟音が俺たちのいる地点を覆い、焼き払っていった。
正直に言って、今の俺は火炎で焼かれていた可能性が高かった。
なぜ焼かれなかったのか。それは伏せた頭を上げ、上を見てみればわかった。
レイナが咄嗟に氷の盾を生成したのだ…!反動が来ているというのに…!
「レイナ…お前なんで…!」
「私のことはいいからさ…早く打開策を考えて…。私の知ってるヴァルターは、他人の事で悔んだりしない。でもいざという時は誰かの為に戦ってくれる…。そんな人だよ?」
お前はそういうけどさ…俺だって強くないんだよ…、。
どうしろってんだ…。
第二章、もう少しで終わりです。新連載の構想もしてます。
励みになりますのでブクマや評価などよろしくお願いします。




