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劣等貴族のレクイエム -訳アリ転生の人生劇- (休載中)  作者: 山海ハルト少佐
第二章 評議大会編
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第32話 不可解な事象

 俺は言った。「まずはバスキーの野郎をぶっ殺そう。」

クリスも言った。「あのクソッたれ共をなんとかするぞ」と。

そういったもののどうするか、具体的な案はそう突飛に浮かばない。

目的は定まっているのに手段がわからないんだ。


「どうするヴァルター。奴らがそろそろここにも来るぞ…。強い因子の接近を感じる。」

「それに火の手も迫ってる…。水魔術で消火しようk…、」

「やめろレイナ…消化したら敵にバレるだろ!お前もバカじゃあるまいし。」


まずは状況整理をしよう。何事もそこから始まる。

俺たちの正確な現在位置はわからないが、奴らと戦ったあの場所が盆地の中心に近かったことから、恐らく端のほうまで逃げてきたんだと思う。

完全に、追い込み漁にかかった魚のような状態だ。

敵の数は恐らく20人前後。こちらは3人。他のメンバーは全員散り散りに。


「問題なのは元々数の多い敵の位置がわからないこと。連中は俺たちだけでなくアルザスたちの方にも行ったはず。俺らが下手に移動すれば、どこで敵の別働と鉢合わせるかわからない。」


本来そのような敵の連中とやり合った所で、並大抵の輩ならクリスとレイナの力で十分に対応できるだろう。無論俺だってこの二人ほどではないが戦える。

しかし現状、そう簡単にはいきそうにない。

クリスは大腿部の負傷を止血しかできておらず、リオデシアと合流しない限りはこの大怪我を治療する手段はないだろう。

よって、全力での戦闘は不可能。これだけでも大きなデバフだ。

次にレイナだが、戦闘経験の少なさが最大のネックだ。

俺も銃の弾薬が尽きてしまえばそれまで。魔術も剣も扱えない俺はお荷物確定である。


さらなる問題は敵の精神状態にある。

連中は本物のエンティオ人を見たうえ、俺たちが連中の仲間を殺したと思い込んでいる。

ヴィクトル人の奴らの…神の名のもとにだかそんなところか、狂信的なバスキーとその麾下は血眼になって俺たちを探している。

見つかれば猶予もなく即戦闘。無駄な殺し合いが始まる。

最悪のパターンは、俺もエンティオ人だという疑いを掛けられた場合。

その場合はここにいる連中を全員殺すか、俺が逃げるか。

しかし前者は選択できない。おそらく、どこかから国の監視があるからだ。


「最も望ましいのは敵と出くわさず乗り切り、アルザスたちと合流すること。ここまで来たら評議大会の勝ち負けなんて二の次、生きることを考える。」

「ただ、それができるかどうかだがな…。」

「そうだね。残りの期間中隠れられるわけがない。もっともこんな状況じゃ…大会運営のほうからお咎めを打診してほしいものだが…。」


「エンティオ人を見つけた、それを正義のヴィクトル人学生が排除した。つまりこれは正当な行為。…そんなところじゃない?結局私たちなんて…。」


レイナの考え。全くもってその通りだと俺も思った。

ヴィクトル人には、自身の教えに則ることはどれだけ残虐で非道徳的ない行為でも正当化し、それを道徳の模範とする性質がある。

それが顕著に表れるのが階級社会であり、その社会がバスキーのようなクソ野郎を生み出した。

この世界はそのクソみたいな構図で出来上がっているんだ。


「ヴァルター、なにか策は無いのか?もうこんな状況はお前の頭に頼るしかない。俺は頭よくねぇから…力づくの役目ならなんだってやるぞ。」

「その脚でか…?笑わせるな。 まぁしかし、戦力的不利を打開するにはそれに見合う戦術と奇策が必要だ…。」


俺は腰のポーチから地図を引っ張り出し、広げる。

こんなにじっくりと地図とにらめっこするのは久しぶりな気がする。

とは言えそれほど日数は経っていないはずだが…それほど激動の日々を送っていたという事か。


「敵はアルザス達を追って分散しているはず…。むしろそれが厄介だ。敵が一か所に固まっていれば、一気に殲滅するチャンスが生まれるかもしれないのに…。」

「ってなると…どこかに誘き寄せるとか…?」

「だとしてもこっちだって火力が足りん…。仮に敵が纏まったとしても…、」


俺の脳内地図では、軍勢の凸型駒が乗っている。青い俺たちの小さな駒、赤い敵の複数の駒。

それらが様々な行動パターンを模索し、くねくねと動く。

そして記憶の果実を絞り出す。

何かこの状況に似た話を前世で聞いた覚えはないか。

前世で得た知見を活かせないか。


「…ゲリラ戦術かっ…!」

「ゲリ…ラ?腹でも下したのか…?」

「それは下痢だ。」


数で劣る者たちが、巨大な軍勢に対抗できる唯一の手段、ゲリラ。

ゲリラ戦術と言えば民間人に扮したりジャングルに潜んだりして奇襲するのが有名だ。

その中でも落とし穴や地雷、井戸に毒を入れたりするやり方もある。


「これなら…隠れながら少しずつ敵を削ることができる…!そこにとどめの一発さえあれば…。」

「よくわかんないけど…具体的に説明お願いします。」


レイナとクリスに、地図をよく見るよう促す。

指でなぞるように、俺の想定プランを示していく。


「まず、この森林地帯のごく一部に敵を集中させたい。そのための陽動を行い、敵の注意を引く。

そこに簡易的な罠を設置して、敵を釘付けにする…!

そして仕上げは…。」


俺はポーチをごそっと持ち上げ、中の星硝石や毒ガス弾を見せた。


「俺が持ち寄る科学兵器で、纏まってくれた敵を一気に叩く。こういう兵器は対処法が少なからずあるんだが…奴らはそれを知っているはずがないからな。殲滅できなくとも大混乱に陥るだろう。」

「おぉ…。それでもし倒しきれなかったり、別動隊が駆けつけたりしたら?」


「もちろん考えてある。その時は…ここだっ…!」


俺は思いっきり地図のど真ん中を指でど突いた。

ブラムナスに来て最初に仲間たちに支持を出したとき、その時もここを指さしていたはず。

一周回って帰って来た。


「このブラムナスの中央に流れる二本の河…。仮名称はアルファ川とベータ川だったか。

残りの敵はここに誘い込む。」

「河…?水魔術でも使うのか?」

「もしくは私の氷魔術を生かせる場所…。」

「おぉレイナ!ご名答だ!」


そう。まさに俺のプラン最終フェーズは氷がキーワードになる。

確か世界一有名なあの将軍兼皇帝が、そんな戦いをしていたのを映画かなんかで観たんだ。

我ながら奇策を思いついたもんだ。これなら火力不足を補えるじゃないか。

それに、奴らの狂信性を逆手に取ってこその作戦でもある。


「時間も惜しい、まずは下準備だ。敵に行動が気付かれにくい、夜明け前までに済ませるぞ。

上手く言ったら…あいつらと合流だ。 …みんなで帰ろう。」


そうだ、みんなで帰る。あいつらには、ここは似合わない。


「そうだな。ヴァルターと嬢ちゃんが帰る愛の巣を、あおの野郎どもに邪魔されるわけにゃいかんしな…!」

「そうだね!……って、え?」

「あ、愛の巣…?誰と誰の…、」

「ん?お前ら二人のだよ。 …お前ら恋仲なんじゃねぇのか?」


おっとぉ⁉ お前は何を言っているんだ


「な、なんでそんな話にっ…⁉」

「だって嬢ちゃん、ヴァルターに言ってたじゃねぇか。『一緒に生きよう』って。」

「え?あれってそういう意味で…?レイナお前、結構ませてんなぁ…!」

「い、いや違っ…あれはそういうんじゃあ…!」



――――――――――――


― 帝都行政区 帝国宰相執務室 ―


―――コンコンッ

ドアがノックされる音。来客だろうか。

ボルザーク宰相は背広の襟を整え、デスク周りを整頓している。

普通来客の場合は、執務室付近に立っている衛兵が取り持つはずだから、まず安全な来客だと言えよう。


「宰相殿。 評議大会監察官殿がお見えになられました。」

「監察官が…?こんな時間にわざわざ訪ねてくるとは、よほど急ぎの用事か?」


現在帝都は日没を迎え、完全に夕食時である。

中心部の往来は日中の婦人らや子供から、背広を着た仕事男に変わっている。

馬車が引くのは荷物ではなく、ディナーへと向かう男女である。

そのような時間に突然要人が訪ねてくるのは、宰相にとって珍しいことであった。

間違いなく評議大会、彼の担当地区であるブラムナスでに状況推移か。


「衛兵、通してくれ。」

「――失礼します、夜分遅くに申し訳ありません、宰相殿。」

「これから一度外に出ようと思っていたが、まあいい。何があった?」


監察官は手に下げた魔獣の革製カバンから書類を取り出す。

指先が乾いて上手くめくれない様子。


「…緊急の、極めて重要な報告が入りました。」

「そう怖い顔をするな、君らしくもない。一体どうしたというのだ。」


監察官は一呼吸置く。そして、記録に示された事実を伝えていく。


「順を追って説明しますと、本日ブラムナスにて、ヴァルター・ヒューリーズ率いる一派とクリス・ラビンスキーが激突。ヒューリーズの巧妙な作戦により、ラビンスキーは敗退しました…。」

「ほう…、意外だな。」

「ですがその後に、ブラムナス高地を出たバスキー一派が乱入。…その過程で、あってはならない事実が判明しました…。」


監察官は一度唾を飲み込んだ。喉が異様に乾いている。

職務上、上司の顔色を窺う際に生じる現象だと、彼は感じている。


「バスキー一派が捕らえたラビンスキーの手下と思われ志少年がおり、その少年は…エンティオ人でありました…!」

「…っなんと⁉()()は確証を得た事実なのか⁉君の鳥はそれを見たのか!現場の学生らはそれを見たのか…!」

「私自身も獣視術で確認しており、現場にはヒューリーズ、バスキー、ラビンスキーやその他大勢の人間がいました。全員、劣等の紋様を確認しています…。」

「…そうかぁ…。」


慌てて監察官を捲し立てた宰相は、そのままデスクにもたれ込む。

顔色も悪く、焦りの冷や汗が垂れる。


「確認できた劣等人はそれだけか…?」

「ええ。直接確認できたのはその少年だけですが、関係性から見てラビンスキーもそうである可能性を考慮すべきです。参加申請の中にはその少年の事は記載されていませんでしたし、存在を隠していたものと思われます。」

「…して、その少年はどうなった。」

「その場でバスキーの仲間により排除されました。」

「そうか。それならよい。」


一度冷や汗を拭い、おどおどした手つきでデスクの葉巻を一本取る。

煙で冷静さを保つためであろうか。細いマッチ棒を一本取ろうとするが、指先がおぼつかずうまく着火できない。

面倒になったのだろう。「イグニッション」と一言唱え、煙を蒸かした。


「それと、その少年が絶命した直後なのですが…不可解な事象の発生を確認しました。」

「不可解な事象…話したまえ。」

「少年を捕縛していた複数人が少年の絶命直後、不自然な死を遂げたのです。私も見ていましたが…急に倒れ込んでそのまま…。彼らが再び目を覚ますことはありませんでした。」

「ッッッ…!」


一瞬、宰相の葉巻を握る手が力んだ。

煙の吸引が止まる。口内の煙を吐くのは非常にゆっくりだった。

腹に緊張のようなものが溜まった時の吐息のようだ。


「倒れた者たちには外傷も毒を盛られた形跡、それどころか外部からの攻撃も確認できず…唐突にこと切れたのです。」

「そうか…。」

「宰相閣下、このような事象は聞いたことも無いのですが…宰相殿はなにk」

「監察官…!私がそのような馬鹿げた話に興味を示すと思ったのかね⁉」

「いえ…そのようなことは。…宰相殿?」


急に立ち上がって声を張り上げる宰相。監察官の質疑は遮られた。

手に持った葉巻は、完全に握りつぶされている。

明らかな動揺を監察官も感じ取った。


「今はそのような非現実的な報告より考えるべきことがあるだろう…。」

「…と言われましても、現地にいるわけでもない我々は何をすれば?」

「正統なる評議大会の場に劣等が紛れ込んでいたと…。この件が帝国議会に、ましてや皇帝陛下のお耳に入れば…!  監察官、君もよくわかるだろう…?」

「ええ…。皇帝陛下のお怒り具合や臣下からの野次を考えて、少なくとも我々と関係者は罷免されるでしょうね…。」

「その通りだ。であればすべきことは一つ。現地にいる劣等を見つけ出しこれを排除すること。それと、その『変死』については報告しないことだ…!以上。」


早口で指示を出す宰相のその剣幕に、監察官は呆気に取られてしまう。

意見する暇もない。否、与えられないのだ。

明らかに、宰相は何かを忌避している。


「…承知しました。直ちに本件の対処案を検討します…。」

「最後に監察官…、君は優秀な政府官僚だ。だが!()()()()()()()()()()()ぞ…。以上だ。」

「…わかりました。失礼いたします。 皇帝陛下万歳!」



監察官の退出を確認した宰相は、細々とため息をつく。

燃える葉巻がデスクを焦がすが、そんなこと眼中にもないほどに不安を感じていた。

それが身の保身か、はたまた別の何かか。

それは本人にしかわからない。


「まさかディタレンスがここで起こってしまうとは…。それを見た者も大勢…。大がかりな粛清が必要かもしれんなぁ。」


彼が見つめる先にあるのは、皇帝バタリオ二世の肖像画であった。

その下にはこう記載される。

『わが民族と帝国の為、いかなる行いも忠義の為』


―――――――――


― ブラムナス  ヴァルター ―


反射面陣地よし。トラップよし。誘因作戦準備よし。

プランの見直し。

見直すとは言ってもこれ以外に作戦なんて思いつかないわけだが。


「ヴァルター…来るぞ。大人数の因子を感じる…!」

「よしよし…頭のおかしくなった連中はまんまと引っかかるぞ…!」

「……、、、」

「レイナ―、寝るなよー。」


間もなく夜明けになるわけだ。

連戦後で不眠不休の俺たちなわけだが、三人そろってよくやっていると思う。

というか俺たちにも時間の余裕がないわけで。

休みなしでいつ戦うんだって?今でしょ。


魔力感知だけでなく、足音や話し声が聞こえるまで敵は接近した。

戦略目標は一つ。

『連中の主力を一気に殲滅し、仲間たちと合流する』


「レイナ、クリス。俺は常に諸子の先頭にあり、だ。」


励みになりますのでブックマークやポイントなどよろしくお願いします。

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