第28話 上流権力と底流
――爆発…!
一瞬何が起こったか見当もつかなかったが…間違いなく爆発だ。
ショックで頭がこんがらがっている…!
規模はわからない…。だがなぜ爆発が…⁉
「おい…無事か?」
「いってぇ…。」
吹っ飛ばされた俺とリオデシア。
しかしクリスの巨体がクッション代わりになって助かった。
そのままこの大男に支えられて立ちあがる。
…ケガはない。リオデシアも…みんな無事なようだ。
頭が状況に追いついてきた時、俺の視界は徐々に眼前の情報を認識する。
気付かなかったが既に日が落ち始め、辺りは暗くなり始めていた。
その暗さがあり、状況認識がしずらい。
まず、人間サイズの穴が開いた地面。焦げた草。そこから立ち上る煙。
クレーターは見たところ二つ。よって爆発は二か所。
サイズ的に小規模ではあるようだが、人に当たればタダじゃすまない…。
「ヴァルちゃん、これって…、、」
別のクレーターを見ていたアルザスが俺に激しく呼びかけた。
なんだ。一体なんだってんだ。
パッと見じゃわからんが…、
「この感じどっかで…?」
まさか前世の死に際を引きずってるなんてことは…ないはず。
だがそんなことを考えている暇はなかった。
クリスの視線がまた上を向いたとき、
「…!また来るぞ‼」
「全員散開しろッ…‼」
夕焼けの空から、赤い何かが降ってくる…!
二、いや三つ…!明らかにヤバいものがこっちに急降下してくる…!
意味不明な混乱の中、俺とアルザス以外は状況が呑み込めていない。
とにかく何も考えずに散るしかなかった。
着弾――。
小規模でも爆発は爆発。
烈火の炎と瞬間的な激しい光。その光が俺の視界を再び塞ぐ。
しかしこれでなんとなくわかった。わかったというより思い出した。
「これは…砲撃魔術か…⁉」
「そうだ…あの時、リオデシアを拉致した男が最後に放ったやつ…。」
少なくともあの時の奴よりは威力は弱い。…若干。
だとしても直撃か至近弾で良くて全身火傷、悪くて死ぬ。
しかも一度に二発…、、いや三発に増えた。
「狙ったかのようなタイミングでこの集団的なやり口…。
嫌な予感がする…!」
クリスにを倒して、そのジャストなタイミングでこれ。
タイミングがいいんじゃない。相手はこれを狙ってた…。
俺達が潰し合うそのタイミングを…!
そしてそんなことを望む、集団的なやり口をもった輩。
あの野郎しかいない…!
ここに来てからまだ一度も会っていなかったが、そもそもあの野郎が全ての元凶だ…!
「おい!誰か来るぞ…。」
「、、、あいつは…。」
俺の仲間たちは全員、あの野郎を知っている。
野郎とその一味の「上位階級のプライド」と「傲慢さ」知っているか、味わわされた。
卑下され、否定され、野郎の乗った人生レールと比較されぞんざいな扱いを受けた二人もいる。
そして俺も理不尽な理由で、権力を盾にこんなところまで引っ張り出されたんだ…!
ほんと…俺の二度の人生に救いは無いのか⁉
…その矢先。やっぱり野郎は現れた。
人影が見える。一人じゃない。予想通り大人数。
夕焼けとブラムナス高地を背に、その連中は姿を露にした。
ここまで奴らと出会わなかったのは、俺が接敵を避けていたからか、奴らも俺と同じような行動をしていたか。
さっきの砲撃魔術を見てわかるように、とにかく連中は集団行動能力、統率力に長けているようだ。
これが
なんにせよこの状況はあまり…いや、まったくよろしくない。
「久しぶりだなぁ、ヒューリーズ。それにヨースターのお坊ちゃん。」
「…バスキーッ!」
「あの野郎…⁉」
ライドル・C・バスキー。
久しぶりにあのツラを拝んだがやっぱり虫唾が走る…!
アルザスも、ダインも、スレアムも、みんな俺と同じ気持ちで同じ表情だ。
「あんたは相変わらずだな!取り巻きを大勢引き連れてご立派なこった!」
「貴様の態度も相変わらずだな!ダイン、スレアム!お前達も随分立派になったものだな⁉以前は罵倒されたって何も言い返せなかったくせに。」
俺はふと二人の表情を伺う。
…二人とも、青い顔をしていた。ただ単純に敵対心を抱いているのではない。
心の底からの軽蔑と嫌悪感、そして恐怖だろう。
「優秀な人間に取り入って、私を出し抜こうって魂胆か?」
「…あんたらに歯向かえば村八分にされる…、だから俺たちはずっと黙ってた。『上級生だから下級生をしつけてやる』なんて言ってたよなぁ⁉『上が偉いのがこの学校のしきたり』だって‼」
「ああそうだ!その通りの事を言ったまでだ。学長たちだってそれを黙認してたじゃないか。」
「…でも、それは違うだろ?」
「なんだと?」
「あんたの家は学界や社会にも影響を与える大手商社だ…。その御曹司が「しきたり」に準じて、平民層の下級生に厳しい躾をした…!そんなの黙認して当然だろうよ…!」
今まで温厚な態度ばかり見せてきたスレアムが、ここまで取り乱している…。
頭に血が上って顔が紅潮している。もう涙目なんてもんじゃない。
次いで堰を切ったようにダインが叫んだ。
「あんたは自分の身分と家柄をいいことに…古いしきたりを利用して‼俺達を卑下して!罵倒して!格を下げて!自分の立場を上に見せてたんだッ‼俺達は所詮お前らの踏み台だ…‼」
ダインはバスキーだけじゃなく、その仲間全員を指さして叫んで見せた。
どうやら俺は、あの男を甘く観すぎていたのかもしれない。
いや、あの男はという訳じゃない。バスキーはただただ人間らしいんだ。
自分の力を誇示するために他者を貶める。
偉い奴ほど次々と醜くなっていく、まさに人間の性。
前の世界でもこっちでも、そういう一面は変わらないらしい…。
「結局のところ…くだらないプライドか。」
その間にもバスキーは少しずつこちらへ歩み寄る。手にはクロスボウ。
その間、後ろの仲間もぞろぞろと出そろい始める。
こちらの動きを制限するためだろう。四方へ展開している。
出来れば俺もすぐに行動したい所存ではあるが…状況を整理すると、
アルザスは疲労困憊。レイナ、ダイン、スレアムはまだ氷槍のダメージが残っている。
バイマンはまだ動けそうではあるが、彼の能力は不安定でこの状況でまともに機能するかわからない。
リオデシアは論外。
よって、現在稼働率90%以上であるのは俺とクリスだけ。…だが問題点がある。
クリスは既に敗者だという事。これは評議大会である以上ルールが存在する。
敗者が残存者に加担するのはご法度だったはず…。
さっきの砲撃魔術を見てわかるように連中は集団行動能力、統率力に長けているようだ。
これが財力と権力の集大成かよ…。よくできたお仲間
「ヴィクタリアにおいて、生まれの良さも力のうち!力なきものは淘汰される!ただそれだけのこと!ヴィクトル人とクーベルトがいい見本だろう。エンティオは…あれは人ですらないのか。」
エンティオは人ですらない……いつもこれだ!
俺たちはこいつらにそう見られている…。蔑みの対象であることは重々承知だった…!
しかし人間としても見られていないのか。
改めて実感したよ。この世界はクソだってことが。
根本的にこの世界の人間は真っ黒なんだ。
「ヒューリーズよ、大人しく降参しておけ。平民風情に栄誉勲章は似合わん。何度も言うが、俺達はお前のおかげでキャリアを犠牲にしたんだ。その代償を払ってもらう。」
「またそれか…。そんなにプライドが大事か?」
「…その手負いの仲間を抱えて何ができる?魔獣狩りのクリスも一緒のようだが…?」
「…誰だか知らねぇが、俺にも敵対的だってのはわかったぜ。それと…クソ野郎だってこともな。」
確かに、手負いの仲間を連れて連中と対峙するのは得策じゃない。
バスキーの目的は俺が負かされる醜態を拝むこと。
栄誉勲章持ちを負かしたという肩書を欲している。醜い…。
俺が潔く引けば、少なくともぼこぼこにされるリスクはなくなる。
その時点で野郎の目的は達成され、評議大会の決着もつく。
バスキーは俺への警告の最中、ゆっくりと右腕を掲げている。
「俺は余計な殺生を好まない。だからこの一か月間高地で高みの見物をしていた。…だが、その気になれば貴様ら全員殺すこともできる。ここではそれが合法だからな。」
でも、、、ここで逃げるのも得策じゃない。
クリスは仲間とはいいがたいが、少なくとも共通の敵という認識はできたようだ。
向こうの数はおおよそ20人。構図は実質的に2対10…。
勝ち筋は…、、、
「そんなにこのネームバリューが欲しいか…。嫌だと言えば?」
「嫌だと言えば…こうよッ‼」
腕を振り下ろした、、、、、
―――ブラムナス高地の頂上数か所。一瞬の点滅だった。
明らかに光が見えた。バスキーが腕を振るのと同時に。
このタイミングでその条件はアレしかない…!
「来るぞ…!砲撃魔術‼」
「走れぇッ‼」
俺達は両サイドに駆ける。その次の瞬間だ。
――着弾、爆発。
光からわずか2秒ほどで俺たちがいた場所に砲撃が落ちる。
背後からの爆風で少し体を倒されそうになる。それでも走って何とかするしかない。
急ごしらえの勝ち筋だが致し方ない。
俺はライフルを構えバスキー目掛けて一直線に突っ込む。
数的有利を持つ敵に一番有効な手段は…敵将を討ち取ること。
だから真っ先に…!バスキーを殺す!
奴はこのくそったれな世界を具現化したような男だ…!殺すことに何の抵抗も感じないね‼
「イグニッション…!」 点火を唱えた。その刹那、、
「ブラスト ウェーブッ!」 バスキーの取り巻きが風魔術を俺に仕向ける。
「なに…⁉」 ーーーパンッーーー
弾丸は発射された。
しかし風の波によって狙いが反れる。弾丸はバスキーの耳元を通過していった。
耳元を弾丸が掠めて、普通の奴なら怯んでいる所をこの男は微動だにしない…。
その胆力だけは誉めてやろう…!いろんな意味で怖いもの知らずだ…!
「しかし、、この取り巻き共が邪魔だ…!こいつら全員が俺を憎んでるとか本当か…?むしろ正気か?」
見れば見るほど様々な顔ぶれがいる。
こいつらの統率力は素晴らしい。まるで軍隊。これが権力の力だろうか。
しかしそも多種多様な顔ぶれのせいだ。本当に疑わしくなってくる。
その中にはエルフ耳…クーベルトだっているんだ…!
最も、雑兵のような働きをさせているようで…。下位民族への差別か。
「ヴァルちゃん…俺も…!」 アルザスが必死になって参戦しようと立ち上がる…。
「お前は休んでいろッ!できるだけ体力を戻せッ‼」
その会話の間にも俺は足を止められない。
火、水、風の魔術による妨害と、バスキーのデカいクロスボウが飛んでくる。
しかもあのクロスボウは対魔獣とかその辺の殺傷武器。当たったら四肢が飛ぶ…!
しかし後ろに手負いの奴らがいてはこっちも満足に動けない…。
いつ砲撃魔術が降ってくるかもわからん…!
「レイナッ…氷で盾を形成しろっ‼自分らの身は自分で守れ…!」
「わかった… フローズン バウンダリー…‼」
手負いの6人が、形成された氷の壁に隠れる。
これで一旦は…、、
====閃光=====
「うぉ…⁉」
一瞬の出来事で頭が追いつかない。
が、吹き飛ばされたことと目の前に砲撃魔術が落ちたことはわかった。
硬い地面に叩きつけられ痛みに襲われる。
「いてぇ…。ーーークソッ⁉」
頭を打った…。だが首から下、脊髄系がボキッとイかなかったのは救いだ…。
頭部から出血しているようだが…。
「立てぇ‼次が来るぞ‼」
正直もう頭がボヤッとしている…。今のが誰の声かもわからないくらいに。
しかし攻撃は止まらない。俺はライフルを支えにして立ち上がる。
いつもの手順だ。
装填口開き、星硝石、弾丸込め、装填口閉じ、点火。
「イグニッション…!」
「ガッ…!」 訳も分からず撃った弾は一応命中。一人倒した。
装填口開き、星硝石、弾丸込め、装填口閉じ、点火。
もう訳が分からん。
断続的に降り続ける砲撃の火の玉。
俺の姿はさながら、砲撃の中で敵の塹壕に突っ込む、または敵戦列に突撃する歩兵だ。
アドレナリン全開で仲間の声も遠のいていく。
もういっそのこと銃床で連中をぶん殴りたい…!
また降ってくる…!
==爆発==
==閃光==
==爆発==
腹の立つ笑みを浮かべるバスキーのツラが見えた…。
まだ遠い…。




