第24話 再戦突入
― 大会開始から二週間経過 ―
「宰相殿、ブラムナスでの経過報告を持ってまいりました。」
「ご苦労さん、監察官。」
獣使いの監察官は、事細かに書かれた資料を宰相に手渡す。
既に二週間、高レベルの獣視術を使い続けた監察官の目は、疲労に喘いでいる。
聖因子をフル稼働することは、肉体にも大きな反動を及ぼしていた。
「脱落者が多いな…。これは後々響くのではないかね。」
「確かに予定していた補充兵員数には達しないかもしれませぬが、ここで脱落する者は本番でも大した活躍はできないでしょう。使えるとしても、戦列に並べる雑兵と言った所です。」
「ふ…相変わらず厳しい物言いだな、君は。」
手に持った資料をバサッと、デスクの上に放り出した。
老化した視力を補強するモノクルを、カチャカチャと弄繰り回す。
宰相という身でありながら、この中間管理職のような仕事を淡々とこなす。
全権を握るのは首相であり、全てが皇帝陛下のため。
「しかし、他地方の評議から上がってきた報告と比べれば…、こっちの方は質の良い若者が集められそうだね。」
「はい。個人単位での有力者はクリス・ラビンスキーとレイナ・パトリシア。その次がアルザス・T・ヨースターですね。」
宰相はモノクルの次に、鼻下の髭をモシモシと触る。
監察官は手を後ろに回し、指と指で意味不明な動作をする。
「ラビンスキーと言えば、初期の報告で上がった魔獣狩りかね。一人で10人を返り討ちにしたと。パトリシアは魔術師か…。ほう、氷魔法を連続して使いこなす因子の持ち主。」
「パトリシアはクーベルトですが、その中でも特段強い因子を持っているはずです。利用価値は高いかと。」
「三人目は…言うまでもないな。十三騎士族・ヨースター卿の子息だな。この者の兄は確かグランドル連隊所属の大尉だったか。」
「そうですね。兄と同じくロードレクイエムを使用可能ですが、先日ラビンスキーと対峙し、敗れました。」
一通り個人単位の報告を聞こえた宰相。
報告書のページをめくり、説明の続きを求める。
「組織単位で有力なのは、パトリシアとヨースターが属する一派です。率いているのはヴァルター・ヒューリーズという男で、彼らとはバタリアン青年学校の同級生だそうです。」
宰相はそれを聞きながら、葉巻に火をつけ、蒸かし始める。
なんとなく予想していた文面を探すため、ページを一通り眺めた。
監察官の言葉は聞き流す。これも予想できたことだったから。
「例のバスキー商会の御曹司は…組織有力に載っていないのだな。」
「あれは見掛け倒しですよ。資金と数が揃っていただけでいい気になっていた、ただのボンボンです。自身の土俵でしか生き残れない人間は、本番では一兵程度の力しかありません。」
「ハッハッハ!確かにその通りだ!…まぁいいさ。今のうちにたくさん暴れさせておけ。」
フゥーっと、煙を吐く。
その他のページを見開き、留意点などを探す。
報告書を閉じたところで、監察官が手を戻す。
「ブラムナスからの報告は、これで以上になります。残り二週間が楽しみです。」
「ご苦労。下がってよいぞ。」
「では、失礼いたします。 皇帝陛下万歳ッ!」
監察官は敬礼の後、素早く振り返って部屋を後にしようとする。
「ああ、そういえば…、」 宰相が呼び止めた。
「はい?」
「この土地は確か、大昔に魔石龍が住み着いていたはずだ。しかもそいつは。今でもどこかで眠っているという話だが…、それらしい事象が確認されたりせんかね?」
「確かにそんな魔獣がいたという記録はありますが…、仮にいたとしても、人間が何かをしでかさない限りは大丈夫でしょう。」
「それもそうだなぁ…。わかった、もうよいぞ。」
「では。」
今度こそ、監察官は退出した。
――――――――――
― ブラムナス ―
決戦だ。いざ、リベンジの時だ。
恐らく俺の異世界ライフ、初めてのボス戦だろう。
前回ボコボコにされた時、あれはボス戦じゃない。
いきなり発生した緊急イベントだ。
中ボスを経験せずにいきなり大物が来ちゃったけど。
「なあヴァルターよぉ…。」
「はい、スレアム先輩。なんすか?」
「いざ決戦みたいな顔してるけどさ、本当にあの小僧のいう事を信用するのか…?」
ネストは俺たちに、クリスに勝ってくれとわざわざ伝えに来た。
それだけでなく、クリスを攻略する抜け穴の情報を手土産に。
ネストの接触によって、俺達は自分たちから仕掛けることを決めた。
無論、全員がこれをよしと思ったわけじゃない。
現に先輩たちがこれだ。
「何度も言ったでしょ?ネストが俺たちにあんな嘘をつく動機がないんですよ。」
「いやだけどさぁ…、クリスが俺たちを誘き出すための罠ってことも…、」
「俺とレイナ、アルザスが三人束になっても勝てなかった相手です。そんな強者が、わざわざそんな回りくどくて姑息な手を使うと思いますか…?」
「それに…、ネスト君の涙は本物ですよ。大事な人を思っている時の涙です。」
「レイナちゃん…。」
俺の言葉に追記するように、レイナが涙に関して触れた。
経験者の面持ちで。
「大丈夫ですよ、ヴァルちゃんを信じてくだい。それに、今度は立派なプランを用意してある。ヴァルちゃん特製の秘密道具もね。」
アルザス…お前はどうしていつも、タイミングよくジャストなセリフを持ってくるんだ。
お前のそういうところ、俺は評価してるんだぜ。
なんて、本人の前では言えないけどね。
「とりあえずみんな、因子は十分溜め込んでおいたな?」
「大丈夫。全力で魔術を使えるよ。」
いい返事だ。みんないい面をしている。
「リオデシアも、回復術の準備はよろし?」
「大丈夫!全力でサポートします。またアルザスが無茶して骨折した時は、無理やり骨をくっつけてやるんだから!」
「おっとぉ?それは勘弁願いたいが…リオデシアに手当てしてもらえるならそれも悪くない…!」
お前はツッコめてない系漫才師か。
最近忘れがちだったが、こいつの元来の性格はバカでお調子者だった。
俺と一緒にいることで、少し変わったような気がするんだが。
それはさておき、俺達はクリスが現れる予定ポイントに向かう。
ネストは言った。
「クリスを自然な形で誘導するから、その場所で。」
予定ポイントにクリスが現れたとき、アルザスが決闘を申し込んで戦闘開始。
という算段になっている。
無論、ネストは俺たちと内通していることをバレないように。
――――――――――――
クリスは、寝床を隠している森から出てきた。
筋骨隆々とした肉体を、木々の間に通しながら。
「感じる…。強い因子を感じる…。赤髪が来たのか。」
ネストはいつかの晩、走って寝床まで帰って来た。
赤髪の男に見つかって、寝床の近くまでつけられた。
もしかすると、場所がバレたかもしれないと。
クリスはすぐさま確認に向かったが、その男はどこにもいなかった。
「俺の居場所を探る赤髪なんざ、奴しかいねぇ。性懲りもなく挑みに来たのか…!」
感じる因子の力が強くなっていく。
それに呼応し、クリスは一層足を速めた。
「強い…!この感覚は間違いなく奴らだ…!上等だぜぇ…!」
足を速めて数十歩。
視界が一気にパァっと開けた。
森を抜けたのだ。
今日は曇っている。視界はそれほど良くはない。
前に奴らとやり合った時も、去り際はこんな空模様だった。
これは運命が、俺にもう一度戦えと囁いているに違いない。
と、クリスはスピリチュアル風に感じた。
そして脳が視界に追いついたころ。
曇り空の中、目立つ頭が見える。
赤髪だ。あのアルザスとかいう雷剣士だ…!
まだ距離がある。
いきなり斬りかかってくる様子もない。
クリスは距離を維持し、声を張り上げた。
「性懲りもなく再戦とは大したものだッ!俺を斬る覚悟はできたのかぁッ⁉」
「正直まだ覚悟が足りないねぇッ!でも負けっぱなしで終わるわけにはいかないんだよッ!わかるぅ⁉」
「わからないねぇ‼騎士様のプライドってやつかいッ⁉」
「いや、ただの騎士じゃない!ヴィクトル人騎士の代表たる一族のプライドだッ‼」
「……何がヴィクトル人だよ…。なにが優等民族だよ…!」
クリスの最後の苛立ちは、アルザスに聞こえはしない。
「…いるなぁ。一人、二人、三、四、五人。一人は医術師…、実質四人か。」
感じ取る。強い因子のパワーを。
俺とアルザスが斬り合った瞬間、四人が仕掛けてくる。
そうクリスは感じた。
そのくらい殺意の高い因子のパワーだった。
「…まぁいいさ。俺は魔獣狩りのクリスだ…人間風情に負けるわきゃねぇ。お前らにとっちゃ俺なんか人じゃねぇんだッ‼優等なんざ捻りつぶしてやらぁッ‼」
「…こいッ‼」
両者抜剣。
クリスは魔獣との戦いで染みついた、間合いを利かせる構え。
アルザスの剣には雷魔術が宿る。
『剣技・ロードレクイエムッ‼」
「軽いか重くなったか…、味合わせてもらおうじゃねぇかッ‼」




