第19話 予定通り
― ブラムナス高地 展望ポイント ―
始まった。とうとう始まった評議大会。
今大会の参加人数は、総勢150名。
25年前の前回大会が約200名であった為、多少の見劣りはあるが。
いや、そもそも前回が規格外過ぎたのだ。
選りすぐりの秀才を集めて模擬戦をしつつ、陣取り合戦など。
その中には、後の帝国屈指の騎士や、魔法省の大魔術師までいたんだ。
そんな連中が本気で潰し合えば、死人が出て当然だ。
その150人が集ったこの土地を高地の端から見下ろすは、ライドル・C・バスキー。
腕を組み、大股で立ち、ラスボス感満載の佇まいで見下ろし続ける。
否、見下しているのだ。
今か今かと、格下ライバルたちが潰し合いが始まるのを待っている。
この総勢150名の中で、彼らバスキー組の勢力は40人だ。
約三分の一が、彼のの仲間で埋め尽くされている。
既に高地確保というアドバンテージを得た今、ここからの1か月を優勢に進められるのは、間違いなくバスキー組だ。
「バスキー、拠点の設営は終わったぞ。あとは予定まで、ここに居座るだけだ。」
仲間の一人、同じ三学年のテロイが報告に来た。
バスキーの目は、眼下の森林から逸らされた。
「おう。みんなご苦労だった。だがテロイ、居座るだけという程簡単ではないぞ?」
「あ、あぁそうだな。敵も雑魚ばかりじゃないもんな?」
雑魚ばかりじゃない。参加者は各地方の選りすぐりなのに、雑魚。
バスキーはニヤッと小さく笑む。
「フッ…そうだな。北東の領地・エルゴシュタットからの〈クリス一行〉なんか特にな。奴らは強敵だ。数こそ少ないが、一人一人がバケモンだと聞いている。」
バスキー商会は、物理的支援だけを寄こしてくれた訳じゃない。
傘下の商人たちを伝って、情報までを寄付してくれる。
「でもバスキー、君の狙いはそんな強敵じゃないだろう?」
「あぁその通りだ。…あの二人、ヒューリーズとヨースター…!」
バスキーは、今までの余裕そうな声色と表情を変えた。
感情が高ぶる。なんとなくイライラする。
バスキーは気を紛らわすため、無意識に爪を噛んでいる。
「あの赤髪のほうは別にいい…。だがヒューリーズはダメだ…‼」
「本当にそうだよ…。あいつらのせいで、俺達上級生がどれだけ割を食ったと…!」
次第にテロイも、憤りを思い出し始めた。バスキーと同じ苛立ち。
「平民のぽっと出新入生が栄誉勲章…、奴が注目を集めたせいで!俺たちが3年かけて積み上げた実績は霞んでしまった…!」
バスキーが力んだあまり、かじっていた爪がパチンと切れた。
不規則な切れ味の、憎悪の籠った爪はパラパラと舞い落ちていく。
「だからここで、あの生意気な下級生どもを叩きのめす…!そうだよな⁈バスキー‼」
「あぁ!奴らには、栄誉勲章に似合わぬ醜態を晒してもらう‼そして俺たちの実力を誇示する‼」
彼らは志を同じくしている。きっと40人の仲間だって…。
少なくとも、下級生コンビの活躍によって、彼らと同じ思いをした者は、きっと彼らの同志であろう。
それが全員であれば、彼らや同志たちにとってもこれ以上ないほど嬉しく、強固な共同体になるはずだ。
彼らの上級生としての、高い身分のプライドが、全員にあればの話だが。
「生まれの良さも力のうち!この世界で、力なきものは淘汰される!それを奴に教えてやる…!」
―――――――――――――――――――――
― ヴァルター一行 拠点 ―
既に大会開始から2日だ。
俺たちは一応、臨戦態勢で構えていなければならない。しているつもりだ。
しかし見かけだけは、呑気なピクニックである。
草の上で呑気に昼寝してるアルザスとバイマン。
食べられそうなものを収集するレイナに、お花と薬草集めをするリオデシア。
お得意の鍛冶技術スキルで、みんなの武器を手入れするスレアム先輩。
じっくりと地図を見ながら、食事の支度をするダイン先輩。
そして、特にやることのない俺。
だって水源も確保済み、簡易的な家もできた。
ここにいれば、他チームと早々に衝突しなくて済むし。
そもそも7人しかいない俺たちは、こんな序盤から他勢力とやり合ってしまえば後が持たない。
暇なのは、仕方ないことなんだ。うん。
しかしまぁ、今こうして俺が暇している間にも、他の連中は勝利へ向けて有意義な時を過ごしていることだろう。もどかしい。
「なんか…、なにかしないとなぁ…。」
なんてぼやきが出てしまった。
食事の支度をしていたダイン先輩が、俺に言う。
「暇なら、鍛錬の一つでもしてみたらどうだい?因子はあり余っているだろう?」」
「鍛錬ですか。と言っても俺、基礎魔術しか使えませんよ?(かろうじて)」
因子はあり余っているっていうか、元々あんた達より絶対量が少ないんだけどね。
それは内緒。正体バレるヒントになっちゃう。
「あ、そういえば。みんなの能力は表立ったことしか聞いてなかったな…。」
ダイン先輩は完全に手を止め、こちらと向き合って話している。
武器の手入れをしていたスレアム先輩も、こっちの話に興味を示したようだ。
「俺は剣に風魔術の応用だ。スレアムはさっき見たように、土魔術みたいな実用的な魔術を好む。」
次にスレアム先輩が苦笑しながら、
「むしろ、あまり使い道のない風魔術しか使わないもんだから、バスキーに散々卑下されてたよね。ダインは。」
「黙れよスレアム。お前こそ、『帝都の学校まで来て鍛冶屋を目指す土使い』なんて言われてだろうが。」
うへぇ…。二人とも散々バカにされてたのね…。
てかバスキーって、話聞いただけでも予想以上のクソ野郎だな…⁉
まぁ俺も!部屋荒らされたりしたけど!奴のせいで今こんなところにいるんだし!
「あの野郎…!自分が士官学校志望だからって見下しやがって‼」
「まぁとりあえず、嫌な話題は変えましょ?あとは…バイマンかな。」
バイマンは池の畔でアルザスと昼寝している。
呼んで起こそう。呼んで起きないなら叩き起こそう。
「バイマーン!こっち来て話そうぜー!」
眠りが浅かったのか。バイマンは一声で反応した。
だるそうな体をムクっと起こして、こっちに来る。
ついでにアルザスも目を覚ました。
「お前、鳥獣探索が使えるのはわかったけど、あとはどこまで獣を使えるんだ?」
「あぁ…、今は猛獣とかを扱えるように特訓してます…。でも帝都じゃ動物会えませんからね。あまり修業が積めませんよ。」
寝起きの少し枯れた声。ごめんな、起こしちゃって。
「じゃあ丁度いいじゃないか。ここなら猛獣くらいいるだろうし、周りを気にせずじっくり鍛錬を積めるじゃないか。」
「あぁ…、はい。はいはい。」
たしかに名案だ。バイマンの実力を見るのにもいい。ついでに先輩方にも一肌脱いでもらおうと思う。
「バイマン、ちょっとやってみろよ!」 と、アルザス。急に元気になったな。
「……‼いいですよ…⁉折角だしやってみますか‼」 先輩方、アルザス、拍手喝采。
でも…なんかコイツ、ちょっとボケっとしてる?寝起きだから?
ちょっと怖いんだけど。
猛獣とか、扱いミスったら危険なのでは?
「それでは…!ッッッ!」
両手を出して、パンサーニャの時と同じ体勢に。
今回はデカい獣だからか、少々時間がかかっているようで。
集中して、集中して、集中して。
「ッッお⁉かかったッ‼あとは言うこと聞かせるだけ…、、、、ん?」
「、、、、、ん?」 と、一同。その辺にいたレイナも、何かに反応した。
なんだ?何が来る?
あ、なんか聞こえてきた。
これは…足音?それも相当デカい、、、
「バイマンが呼び寄せた奴が来たのか?」
「それにしてはなんか、、、足音が多くないか?一体じゃないぞ。何匹かいる。」
「おいバイマン!めっちゃ来てるみたいだけど、ちゃんと加減したのか?」
「猛獣なんか、一度にいっぱい来たら手に負えないだろ?」
そいつを聞いたバイマンはゆっくりと、俺達のほうを見る。
キョトンとした目で。
え?なに、どしたの?
「…加減、、、いっぱい、、、猛獣、、、野獣、、、へ?」
「え?」 と一同。
全員が、嫌な予感を感じ取った。
そして、自分たちの軽率な行動を悔いることになる。
寝起きで頭が働いていない奴に、こんなことさせるんじゃなかったと。
そして、過酷な自然界の猛獣を、簡単に扱おうとするんじゃなかったと。
「ヴぅッ‼バゥッ‼バゥッ‼」 『ドドドドドドドドド…』
やってきたのは、、、、オオカミの群れ⁉⁉はあぁぁぁ⁉
数は⁉…一、二、三…なんて数えてる余裕ねぇぇぇッ‼
「おいバイマン⁉なんじゃありゃッ‼おいどうにかしろ‼」
「あ、えっと、、、流石にあれは制御不能ですね、ははは。なので、、、みんな逃げてくださぁぁぁぁぁぁいッ‼」
あ!バイマンの野郎!一番先に逃げ出しやがった!
次にスレアム、ダイン、俺、アルザスの順で逃げ出す‼
気分はまさに‼ト〇と〇ェリー‼ んなこと言ってる場合じゃねぇ‼
いやマジでッ‼マジでヤバいの追ってきてる‼
「ちょいちょいちょい⁉あれ捕まったら終わりだよね⁉食われるよね⁉」
「バイマーンッ‼なんであんなの呼んだんだよ⁉」
「あんたらがやらせたんでしょうが⁉そもそも寝ぼけてたんだから上手くできるわけないでしょッ⁉」
「開き直ってんじゃねぇぇぇぇぇッ‼」
うおぉぉぉぉぉ‼必死の陸上走りじゃぁぁぁぁ‼
― その間レイナとリオデシア ―
「うわっ‼…、、、何やってんの…?あの人たち。」
「さ、さぁ…?」
静かに、狼に駆られる俺たちを見守っていた。
――――――――
― 俺達 ―
拠点からだいぶ離れた所まで逃げた。
全員、そろそろ体力が尽きる。
冗談抜きで全員食われるかもしれない。こんなくだらないことで死ぬのか…。
その瞬間。アルザスがクルっと身を返す。
立ち止まって、、、、迫りくる群れに対峙した…‼
「アルザス⁉何やってんだ⁉」 ダインの叫び。
「まさか…!自分が囮に…⁉」 スレアムの叫び。
「アルザス…!お前の雄姿は忘れない…!」 バイマン、お前は一番諦めるな。
「このまま逃げても埒が明かないでしょ‼予備の短剣、懐に入れておいてよかった‼」
アルザスは深く姿勢を落とす。剣を後方にのけぞらせ、、、抜刀の構え!
聖因子を漲らせたオーラが、体から溢れ出す。
短剣に、リオデシアを助けたときと同じ、雷属性魔術が宿っていく。
アルザスの因子に、魔法が強く共鳴しているんだ。
「そこぉッ‼」 一瞬の間に、強く踏み込んだ。
跳びかかってきた狼たちの隙間を縫って、アルザスの短剣が入っていく。
一匹、また一匹。野獣のどす黒い血が、剣を振ると同時に飛び散っていく。
走り疲れてちゃんと見ていなかったが、気が付くと全て片付いていた。
頭部と胴体を斬り離された狼。
腹部を斬り裂かれ、臓物がドロドロ出てきた狼。
斬られ方のバリエーションがとっても豊富。
いらねぇバリエーションだぜ。
「お、おう…、流石だなアルザス…。リオデシアを助けたときみたいで、カッコよかったぞ…。」
しばし立ち尽くすアルザス。血の滲んだ自分の手を眺めている。
そしてゆっくりと、俺のほうに向き合って、
「あ、うん。あの時、カッコよかったんだね、俺。よかったよ。」
あ、この感じは、、、
どうもアルザスは、やはり命あるものを斬る感覚がダメらしい。
前もこんな感じで、『感覚が手に残っている』とかいって萎えてたな。
と言っても、前に斬ったのは人間だったから…主に罪悪感とかだろうけどさ…。
人外でもここまで萎えちゃうとは…。優しい野郎だ…。
「い、いやぁアルザスすげーなぁ‼お、お前ならやってくれると思ってたぜ…‼」
わざとらしくスレアム先輩が取り繕う。
「いやあんた‼早々に俺を見捨てようとしたじゃねぇか‼」
「い、いやでもホント、エライ目にあったもんだねぇ…!」 と、バイマン
「お前が全ての元凶だろ⁉」
アルザス君の渾身のツッコミを聞いたところで、ダイン先輩を見てみよう。
木陰から何かを、遠くを見ている。
「おい、みんなちょっと見ろ。」
なんだなんだと、3人そろって木陰でくっつく。
眼前に広がる光景。俺たちの脳内位置情報が更新された。
「ここって、川じゃん。地図でいうところの仮名称 アルファ川か。」
俺達はいつの間にか、ブラムナス高地から流れる二本の川のうち、左の川まで来ていたようだ。
俺達の位置は、川岸から100メートルほど離れた、少し高い位置だった。
自然と、川を見下ろす形になっている。
そして、、、川周辺ではまさに、俺が予想した通りの状況が構成されていた。
対岸に5人、、、6、7、いや20人前後だろうか。
人間がいる。何が起こっているかと言えば、、、他チーム同士の衝突だ。
――――――
― 対岸の他チーム ―
それぞれが、各々の持ち回りで、自らの役割を全うする。
そうすることで、チームと言う名の組織構造が成立する。
「ふんッ‼ッッッヤァッ‼」 剣士は気迫の声と共に、鋼の剣を振るう。
「ストーム ウォール‼」 後方支援にあたる魔術師が、剣士の突撃を援護する。
強力な風魔法で嵐の壁を築き、風圧を利用し投石。
「おのれッ‼」 もう一方の突撃役も負けられない。槍使いが相手方の剣を弾く。
激しい鍔迫り合い。死線というものに初めて足を踏み入れた時の目をしている。
その仲間たちも、各々の力を引き出し、ひたすら入り乱れて戦っていた。
魔術を食らって動けなくなった者、怪我を負ってリタイア、医術師の所へ下がる者。
これはもう、単なる学生の大会じゃない。
本当に、『学生たちの小さな戦争』
いや、戦争なんて大層なものではない。ただの、、、なぶり合い。
この川岸周辺は、地理的要因から誰もが欲しがる。
ここを抑えきらなければ、後に響くのだ。
最悪、この戦闘で受けたダメージから、チームが立ち直れないかもしれない。
引けぬ戦いである。
『ヒュンッ‼』 耳をかすめる嫌な音。何かが視界を通過した。
明らかに危険なサウンド。思わず背筋が縮まる。
「ッッッ⁉ッグハッアァ⁉」 激痛。肉を抉られた痛み。崩れる体勢
矢だ。矢が、ランサーの肩に刺さった。
魔術師よりもさらに後方からの、アーチャーによる狙撃。
腕が使えなくては、これ以上の近接戦は不可能。ランサーはゆっくり退く。
それを察知した相手の剣士も、攻撃の手を止めた。
ランサーのチームは、戦闘継続不能に。皆が肩を抱え合い退却していった。
勝者に軍配が上がる。この地点は、彼らの縄張りに入ったのだ。
その縄張りがいつまで持つかは、誰にも分らないが、、、。
―――――――――――――
― ヴァルター達 ―
この地点にたどり着いてから30分以上が経過。
あぁ、勝敗がついた。敗北者の背中と言うのは、なんとも見ていられないものだ。
しかし、負けたほうの敗因は結構わかるぞ。
逆に、勝ったほうの勝因も。
前者はあまりにも、チーム全体が前に出すぎたのだ。
遠目で観戦していたが、アーチャーでさえ、ランサーのすぐ後方にいたほどだ。
乱れた戦い方。まったく統制が取れていない。
なんなら歩くのもままならない負傷者が、本来隠れているはずの医術師の下へ、自力で行けるほどの距離感だったんだ。
逆に後者は、剣士は突貫、魔術師は突撃支援、アーチャーは援護射撃と、役割を明確に意識していた。
一人一人の腕前はそこまで高いわけではないが。
いや違うな。アルザスの剣術が鬼すぎるだけか。
とにかく、ああいうチームは強い。
各々に欠点はあっても、それを統制という工夫によってカバーできる。
俺が、劣等人の脆弱な聖因子を補うために、基礎魔術を応用したライフルを自作して、力を持ったように。
さて、ほとぼりが冷めた川周辺を、を4人で仲良く眺めております。
前世日本人の俺の脳内では、あの有名な大歌手の、あの曲が再生されていた。
俺は2000年以降の生まれなので、サビしかわからないけど。
狼の群れからここまで逃げて、他チームの戦闘を見て、いいもん見たなって感じです。
しかし、拠点に女子二人を置いてきてしまった。
いや、拠点と言うより隠れ家のほうが適切か。
早く戻らないと。
でも走り疲れたから、もう少し休みたい。
水流の音、風が草を揺らす音、木漏れ日。
全てがマッチしている今日は、ヒーリング効果が絶大だ。
「ねぇねぇ、みんな。」
大活躍のアルザス君が、俺の袖を引っ張りながらみんなの顔を窺う。
「なんだぁ?また突拍子の無いこと言い出すんじゃ…。」
しかしなんだ、さっきの気持ち悪そうな顔とは変わって、今度はポケーっとした面持ちだ。
これはあれだ。アルザスがバカなりに何か考えたときの顔だ。
脳みそに栄養が行きわたってくれた証拠である。
「さっきの奴らもさ、水を確保したくて戦ってたんだよね?」
「そだな。序盤に生命活動の基盤を固めれば後々困らないから。」
「だからみんな水辺を探すよね?あの二つの川以外でも、、」
「そだね。俺達みたいに、人目に付かない水辺を探す奴もいるはずだ。」
「………、、、」
少し間をおいたアルザス。何かを頭で整理しているのがわかる。顔に出ている。
「俺たちがあの場所を見つけられたのは、ラッキーだったのかな?」
「ラッキーと言うか、獣使いの能力で見つけたんだから、運ではないだろ。」
「てことはさ、俺達以外でもそれはできるわけだ。」
「ソダネ。…ん?」
「人間みんな、考えること同じだよね?噂広めるみたいに。」
「あ、、、うん、、、」
「もしもどっかの奴が同じことしてたらさ、割とすぐ見つかるんじゃない?あの隠れ家。」
「Oh My Gar、、、」
俺たちの落ち着いた口調の会話。
先輩たちもそれに同調する。
「ちょっと待て。今は割と多くの敵が、この辺に集まっているよな…?」 ダイン
「ここは水も食料も確保しやすい、戦略上の要所ですからね…。」 俺
「じゃあ、、もうすぐ見つかっちゃうんじゃ…?」 スレアム
「ま、まさかそんなすぐにねぇ…。一応隠れた場所にあるわけだし…?」
「いや、そんな場所なら尚更、誰だって欲しいでしょう。さっき言ったように、人間は考えること皆同じです。」
唐突なアルザスの気付き。
俺は急に、変な感情に襲われた。
恐怖?不安?自分たちの安息地に敵が来るかもしれないという緊張?
いや、それもあるだろう。だがもう一つ。
自分の完璧だと思っていたプランが、トンだ節穴で破綻するとわかった悔しさ。
いや、そんなものは経験の一つに過ぎない。
そんな失敗なんぞ、あとで挽回すれば済む話。
しかしなぜ、こんなにも『腹が立つ』んだ。
状況の変化は、突然訪れる。
『ドンッ‼』という強い衝撃の音。
『脳が揺さぶられるような、魔法の発動音』
『耳の奥を引っ掻かれるような、鋭い金属音』
間違いなく、これはさっきも聞いたサウンド。
どこかでまた衝突が起こっている。
俺の想定も間違ってはいないようだが、一部補完が足りなかったらしい。
それはアルザスの言ったことで、少しばかり埋められた。
「あ!またどっかでドンパチ始まったか⁉」
「ていうか、隠れ家に女の子二人残してきたけど、大丈夫か?」
先輩2人、状況を察知。
「いや、二人だけはまずいですよ。やっぱりここら、、、というかこの土地の似たような場所には、俺らと同じこと考えてる奴が集まってきてます!」
「じゃああの場所も危ない…‼急ぎ戻ろう。」
三人とも、狼に追われてきた道を折り返し、走る。
俺も彼らの背中を逃す前に、重い足を動かした。
クソっ…‼結局縄張り争いに参加しなきゃならないのかよ⁉
なんでこんな簡単なことに気付かなかった⁈
慢心か?自分の作戦が、生き残る最善の道だと思い込んでいた?
あぁ…、でも俺は知っている。これはあれだ。
『期待』だ。自分と、この先に対する『淡い期待』だ‼
結局、いい方向に転がると考え始めたらロクなことにならないんだ。
だからこうして、惨めで、理不尽な苛立ちを感じる結果になるのだ。
前世でも現世でも、それは嫌と言う程実感しているはずなのに。
― 大会3日目 各ポイントで抗争確認 予定通り
最有力候補 クリス・ラビンスキー ―




