私は私の周りの大事な人しか幸せにしません
聖女を殺したから災害ってネタは以前も書いたな。
「魔女クロ-ディア。お前は真の聖女であるキリアを甚振り、その能力を奪い、王太子である私の婚約者に成りすまそうとした罪は重い!!」
「殿下。あたし…あたし……怖かったです……」
目の前には、王宮の大事な式典でそんな事を言い出して聖女であるクローディアを糾弾する王太子。そして、王太子に守られるように傍にいる侯爵令嬢。
そんな状況になってクローディアは意味が分からなくて困惑するだけしか出来なかった。
そのまま兵士に捕まって処刑されると思った寸前に。
「殿下。それは間違っています。クローディア様の話をきちんとお聞きください」
ととっさに庇ってくれたのは王太子妃教育をしてくださったアシュリー教授。そんなアシュリー教授と共にクローディアの無実を信じてくれた人々はクローディアを庇うが、『クローディアの無実を』もしくは『クローディアが無実だと』
「魔女を庇うか。愚かな者たちだな」
王太子の命令と共に殺される人々。
そして、クローディアは最初に庇ってくれたアシュリー教授と共に串刺しにされ殺された――。
というのが、前世の私の最後だ。
「痛いと思う暇もなかったわね」
串刺しにされた箇所をついなぞってしまうのは仕事の休憩に入るからとつい樹を背もたれにしようと思ってその個所に触れてしまったから。
「なんの話だ?」
「なんでもない。背中の痣が樹にぶつかると変な感じがするかなと思っただけ~」
前世の死因である串刺しの個所は生まれ変わった自分の身体にしっかりと残っていた。最初忘れるなというかのようで怖かったけどすぐに違うと悟った。
「ああ。そういえば、クレアにもあるもんな~。痣が痛むか~そんなの考えた事なかったな~」
幼馴染のアルトが同じように痣のある胸に触れる。
「そんな事で痛がっていたら村のみんなどこか痛みがあるだろう。みんな変な痣あるしな~」
アルトの明るい口調にそういわれればそうだったわねとくすくす笑ってしまう。
私やアルトだけではない。この村の人全員妙な痣が生まれた時からあった。
休憩中に持ってきたお弁当を広げて。
「そう言えば、村の外また地面が崩れているってさ」
「道理で時折、湿った地面の匂いが風に運ばれてくるのね」
二人で並んでのんびり話をする。
「どこかの軍がこの地を攻めようとしたらしいけど、相変わらず透明な壁に守られて入れないとか」
「危害を加えるつもりは一切ない人は入れるのだから攻撃を止めればいいのに」
呆れたような口調で、外から入ってきた人が教えてくれた物語を思い出す。
今から10数年前にとある国の王太子が偽者の聖女とその偽者を庇った者達を独断で処刑した。すると、その聖女は偽者ではなく本物で彼女達が殺されてすぐにありとあらゆる天災が襲ってきたのだ。
天災に襲われなかったのは聖女の家族と聖女を庇った人たちの家族が暮らしている地域のみ。
誰しも、それが天罰だと理解できた。出来てしまった。
天災にあわなかった者たちは何かに導かれるようにある地域に集い暮らすようになった。
まあ、その地域がこの村なのだが。
(死の直前に大事な人たちが殺されるのがおかしいと思ったのよね)
そんなの許せないと。するとそれに神様も同意してくださって、みんなを導いてくれた。
そして、
「神様からの罰だって分かったらやめればいいのにね~」
「だよな。神様に謝って、殺してしまった人たちに謝罪すれば許してくれると思うのに」
自分の親や兄弟がした事であって自分は関係ない。命令した王太子が悪いとか冤罪に持ち込んだ偽聖女が悪いと言っているからいつまでたっても許されないと呟くアルトが気になって。
「許しを請えば許してもらえるとアルトは思うの?」
と尋ねると。
「当然だろう。だって、攻める気ない人は受け入れているし、罪を許すにも反省しないと許せないだろう。第一、いくら慈悲深い聖女様でもそこまでひどいことされたら神様共々罰を与えたくなるだろう」
そんな事を当然のように告げるアルトを見て笑ってしまう。
聖女は慈悲深い生き物だと思っているからこそ反省しない外の者たちに聞かせてあげたい。
アシュリー教授が……みんなが殺されたのを死んだあとに思考が追い付いた。死んだ後というのが変な感じだけど。
だから願ったのだ。彼らの幸せを。
(それでみんな生まれ変わったのよね………)
今度はみんなを守りたい。だからこそ生まれ変わっても聖女の力があるのだけど、その聖女の力を大切な人たち以外のために使わないと誓った。
そう。大事な人たちと共に自分も幸せになるのだとアルトを……アシュリー教授の生まれ変わった存在がお弁当を食べている様を見てつい幸せだと実感して彼の手を強く握った。
村の外は世界の終焉。