第99話 悠久の愛ですわ
世界が無くなった。
私達は虚無の中にいる。
神の暴力はすべてを滅ぼしてしまった。
霧がかった曖昧な空間で、浮いてるのか落ちているのかすら分からずにいる。
たぶん物理法則すら消失したのだろう。
果てのない虚無には他に何もない。
ただ互いの姿だけがくっきりと見えていた。
未だに握る腸に力を込めながら、私は神に尋ねる。
「管理すべき世界を滅ぼした気分はどうでしょうか」
「……貴様を始末した後にいくらでもやり直せる」
「では早く始末してみては?」
挑発した途端、神が槍を突き出してきた。
穂先が私の胴体を貫いて爆散させる。
意識の飛びそうな痛みも今は愛おしい。
些細なダメージは退屈な時間を紛らわせる程度の効果にしかならず、その傷もすぐに再生して塞がった。
私はにんまりと笑う。
神は不快そうに顔を歪めた。
「なぜ諦めない? 貴様は確かに凄まじい力を持っている。しかし、決め手に欠けているのも理解しているはずだ。実力の差ではない。存在としての規格が違うのだよ」
「もちろん存じていますわ。その上であなたをこうして首を絞めています」
「理解不能だ! 頭がおかしいのか!? どうして無意味なことを延々と続けられるんだっ! 嫌がらせにも限度があるぞ!」
怒りに任せて声を荒げる神は、私に対する恐れを抱き始めていた。
一向に首絞めを止めようとしない私に得体の知れない何かを感じ取ったようだ。
そして、この状況がいつまで続くのか分からず不安がっている。
だから顔を近づけて、たくさんの悪意を晒して告げた。
「――私を破滅させた神を永久に苦しめること。それこそが至上の喜びですわ」
神が愕然とした表情で凍りついた。
私はさらに言葉を紡ぐ。
「何十年、何百年、何千年……いえ、何億年でも続けましょう。楽しい根気比べですわ」
「き、貴様」
「怯えないでください。世界にはもう我々しかいないのですから。二人きりで仲良くしましょうね?」
怯える神に優しく微笑みかける。
細かいことは、もうどうでもよかった。
世界が崩壊した以上、私の最後の標的は神である。
力が及ばないのならば、死ぬまで粘るだけだ。
神も私を殺す術を持っていない。
様々な能力を取り込んだことで、私の肉体は人間を超越している。
だから寿命のことも考えなくていい。
じっくりと、丁寧に、殺していこうじゃないか。