第98話 ワールズエンドですわ
首を絞められた神の顔色がだんだんと悪くなる。
しばらく苦痛に喘いでいたが、その表情に余裕が戻ってきた。
やがて凶悪な笑みを浮かべた神は怒鳴りつけてくる。
「神は死なんぞ! 貴様の神格ではとどめが刺せまい! この手が離れた瞬間、貴様を地獄に送ってやる!」
「よく吠えますわね。そういう発言は終わってからするものですわ」
気にせず腸で首を絞め続けようとしたその時、神の手から魔力の衝撃波が放たれた。
至近距離で受けた私は全身の穴から血を噴き出す。
妨害していた生首もダメージを受けて泣き喚いていた。
神は高らかに笑う。
「ははっ、はははははははは! このまま攻撃を続けてやる!」
「ご自由にどうぞ」
「では遠慮なくいくぞッ!」
神が何度も衝撃波を叩き込んでくる。
攻撃は一向に止まらず、朝も夜もひたすら行われた。
私は破壊と再生を往復し、時間間隔が曖昧になりつつあった。
それでも握り締めた腸だけは決して離さず、神の苦痛を途切れさせないようにする。
通算で何度目かも分からない夜明けが訪れた頃、ようやく神が攻撃を止めた。
神は幾分かの困惑を見せながら主張する。
「……しつこいぞ。神は不死身だ。首を絞められたくらいでは死なない。貴様の頑張りは徒労に過ぎんのだよ」
「あら、そうですか。ですがお構いなく」
「いい加減に離せ」
「嫌ですわぁ」
神の攻撃が再開した。
今度は白銀の槍で滅多刺しも追加された。
魔力が切れれば執拗に膝蹴りを入れてくる。
いつまでも折れない私をどうにか殺すため、神は無茶なペースで攻撃を強行する。
苛烈な攻撃の余波で、周囲では天変地異が発生していた。
深淵の闇が破れて荒廃した世界が露わとなる。
極彩色の嵐が踊り、融解した大地から黒いマグマが噴き上がる。
もはや人間が生きていられる環境ではなかった。
この規模の異変が神聖国内……いや、世界全土で発生しているのだろう。
世界は終わりだ。
すべて死滅してしまった。
いつの間にか三つの生首も消えていた。
どさくさで倒れてしまったらしい。
次第に荒れ狂う世界が削れ、剥がれていく。
内側から覗くのは虚無だ。
神の暴力が世界そのものの存在を無に帰しているのだった。
もう滅茶苦茶である。
ジェノサイドルートの仕上げを横取りされたことで、私は少し気分が悪くなった。
ただ、私を裏切った世界が無様に死に果てる光景は痛快だった。