第97話 悪魔の所業ですわ
神が顔を押さえて荒い呼吸を繰り返す。
私が与えた傷はなかなか再生しない。
傷口から肉が盛り上がるも、血が止まらないせいで繋がりづらくなっていた。
本来なら瞬時に回復できるはずだ。
しかし、波長を合わせた私の魔力がある種の毒となって神を蝕んでいる。
思うように力を発揮できない苛立ちや焦りも抱いているに違いない。
(いい気味だ)
私は信仰心を礎にした敵との戦闘を想定して練習してきた。
特に時戻し前の使徒の軍勢には絶対に勝つと決めていた。
もう二度と同じ過ちを犯さない。
その決心と、地道な努力が役に立ってくれたわけだ。
「憐れですわね」
私は前蹴りを放つ。
神はガードできずに吹っ飛んだ。
数キロほどバウンドしながら転がり、何度も建物を崩壊させた末に止まる。
震えながら立った神は勢いよく吐血した。
「ご、はっ」
「信仰心の要である民が絶滅したことで弱っていますわね。ユウトの暴挙が響いていますわね」
「……貴様程度に、全力を出す必要はない」
「負けフラグが立っていますわよ。あと何分持つかしら」
すぐに追いついた私は丸鋸を振り下ろす。
神は白銀の槍で遮り、弾いた。
そして即座に指を鳴らす。
刹那、周囲一帯が暗黒に包まれた。
その中で神の姿だけがくっきりと見える。
神は高らかに笑って突進してきた。
「深淵の闇を呼び出した! これで貴様の力は半分未満に――」
私は槍の一撃を手の甲で受け止める。
皮膚と肉が蒸発し、骨が砕けるも大したダメージではなかった。
私は額のチェーンソーを発射する。
チェーンソーは神の腹に直撃し、本体ごと突き刺さった状態になった。
よろめいた神をタックルで押し倒し、股間を電動ドリルで抉りながら私は微笑する。
「甘いですわね。深淵を呑み干すのが魔女ですわ」
「馬鹿なッ!」
驚愕する神の口に丸鋸を押し込む。
再生できないペースで引き裂きながら、私は自分の腹に指を突っ込む。
そうして引きずり出したのは腸を神の首に回して絞める。
「ぐ、うぅっ!?」
「このまま逝かせて差し上げますわ」
腸を力いっぱい引いて圧迫しつつ、亜空間から三つの生首を取り出した。
それらはリエンが暗殺した主要三大国の王達だった。
生首は憎悪と絶望に浸った表情で浮遊し、神の耳元で怨念を囁き始める。
これは死霊術を使った呪いである。
他者を道連れにしようとする特性により、神の抵抗力を下げるのが狙いだ。
どこまで効果があるか不明だが、ダメ押しの一手としては悪くない。
「ぐおおおおおおおぉぉぉ!」
神が腸で窒息し、生首に呪詛を吐かれている。
実に愉快な光景だった。
本人にとってはこの上ない侮辱行為だろう。