第92話 重たい一撃ですわ
ユウトがじろじろと私を見つめてくる。
すぐに彼は楽しげに指摘する。
「あなたも異世界人ですよね、エルズワースさん! 見た目的に転生者ってところでしょうか!」
「さあ、どうかしらね。よく分かりませんわ」
「誤魔化さなくてもいいですって! 僕にはお見通しですからねえ。似た者同士、仲良くしましょうよ! まあ、あなたのことはすぐ殺しますけど!」
支離滅裂な宣言をした後、ユウトはこちらを指差す。
見開かれた目は血走り、神経質な色を帯びていた。
「おっと、動かないでくださいね! この使徒は僕の命令一つで攻撃を始めます。あなた達なんて二秒で消し炭ですから!」
「じゃあグダグダ喋ってないでやってみろよ」
「あっけなく殺したらつまらないじゃないですか! 僕が受けた屈辱を百倍返しにしないと気が済みませんよー!」
ユウトの視線がリエンに移り、笑いと怒りが混ざった表情になった。
「特に魔術師のあなた! 僕のスキルとステータスを返してもらうまで地獄の苦しみを味わってもらいますからね!」
「上等だ。俺が死ぬ時はてめえを道連れにしてやるよ」
リエンは不敵な笑みで応じる。
使徒を前にした状況でも恐怖や憂いを感じていないようだ。
さすがは世界一の魔術師である。
静かに浮遊するだけだった使徒がゆっくりと動き出した。
左右に大きく羽を広げて、白銀の粒子を周囲に散らす。
威圧感がさらに強まり、対峙しているだけで理性を掻き乱されそうな錯覚を覚えた。
本能的な恐れを抑えねば正気でいられそうになかった。
戦闘態勢に入った使徒を従えるユウトは、昏い眼差しで語る。
「元の世界に帰れないと知った僕は、この世界で幸せに暮らすことを決めました。そのために自分の国を造って、文明を進化させたのに……」
ユウトの口端が引き締まって吊り上がる。
煮詰まった悪意に染まり切った顔は、いくつもの感情で混沌としている。
「邪魔な魔女は駆除しちゃいましょうね」
ユウトが続けて指示を出そうとして、動きを止める。
彼の胸部から白い腕が飛び出していた。
貫手の形で胴体を貫通しているのだ。
引き抜かれた瞬間に大量の血が溢れ出し、ユウトはその場に崩れ落ちる。
「……………………え?」
呆然とするユウトが吐血する。
自分の身に起きたことが信じられないようだ。
彼は震えて背後を振り返る。
天使の片手が血に染まっていた。
『――潮時だな』
そう呟く天使は、目を開いてユウトと蔑んでいた。