第91話 使徒降臨ですわ
私は神経を尖らせて包帯の繭を注視する。
些細な油断から形勢を逆転される恐れがあった。
リエンとレボも同感らしく、その場から一歩も動かずに警戒している。
そんな中、ユウトは必死に呼吸を整えようとしていた。
彼は涎を拭いながらほくそ笑む。
「ハァハァ…………危な、かった……チッ……ギリギリでスキルを、発動できた……」
ユウトが包帯の繭を手で叩く。
そして自慢げに叫んだ。
「どうですか! これが! 僕のスキルで召喚した最強チートの使徒ですざまあみろ!」
包帯が端からほどけて中身が露わとなる。
そこから現れたのは、白銀の光を纏う天使だった。
ベースは目を閉じて眠る美女で、純白のワンピースと羽が特徴的である。
直視するのも憚られる、と思わせる威光に満ちていた。
(あの姿は……)
天使のビジュアルには見覚えがあった。
やり直し前、私を破滅に追いやった使徒の軍勢と酷似している。
数が一体だけで細部の外見も異なるが、同種であるのはまず間違いない。
それを使役するユウトこそが、私が神と仮定した宿敵なのだろう。
(まさかここで遭遇するなんて思わなかった)
私が驚いていると、ユウトが早々に勝ち誇ってみせた。
彼は使徒を撫でながら語る。
「ふふ、言葉を失うのも分かりますよ。こんなに強力な怪物が来ると思わなかったんですよね? 僕だって同じ立場ならゲロ吐いて泣きじゃくるでしょうから安心してくださいよ、ええ」
ユウトはすっかり調子を取り戻していた。
能力の大部分は依然として封じられたままのはずだが、敗北する気は一切ないらしい。
天使だけで片が付くと確信しているのだろう。
ユウトは大げさに肩をすくめて笑った。
「まったく、皆さんにこっぴどくやられたものですから、魔力が大幅に不足してしまいましてね! しょうがないので…………ハハハ、神聖国の民の命を生贄に召喚してみました!」
ユウトの発言を聞き、私は周囲に意識を巡らせる。
生命の反応がなくなっていた。
誰も彼もが等しく死に絶えている。
ユウトの話を信じるなら、彼が何らかの力で生贄にして、代わりに使徒を呼び出したようだ。
「実を言いますと、僕は神聖国の王なんです! 正体を隠して牛耳っていたんですよねえ。つまり王である僕は民の命も自由に使い捨てていいわけなんです!」
「外道ですわね。軽蔑しますわ」
「ちょーいちょい、よりによってあなたが言いますかぁ? すべての元凶のくせに」
口調は軽いものの、ユウトの目は憎悪に染まっている。
限界まで追い詰められたことについて根に持っているようだ。