第90話 異世界人の切り札ですわ
魔法陣を維持するリエンがその場で指示を飛ばした。
「今だ! こいつの力を根こそぎ奪ってやれッ!」
「承知」
そばの瓦礫から人間形態のレボが飛び出した。
レボはユウトに密着して身体を押さえ込む。
よく見ると、接触面からユウトの魔力を吸い取っていた。
それに気付いたユウトが焦った様子で怒鳴る。
「うおっ、やめろって! 何してんだよ! 魔力取るな!」
「汝は滅すべき存在である。魔女の贄となるがいい」
毅然と言い放つレボは躊躇なくユウトの魔力を奪い取っていく。
本来ならチート能力で弾かれそうだが、リエンのハッキングにより隙ができたことで吸収できているようだ。
リエンとレボの連携を受けて、ユウトはほとんど無力化されていた。
膨大な魔力は九割以上が失われ、強力無比なスキルも正常に機能していない。
ユウトは懸命に暴れているが、変幻自在に形を変えるレボからは一向に抜け出せそうになかった。
即興でここまでの戦力を立てるとは、さすがリエンである。
それに完璧な動きで従うレボの反応も上出来だ。
まさか私でも不利になる異世界人すら抑え込めるとは思わなかった。
あとでたくさん礼を言わねばならない。
(そろそろ殺せそうか)
私が判断したその時、ユウトが全身から閃光を放った。
ユウトは激情のままに吠える。
「くっそ、ふざけんなあああああぁぁぁぁァァァァッ!」
次の瞬間、ユウトを中心に砂塵が吹き荒れた。
私は顔を腕で庇いながら踏ん張る。
視界の端に、リエンとレボが吹き飛ばされるのが映った。
衝撃に耐えられなかったらしい。
やがて砂塵が落ち着いて何が起こったのか明らかとなる。
立ち上がったユウトの背後には、包帯に包まれた巨大な何かが浮遊していた。
繭のような形のそれは静かに脈動している。
意識を集中させるも、中身の状態は分からない。
ただ、それが尋常ならざる存在なのは直感で理解できた。
おそらくは冥王と同格……それ以上かもしれない。
吹き飛ばされたリエンが私のそばまで来て、忌々しそうに呻く。
「おいおい、まだこんな底力を隠してやがったのか」
「魔力、測定不能……」
リエンの肩に載るレボも硬直している。
包帯の繭から感じる馬鹿げた魔力の質量に驚いているようだった。
きっと、あれこそが、ユウトの切り札なのだろう。