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第87話 無敵の男ですわ

 半笑いのユウトはぐるぐると肩を回す。

 一見すると隙だらけだが、悪意に満ちた眼差しはそれが演技であることを隠さない。


「あー、僕ってこれでも聖人と呼ばれる身分でしてね? そりゃ当然ながら信仰心を集めてるわけですよ。つまり超強いんです!」


 ユウトが唐突に殴りかかってきた。

 私は両腕をクロスに構えて受け止める。

 刹那、凄まじい衝撃が全身を突き抜けていく。

 その場に踏み止まれず、私は後方へと滑ってしまった。

 拳を受けた前腕は穴が開いている。


 パンチを放った姿勢のまま、ユウトはこれ見よがしに言う。


「まあ僕は信仰心とか無くても最強ですが」


 すぐさま私は突進する。

 治りかけの腕を前に突き出して、そこに冥王の力を集めた。

 ユウトは無防備に立っているだけで何もしない。

 相当な自信があるのだろう。

 私にとっては好都合であった。


(面倒だ。死の概念を押し付けて一気に片付ける!)


 手先から放射された青い光がユウトを包み込む。

 途端にひっくり返ったユウトが情けない声を上げた。


「うわ! うわわわわわぁぁっ!?」


 ユウトが地面を転げ回る。

 その顔は苦しみを訴えるかのように歪んでいた。


「あぎゃー」


 ユウトが四肢を伸ばして痙攣する。

 白目を剥いて泡を噴き始めた。


「たすけてー」


 今度は手を伸ばしてのたうち回る。

 自分で自分の首を絞めて叫んでいた。


「しんじゃうー」


 ユウトは大の字になって寝転がる。

 その頃には声音も明らかに棒読み……いや、最初からそうだったか。

 すっかり落ち着いた様子のユウトはニヤニヤと笑う。


「だれかきゅうきゅうしゃー……なんて、冗談ですけどね。こんなので死ぬわけないじゃないですかぁ」


 ユウトが「よっこらしょ」と呟いて起き上がる。

 その瞬間、私はマシンガンを創造して集中砲火を叩き込んだ。

 数十発の鉛玉が次々とユウトに命中していく。


「あだだだだだだだだだだだ」


 今度は痛がるフリもせず、ユウトは平然と立っていた。

 ただふざけた様子で声だけ発している。

 当たった弾丸はすべてユウトの肉体に弾かれて地面に落ちていた。

 制服はボロボロになっているので外したわけではない。


(ゴーストモードも冥王の力も通用しなかった。一体どうなっている)


 さすがの私も困惑していた。

 ここまで攻撃が意味を為さないとは予想外である。

 案の定、神聖国はとんでもない秘密兵器を隠し持っていたらしい。

 気を引き締め直した方がよさそうだ。

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