第83話 信仰心の奪い合いですわ
リエンが深刻な表情で私に問いかける。
「おい。そいつは一体どういうことだ。神聖国には本当に神がいるのか?」
「厳密には神なのか不明ですけどね。少なくとも冥王と同格以上の超常存在が潜んでいるのは間違いありませんわ」
時を戻す前、魔女として虐殺の限りを尽くした私は幽閉された。
突如、空から天使のような軍勢が現れて、一方的に蹂躙されたのである。
彼らは神聖国の使徒を名乗り、数多の魂を吸って無敵に近かった私の力を尊厳を粉々に打ち砕いた。
もし前世の記憶を思い出していなければ、あのまま発狂して死ぬまで魔力を奪われ続ける運命になっていただろう。
つまり神聖国は、私を破滅エンドに追い込んだ原因なのだ。
乙女ゲーム内では敗北確定のイベント――プレーヤー目線ではフィナーレの勝利イベントだった。
(使徒の軍勢は人間を超越していた。神格に類する力を有していたのは間違いない)
時戻し前の私は、今ほどではないが強大な能力を持っていた。
ところが、使徒には為す術もなくやられてしまった。
しかも使徒ということは、その上の存在を暗に示している。
人間のスケールを軽く凌駕しているのは言うまでもない。
神聖国は未だ謎が多く、何か隠しているのは間違いなかった。
不意に使徒の軍勢に襲われる可能性があるのも、私が正面戦闘で戦い続けない理由の一つだ。
本命の敵の力が未知数である以上、慎重な立ち回りをせざるを得なかった。
破滅エンドは忌々しい記憶なので考えないようにしてきたが、目を背けてばかりではいられない。
いずれ対峙しなければならないのは間違いなかった。
そろそろ腰を据えて向き合うべきだろう。
「マリスが警戒するほどの相手なら、呑気に宗教ごっこをしてる場合じゃないだろ。本格的に対策を練ろうぜ」
「ご心配なく。宗教ごっこが対策なのですわ」
「理解不能。説明求む」
ここでレボが発言した。
私は二人に向けて説明を行う。
「神聖国では信仰心が力になるという教えがありますわ。実際、民から敬愛される者の魔力は強い傾向にあります。それが神ともなれば、想像を絶する力へと昇華されるのですわ」
「それが宗教ごっこと何の関係があるんだ?」
「考えてみてください。信仰心が他宗へ流れてしまった場合、集まった力はどうなるでしょう」
私が問いかけると、リエンがハッとした表情になった。
彼は不敵に笑って答えに辿り着く。
「――邪教の繁栄が神聖国の力を削ぐわけか」
「ご名答ですわ。だから宗教ごっこにも意味があるのです」
邪教を広めて神を落とす。
それこそが私の狙いだった。