第74話 終焉の魔女ですわ
アレムは優れた魔術師だ。
乙女ゲームの時も成績優秀で、オリジナルの魔術を発明して周囲を驚かせていた。
戦闘能力も高く、ルート分岐によっては派手なバトルを演じていた男である。
私の推しではなかったが、キャラ人気投票ではそこそこ上位にいたと思う。
キザで自信家、しかし一途な面が好印象なのだろう。
そんなアレムは、ジェノサイドルートの影響で神聖国の特殊部隊の兵士になったらしい。
銃型の杖も彼の発明なのだろう。
世界が狂い続ける極限状態において、さらなる才能を開花させたようだ。
そして今、私の侵略を止めようとしている。
(逃がすと面倒だ。ここは全力で抹殺する)
私は冥王の力を拳に集中させる。
消耗は大きいものの、これならば防御魔術を無視して殺せる。
仮に生き延びたとしても、地下空間の崩落に巻き込まれれば無事では済むまい。
リエンやレボにも被害がいくが、まあなんとかするだろう。
私は掲げた拳に力を込めて、全方位に死の概念を解き放とうとする。
その寸前、アレムの声がした。
「おっと、そうはさせないぜ」
動かしかけた腕を狙撃された。
暴発した死の概念が不規則に拡散し、激戦を繰り広げるロボット達が次々と墜落して連鎖的に爆発する。
今のを当てて妨害するとは、恐るべき射撃技術と判断能力である。
壊れた機材の陰からアレムが姿を見せた。
彼は芝居がかった口調で指摘する。
「世間は君のことを終焉の魔女と呼んでいる! ゾンビも冥界の侵蝕も魔女のせいだと言われているぞ!」
「あら、すべてお見通しだったのですね。恥ずかしいですわ」
「……こいつは骨が折れそうだ」
アレムが銃撃を浴びせてくる。
私は拾い上げたロボットの部品で防御した。
冥王の力を浪費したせいでまたもガス欠気味だった。
マシンガンを創造して撃ち返すも、アレムは素早く身を隠してしまう。
どこからともなく反響するアレムの声は、自信と私に対する挑発に満ちていた。
「神聖国は君を世界災厄に認定して、様々な対策を用意してきた。封じられてきた禁術を解放して文明を加速させたのさ! どうだ、すごいだろうっ!」
「世界観を無視した兵器ばかりなのも納得ですわ。よくやりますわね」
「それだけ上層部が君を警戒しているんだよ!」
また狙撃が飛んでくる。
胸を撃ち抜かれた私は、血反吐を垂らしながら倒れた。