第73話 推し以外はいりませんわ
ミサイルの連打で前方が爆炎に包まれる。
常人ならば即死であろう先制攻撃だ。
ところが、噴き上がる黒煙の中で動く気配があった。
地を這うような姿勢で飛び出してきたのは攻略対象のアレムだ。
全身に防御術式を張って抜け出したらしい。
アレムは姿を見せたと同時に発砲してきた。
弾丸状の魔術が連続で放たれ、私の肉体に風穴を開ける。
被弾箇所の肉が弾けて多量の血が流れ出していた。
しかも再生阻害の術式でも組まれているのか、なかなか穴が塞がらない。
もっとも、物理的なダメージでは私を殺せない。
いくら傷付こうとも、魂を増殖させれば自我を維持できるからだ。
(私の能力をよく調べているようだ)
口から出た血を手の甲で拭う。
走り抜けたアレムは工場内の隙間に駆け込んで居場所を誤魔化してしまった。
魔力を探知しようにも、あちこちでロボットがぶつかり合って破壊も爆発が起きているので反応が乱れ切っている。
アレムも息を潜めているはずなので、ここからピンポイントで見つけ出すのは大変そうだ。
どうしたものかと思っていると、銃声と共に後頭部に衝撃が走った。
手で確かめると頭蓋骨の一部が割れて脳味噌がこぼれている。
死角から狙撃されたらしい。
ゆっくり振り返ると、ロボットの残骸の上にアレムがいた。
彼は大げさに驚きながら肩をすくめる。
「まさか断ったのか? この俺様の告白を?」
「聞こえませんでしたの? 耳の穴をかっぽじった方がいいですわね」
「ハハハッ、口が悪すぎだろ!」
アレムが再び魔術を撃ち込んできた。
私は跳んで躱しながらミサイルを飛ばす。
軌道上をすべて焼き払うような爆撃を見舞うも、殺せた感覚はなかった。
他の軍人は死んだようなので、アレムだけが別格のようである。
(さすがは攻略対象だ)
私は周囲一帯を爆発させる。
すると少し遠くから、戦闘音に紛れてアレムの声が聞こえてきた。
「やっぱり俺様の妻にならないか? 君みたいな強い美女が大好きなんだが!」
「あなたは推しではありませんの。出直してくださるかしら」
大まかに方角を絞って爆撃を叩き込む。
さらに数体のロボットを落下させて押し潰しにかかるも、やはり仕留めた感じはない。
アレムは室内戦の立ち回りを心得ているらしい。
力の差を理解し、狡猾に突破口を探っているのが分かる。
彼を上回るのは至難の業だろう。