第71話 オーバーテクノロジーの悪用ですわ
邪教とアイドル作戦。
それを聞いたリエンとレボは首を傾げた。
「……アイドルって何だ?」
「未知の単語である」
言われてみればそうだ。
アイドルなどこの世界には存在しない文化である。
通じないのも当然だろう。
私は身振り手振りを加えながら補足する。
「ようするに偶像崇拝を推し進めるのですわ。民の私の虜にして神聖国を根底から壊しますわ」
「なるほど、面白そうじゃねえか」
「名案である」
概要を聞いた二人は乗り気だ。
まあ、どちらも私の意見を全肯定するタイプなので気にする必要はないかもしれないが。
とにかく反対されなかったので良しとしよう。
リエンは腕組みをして質問をする。
「具体的にはどうやって邪教を広めるんだ。神聖国の信仰心は強固だぜ?」
「簡単ですわ。私を崇拝すれば救われると喧伝するのです」
「そんなので上手くいくかね……」
「人間とは単純な生き物ですわ。小難しく考えるより、勢いでチャレンジした方がいい場合も多いです」
「ふうむ、マリスが言うならそうか」
複雑な作戦は狙い通りに展開するのが困難だ。
それならば、シンプルな流れで堅実に進める方が好ましい。
私には必要な力が備わっている。
リエンとレボの助けがあれば尚更であった。
しばらく草原を進んだところで、リエンが地面の不自然な亀裂を発見した。
そこをめくり上げると、地下へと続く階段が現れた。
リエンは感心した様子で階段の先を見つめる。
「おお、ここから中に入れそうだな。どうする?」
「もちろん進みましょう。地上を移動するより楽しそうですわ」
「ははは、同感だ」
私達は階段を下りていく。
内部は金属板で構成された狭い通路となっていた。
室温は高く、じんわりと汗を掻くほどだ。
あまり居心地の良い場所ではなかった。
十分ほど下ったところで広々とした空間に辿り着いた。
そこはスペースの大半をベルトコンベアが占めており、作りかけのロボットが流れている。
部品を掴んだ金属アームが、流れてきたロボットを一工程ずつ組み上げていた。
数種の部品を付けられたロボットは別のエリアへと消えていく。
どうやらここはロボットの製造工場らしい。
しかも量産体制が整っている。
室温が高いのは、これらの装置が稼働しているせいだったようだ。
(文明が進みすぎている。ブラックボックスにしてもやりすぎだ。本当にここは神聖国なのか?)
訝しむ私の横で、リエンがさっそく魔術の準備をしていた。
彼は今にも術を放とうとしている。
「さて、ここもぶっ壊すか」
「それよりもっと案がありますわ」
手で制した私は、近くのロボットに腕を伸ばす。
指先が膨張し、サッカーボールくらいの大きさのヘドロが生まれた。
ヘドロは破裂音と共に発射され、ロボットに付着して内部へと染み込んでいく。
私は同じ行動を他のロボットにも繰り返していった。
ひと段落ついたところでリエンが尋ねてくる。
「何をしたんだ?」
「増殖させた魂を与えたのですわ。これで無尽蔵に戦力を調達できますわ」
「……マリスが敵じゃなくて本当によかったよ」
リエンは畏怖に近い表情で胸を撫で下ろした。