第67話 世界の混沌ですわ
旅を再開して数週間が経った。
その道中、私達は世界各地で発生する様々な異常現象を目撃した。
まず最初に見つけたのは、徘徊する亡者達だ。
幽霊のように実体を持たない彼らは、苦痛に喘ぎながらどこかへと歩いていた。
地域にもよるが、多いところでは数万単位の亡者が集団で移動している時もあった。
尋常ならざる光景を前に、人々はパニックになって逃げ惑っていた。
次に見つけたのは謎の不死症状である。
なぜか一部の生物が死ななくなったのだ。
体感の確率は、およそ三十パーセントくらいだろうか。
前触れもなく死を克服した者が現れたのであった。
かと言って再生するわけでもなく、致命傷を負ったまま意識が途切れないため、死よりも恐ろしい症状なのは言うまでもないだろう。
私に心臓を貫かれた男は、動くこともできずに泣いていた。
他に気になったことと言えば、たまに地形を無視して登場する荒野だ。
そこだけ不自然に地形が変わっており、しかも常に夜間のように暗かった。
リエンによると、崩壊した冥界が現世を上書きしているらしい。
街全体が冥界に呑み込まれた場所もあり、住人が亡者になって悶え苦しんでいた。
私達が発見していないだけで、他にも異常現象が起きているに違いない。
これらはほぼ間違いなく冥王の死が原因だろう。
私が奴を抹殺したことで亡者や冥界を管理する者がいなくなり、世界に乱れが生じたのだと思われる。
「いよいよ狂ってきやがったな。まったく最高じゃねえか」
リエンは心底から嬉しそうだ。
彼は混沌を愛している。
生と死が曖昧となり、ゾンビと亡者が蔓延する世界はさぞ楽しいのだろう。
私も同じ心境なので異論はない。
理想のジェノサイドルートは想定以上の展開になっている。
「魔物の国の実現も近い。我は至福なり」
レボも満足そうだ。
冥界のエリアでは気持ちよさそうに深呼吸までしている。
人間には有害だが、スライムにとっては健康な空間らしい。
その証拠にレボの魔力は出会った当初より遥かに多く、既に種族的な限界を超越している。
今代魔王の名に恥じない能力と言えよう。
世界各地の異変を調べながら私達は大陸を横断する。
長い旅の果てに辿り着いたのは、魔術防壁に囲われた世界唯一の聖域――神聖国の領土だった。
私は地平線の先まで続く防壁に触れて微笑む。
「次の標的は信仰ですわ」