第65話 後片付けですわ
私は頭上まで振り抜いたチェーンソーを冥王の顔面に押し付ける。
冥王は驚愕を隠せていなかった。
両手で刃を挟んで引き抜こうとするも、指が巻き込まれて弾け飛ぶばかりで上手くいかない。
かなり慌てているのは、猛烈な痛みのせいだろう。
超常的な雰囲気を失った冥王は今、壮絶な表情をしている。
本来なら冥王に単純な物理攻撃は通用しない。
たとえ傷つけても一瞬で再生されてしまう。
それだというのにチェーンソーで苦しんでいるのは、私が冥王の断片を取り込んでいるからだ。
互いの同一要素が干渉を起こし、冥王の優位性を打ち消しているのであった。
他にもやり方は考えていたが、そのまま効いてくれるのが一番だ。
「事情はどうあれ、あなたは私を攻撃しましたわ。だから相応の報いを受けてもらいますわぁッ!」
私のボルテージにつられてチェーンソーの回転が加速する。
チェーンソーは既に冥王の頭部を両断し、首を通過して鎖骨に達していた。
骨を削る感触が振動と共に伝わってくる。
割れた冥王の顔が凝視してくるが、死の概念はほとんど効果を発揮していない。
断片で耐性を得た私にとっては、少し睨まれた程度の被害だった。
「あはははははははは! まったく無様ですわぁ! ただの人間に殺される気分はどうかしら!」
私は歓喜しながらチェーンソーに力を込める。
冥王はがくがくと揺れながら無防備に切り裂かれていく。
胴体が腹まで左右に分断されていた。
体内に内臓は詰まっておらず、代わりに大量の魔力が際限なく噴き出す。
もったいないので残らず吸い取り、手に入れたパワーでさらに冥王の解体を進めた。
この時点で互いの実力差は決定的なレベルとなっていた。
力の大部分を奪われた冥王は、何もできずにチェーンソーの餌食となっている。
一方、反則的な力を手にした私は、それが暴走しないように注意しながら攻撃を続けた。
ついには冥王が完全に真っ二つとなった。
私は構わずチェーンソーを操り、四肢と頭部も切り落とした。
仕上げに黒炎で炙りながら丹念にみじん切りにする。
たっぷり三十分ほどかけて、私は冥王の能力を奪い尽くし、その残骸をこの世から抹消した。
ミアも冥王も蘇ることはなかった。
どちらも完全に死んだのだ。
つまり勝者は私だった。
夜の闇に包まれた焦土で、私は燃えるチェーンソーを振り回しながら喜び踊った。