第64話 あっけない最期ですわ
冥王が猛攻がミアをボロボロに壊していく。
満身創痍のミアは無抵抗に殴られるばかりだった。
まともに再生できていないのは、絶え間なく死の概念を叩き込まれているからだろう。
魔王ジキルの力を手に入れて、数多の亡者の魂を吸収した状態でも、怒り狂った冥王の暴力には抗えないのである。
一度は使役まで至ったはずだが、両者の実力差は決定的だった。
冥王の怒りを加味しても圧倒的な隔たりがあるように感じる。
おそらくミアは奇襲に類する方法で勝利したのではないか。
首を切断するだけのパワーはあったようなので、不意打ちで戦闘不能に持ち込んだに違いない。
死後、彼女が掴み取った能力は凄まじく強い。
やり方次第では、格上の冥王を仕留めても不思議ではなかった。
私は手出しせずに傍観に徹する。
ミアが無惨な肉塊になっていく様は痛快だった。
この手で始末したい気持ちも山々だが、こうして眺めているのも悪くない。
私は創造した衣服を着込みつつ、その場に座り込んで時間を潰す。
そうして日が沈んだ頃、冥王がようやく攻撃を止めた。
執拗に殴られたミアは肉のスープになって痙攣している。
人間らしき部位が一つも残っていないが、あの状態でも生きているらしい。
信じがたい生命力である。
特殊な手法で蘇ったことで生死が曖昧になっているのだろう。
冥王がミアの残骸に顔を近づけて凝視を始める。
肉スープのミアが泡立って蒸発し、そのまま消えてしまった。
死の概念のダメ押しで魂が潰れたようだ。
戦いを終えた冥王が私のもとまで歩いてきた。
すぐそばで立ち止まり、無言で見下ろしてくる。
死の概念を与えるためではない、感謝の念を込めた眼差しだった。
(まさか解放の礼を言いに来たのか?)
一切喋らないので正確な意図は不明だが、冥王に攻撃の意思はないようだ。
私の爆発でミアの使役から抜け出せたと理解しているらしい。
もしかすると、私が善意で助けたと思われているかもしれない。
冥王の考えを推測した私は微笑を返した。
そしてゆっくりと片手を伸ばす。
「礼には及びませんわ」
私の手を引き裂いて現れたのは、赤黒い錆に塗れた禍々しいチェーンソーだった。
黒い火花を散らして、けたたましい稼働音を響かせながら刃を回転している。
振り上げたチェーンソーが冥王の顔面を叩き割った。