第61話 不条理ですわ
痛みが、果てしない痛みが襲ってくる。
私は冥王によって滅多打ちにされていた。
降り注ぐ拳が私を徹底的に破壊していく。
遠くからミアの高笑いが聞こえていた。
(理不尽だ。滅茶苦茶すぎる)
冥王の猛撃は止まらない。
凄まじい破壊力に加えて、死の概念が全身に広がる。
ヘドロの魂が溢れ出て地面に流れ出していく。
「クソ人生ですわ」
痛みは臨界点を超えて、もはや何も感じなかった。
視界は血飛沫で真っ赤だ。
それでも冥王は殴り続けている。
「ゴミ人間ですわ」
ミアが何か喚いているがまったく聞こえない。
きっと一方的に破壊される私を馬鹿にしているのだろう。
冥王はまだ殴打をやめない。
いい加減にしろ、私はとっくにミンチだ。
「ちくしょうですわ」
殴られる。
殴られる。
殴られる。
殴られる。
殴られる。
殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られまくる。
あはは、ははは。
痛くない痛くない。
笑い転げて何度も叩き潰されて芽生えた末に生じたのは、マグマのように煮え滾る怒りと狂気だった。
私は掠れた声で呻く。
「――皆殺しですわ」
何百回目かも分からない冥王の殴打が迫る。
私は紙一重で身を起こすと、片手を伸ばして受け止めた。
衝突の瞬間、腕の骨が木っ端微塵になって血肉が爆発した。
そのまま押し切られる前に、再生速度を極限まで上げることで耐える。
破損した骨と筋肉が再生と増殖で膨張し、ぐちゃぐちゃになりながらも拳を完全に防いだ。
物理ダメージはそれで耐えたものの、今度は死の概念が流れ込んでくる。
今までは抵抗していたそれを、私はあえて受け入れる。
魂と肉体が死へ向かい、崩壊を始めた。
心身が脆くなるにつれて、意識も朦朧としてくる。
限りなく死に近付いた影響か、冥王の力をしっかりと感じた。
ぞっとするような冷たい思考が私の中に紛れ込む。
それは助けを求める悲痛な声や、奴隷のように使役されることへの憤りと憎悪だった。
(冥王の自我はまだ残っている。ミアに利用されて不満に感じているのか)
私は硬直する冥王を観察する。
小刻みに震えたまま追撃を打ってこない。
向こうでミアが文句を言いながら鎖を引くが、それでも動かなかった。
死霊術は完璧ではない。
冥王は全力で抗っているようだった。