第60話 ジリ貧ですわ
私は周囲を見渡す。
すべての生物と建物が無差別に滅んでいた。
冥王に死を植え付けられたのだ。
リエンとレボは動かない。
まさか殺されたのか。
何らかの防御くらいはしていそうだが。
空気中の力が乱れすぎているせいで、二人の魔力反応が確かめられない。
私達の連携は一瞬で破綻した。
冥王の力があまりに強すぎたのだ。
こちらの戦略など、圧倒的な不条理の前では無価値に等しかった。
ミアが地上に降り立った。
彼女は鎖で冥王を引きながら歩いてくる。
「勝負ありね! あんた達が敵うわけないでしょ。こっちは冥王が味方なのよ」
上機嫌のミアは、悪意に満ちた目で私を見つめる。
時折、瞳が白い光を帯びているのは、冥界に落ちた後遺症か。
ミアは嫌らしく舌を出して宣告する。
「あんただけは苦しめてから死なせてあげる。覚悟しなさい」
「勝ち誇るのは早いですわ」
「はあ? 何言ってんのよ。この状況で逆転するつもり? さすがに無理でしょ」
「決め付けはよくありませんわ。何事も知恵と工夫で打破できるものですわ」
私が反論した瞬間、冥王がこちらを凝視した。
すぐさま動いて躱そうとするも、魂の一部が溶けて体外に飛び出す。
視界が靄にかかって意識が消えそうになりそうだ。
体内から刃を出すことでなんとか自我を繋ぎ止める。
その間、ミアが腹を抱えて大笑いしていた。
「知恵と工夫ぅ? ほら、やってみなさいよ! 打破できるものならねェ!」
冥王が連続で視線を送ってくる。
私は物質創造で遮蔽物を生み出しながら避け続けた。
反撃に移る余裕はない。
これ以上、死を付与されたらさすがに不味そうだ。
ストックされた魂が底をつけば復活できず、今度は私が冥界へ落ちることになる。
私は回避行動を取りながらミアを観察する。
影の布が結界のように展開されており、接近は容易ではなかった。
たとて攻撃できたとしても、優れた再生力で回復されてしまう。
そもそもミアは既に死者であり、ただ殺すだけでは意味がなかった。
(小細工が通用しない……どうすれば止められる?)
私は策を考える。
並大抵の作戦では一蹴される。
チャンスはそう何度もない。
決め打ちできる行動が必須であった。
「マリス! 所詮あんたはその程度ってわけよ! あたしの計画を台無しにしたクズ女めッ!」
次の瞬間、冥王がいきなり走り出した。
地鳴りを立てて距離を詰めてくると、おもむろに拳を振りかぶる。
(物理攻撃……?)
驚きと困惑で生じた隙を突くように、冥王の拳が私を叩き潰した。