第58話 絶対的な死ですわ
絶叫するミアが大きく両手で広げた。
彼女は顔面を縦断するチェーンソーを無造作に掴む。
「きは、あたっ、はははははははははは! みひぃぃぃぃぃぃぃッ」
ミアの指が弾け飛ぶ。
何本も何本も、連続で千切れて飛んだ。
いや、多すぎる。
明らかに数十本の指を切り落としていた。
後からどんどん溢れるように指が現れてくる。
よく見るとミアの手が高速で再生していた。
生えたばかりの指が回転刃に絡まり、どうにか食い止めようとしている。
「無駄な足掻きですわ!」
私はチェーンソーをさらに押し込もうとして、ふと視線を感じた。
見上げると冥王がいた。
ケルベロスの目がじっと凝視している。
ぷち、ぷちぷち。
死が頭の中に潜り込んでくる。
刹那、私は体内にありったけの刃物を創造し、爆発的な痛みで本能を振り払った。
「アアアアアアアアアアアアッ!!!」
両腕から先にゴーストモードの力を注ぐ。
黒炎がチェーンソーを侵蝕して、刃が際限なく加速していった。
そのまま力任せにミアの頭を焼き切る。
頭が真っ二つに裂けたミアが、白目を剥いて奇声を上げた。
「ひぃっ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
ミアの纏う影の布が、私を拘束しようと伸びてくる。
私はチェーンソーで切り飛ばしながら後退した。
捕まるのは駄目だ。
冥王の追撃が厄介すぎる。
あの意味不明な攻撃を何度も食らうわけにはいかない。
ここは一撃離脱がベターだろう。
距離を取った直後、誰かが背中に触れてきた。
振り返るとそこにリエンがいた。
頬がこけた彼は顔色も悪い。
冥王の初撃で憔悴してしまったらしい。
もっとも、まだ生きていられるだけで十分である。
もう死んでいるかと思っていた。
リエンは私の背中を押して支えながら苦笑する。
「冥王ってやつはとんでもねえな……死の概念を直接流し込んできやがる。危うくやられるところだったぜ」
「危険な超常存在なり。対話は不可能」
リエンの懐からスライム状のレボが出てきた。
体積がずいぶん小さくなっているのは、それなりのダメージを受けたせいか。
それでも発言できる程度の余裕はあるようだ。
とにかく二人とも無事で良かった。
相手はほぼ無敵のチートコンビだが、これで少しは希望も見えてきた。
全員でかかれば勝機も掴めるだろう。