第52話 国盗り魔王ですわ
半日後、私達はレボを連れて移動していた。
目指すは主要三大国の一つの魔国だ。
これから攻め込んで乗っ取る予定である。
レボと話し合った結果、私は力を貸すことにした。
魔物の国を築くという目的に興味を抱いたのだ。
それは私の望む混沌とした未来にも合致しており、恩を売って損はないと判断した。
「歴代魔王は大いなる正義に倒されてきた。我は同じ末路を辿りたくない。そのためには、より強大な力を持つ悪と結託するのが最良だと思った」
「なるほど、俺達を選ぶとは悪くない案だな」
「汝らは無類の強みを秘めている。これほど頼もしい存在は他にいない」
リエンの頭に載るレボは、ぷるぷると揺れながら語る。
なかなか合理的な考えだ。
話を聞くと、ずっと前から手を結ぶ相手を探していたらしい。
そして、私とリエンを見つけて接触してきたそうだ。
レボは神妙な口調で話を続ける。
「魔国は我が必ず手に入れる。そして魔物の国に塗り替えてみせる」
「大層な夢だよな。乗っ取るまではいいが、その後はどうするんだい? 国として運営するなら人員が必要なわけだが」
「心配は無用。配下は用意している。あとは土地と物資だけで事足りる」
レボは自信に満ちた様子で断言する。
この場にはいないが、レボには配下の魔物がいるらしい。
いずれ実行する国盗りのために、各地を旅する中で集めたのだそうだ。
そして最後のピースが、他ならぬ私達というわけであった。
スライムとは思えないほど用意周到だ。
それだけ魔物の国という目的の達成に真剣なのだろう。
直感で暴れ回る私とは大違いだった。
ちなみにレボが魔国を標的に選んだのには歴史的な事情がある。
元々、魔国は魔王の支配地なのだ。
内乱の末に人間との共存を推進する派閥が勝利し、魔国が出来上がったのである。
一方で敗北した旧来の過激派は衰退したものの、その意志は特殊な力となり、様々な魔物の間で秘密裏に受け継がれてきた。
それこそが魔王の加護なのだという。
詳細はレボ自身もよく分かっていないらしいが、加護を宿した者は潜在能力を限界以上に引き出せるのだそうだ。
「加護は我が誇りなり。今こそ魔国を在りし日のものへ戻さねばならぬ」
熱心に意気込みを述べるレボは、乗っ取りの成功を確信していた。
まあ、その見込みも間違いではない。
現在の魔国は、リエンの暗殺によって大統領が不在だ。
臨時の人間がどうにか沈静化を図っているが、混乱は長引いて回復の目途が立っていない。
辺境の地域はゾンビの脅威に晒されており、政治的な機能が麻痺している。
国盗りを行うにあたってこの上ない環境が整っていた。