第49話 完全勝利ですわ
殺して殺して殺しまくる。
とにかく殺して、笑っても殺して、疲れても殺して、刺されても殺して、殴られても殺して、骨が折れても殺して、首が飛んでも殺す。
飽きずにひたすら殺し続けて、もはや時間感覚なんて狂い果てた頃、私はようやく我に返った。
一面が死体で埋め尽くされている。
どこまでも死体が散乱しており、まったく大地が見えない。
血と臓物の臭いがむせ返るほどに立ち込めていた。
足の踏み場はなく、少し歩くだけで滑って転びそうだ。
陥没した地面に赤黒い液体が溜まって池のようになっている箇所もあった。
私達を襲った軍隊は全滅した。
逃げ出した者をリエンが狙い撃ちしたため、ただの一人も生き残りはいない。
すべて殺し尽くしたのだ。
私は死体の平原の只中に立っている。
血まみれで二本の刃こぼれしたナイフを持っていた。
身体は再生を終えて無傷だ。
先ほどまでは転がっている死体よりも酷い状態だったが全快している。
晴れやかな気分で佇んでいると、上空にいたリエンが降りてきた。
「大勝利だな。さすがのマリスも疲れたんじゃないか?」
「ご冗談を。むしろ活力が漲って仕方ありませんわ。獲物が少なすぎて困っているくらいですもの」
「おっと、失礼。野暮なことを訊いちまった。そういやマリスは吸魂の魔術を使えたんだったな」
殺した存在を糧にするのが私の能力だ。
つまりこの死体の数だけ強くなっており、戦いが始まる前より好調であった。
増大した魔力は底無しに等しく、今なら大魔術だろうと片手間に行使できるだろう。
私はゴーストモードの力を発動し、周囲の死体をゾンビに変えた。
続々と起き上がったゾンビ達は散り散りになって歩き出す。
その光景を見てリエンは感心する。
「また放牧かい」
「ええ、被害地域を拡大していきますわ」
「はははっ、最高だ」
リエンと笑い合っていると、背後に不可思議な魔力反応が生じた。
私は身構えながら振り返る。
そこにいたのは、赤い小さな粘液の塊――スライムだった。
スライムは小刻みに震えて音声を伝えてくる。
「罪深き殺戮者よ。汝に話がある」
「へえ、喋るスライムか」
リエンが興味深そうに見つめる。
スライムは臆さずに近寄ってくると、堂々とした口調で名乗る。
「――我が名はレボ。今代の魔王なり」
私とリエンは顔を見合わせた。