第47話 殺戮パラダイスですわ
日没を迎えた頃、遥か前方に軍隊が見えた。
旗を掲げて前進する彼らは、少なく見積もっても二万は下らないだろう。
突き刺さるような鋭い殺意は、明らかに私達を狙っている。
同じタイミングで気付いたリエンは、興味を持った様子で軍隊に注目する。
「おお、どこの勢力だ」
「あの旗は勇者の所属国ですわね。音沙汰がなくなった彼を助けに来たのかもしれません」
「仲間想いな奴らだ。涙が出てきそうだぜ」
勇者の救出が第一だと思われるが、実際は生存を諦めている節もあるだろう。
アンデッド化した勇者を討つことも想定しているのではないか。
何日も連絡が途絶えた上、ゾンビが各地に散開し始めているのだ。
勇者の安否は絶望的だと考えるのが自然である。
何にしても向こうが私達と敵対的であるのは間違いなかった。
今後の情勢を踏まえると、ここで抹殺したいはずだ。
案の定、軍隊から光の矢が放たれて、雨のように飛来してくる。
問答無用の攻撃だ。
数の暴力によるゴリ押しで殺し切るつもりらしい。
降り注ぐ光の矢を見上げる私は、薄笑いと共に優雅に宣言する。
「さあ、殺しますわよ。世界を味わいましょう」
大地を蹴って疾走する。
背中から黒炎の翼を噴出させて、光の矢を遮りながら距離を稼ぐ。
何本か当たったところで大したことはない。
とにかくスピード重視だ。
リエンもすぐに追い付いてきた。
小さな雲に腰かける彼は、地面すれすれを高速で飛行する。
頭上には結界を張って光の矢を防いでいた。
「どうやって倒す? たまには協力するかい」
「結構ですわ。手分けして殲滅しましょう」
「ちぇっ、冷たいねえ」
残念そうにぼやきながらも、リエンの目はぎらついている。
獰猛な笑みは、既に彼が戦闘態勢に入っていることを示していた。
リエンが両手の指で三角形を作り、それを軍隊に向ける。
数秒後、不可視の力が先頭集団を上から押し潰した。
数百人分の骨と肉の砕ける音が鳴り響き、真っ赤な血が一斉に弾ける。
おそらくは巨大で透明な結界を勢いよく叩き付けたのだろう。
幻想的な光景にも見えるが、実際は惨たらしい魔術であった。
先頭集団の死を目の当たりにして、軍隊に動揺が波及する。
光の矢の投射が止まり、防御魔術の構築に移っていた。
攻撃に専念している場合ではないと気付いたようだ。
雲に乗って上空へ向かうリエンをよそに、私はさらに加速して距離を詰める。
ここは役割分担だ。
遠距離戦はリエンに任せつつ、その隙に白兵戦にもつれ込ませようと思う。
両手にそれぞれサバイバルナイフとマシンガンを、額にはチェーンソーの刃を創造した。
引きつるような稼働音と振動が、脳を掻き乱していく。
「くっ……くく、あは、はははははは!」
どうにも笑いが止まらない。
暴れる心臓の痛みに感激しながら、私は軍隊に襲いかかった。