第42話 パワー比べですわ
骨のチェーンソーが唸る、唸る。
それはもう絶好調だった。
振動に合わせて黒い粘液が散っている。
禍々しい見た目なのは、ゴーストモードの影響を受けたからだろう。
私はチェーンソーを持ち上げて走り出した。
上体を反らして勢いを乗せつつ、勇者に向けて全力で叩きつける。
勇者は聖剣をかざしてチェーンソーを防いだ。
互いの武器が衝突して火花が飛ぶ。
金属と骨が絶えず削り合う甲高い音が響き渡っていた。
私は力を込めて押し切りにかかる。
勇者が受け流そうとするも、断続的に迸る黒炎がそれを阻害していた。
悔しそうな顔の勇者は、僅かに後ずさりながらチェーンソーを退けようと抗う。
戦闘中の受け流しは繊細な技術だ。
紙一重の差で攻撃をずらすのだから、一歩間違えると死にかねない。
不規則に黒炎を噴き出すチェーンソーが相手では、完璧な受け流しをするのは困難だった。
そして、完璧でなければ致命傷に至るだけの破壊力がある。
もちろん回避する隙も与えない。
少しでも逃げに移れば力の分散が発生し、私の追撃を許すことになる。
その瞬間を私が待っていることにも気付いているだろう。
だから現時点で勇者が取れる選択は、このまま防御を続けることだけだった。
パワー対決で押し切らねば、チェーンソーの直撃を食らうことになる。
その状況がもたらすプレッシャーは半端じゃないはずだ。
脂汗を垂れ流す勇者は、顔面に迫るチェーンソーを睨んでいる。
「ぐ、くぅ……」
「辛そうですわね。いっそ脱力するのはいかがでしょう?」
「僕は勇者だ、舐めるなァッ!」
怒りの声と共に聖剣が輝きを増す。
肌がぴりぴりと痛む。
属性ダメージが入っているようだが、無視できる程度の効果だ。
聖なる宝珠ほどの影響はない。
ただしそれは光を浴びた場合に限る。
もしも聖剣で斬られれば、凄まじい被害が出るはずだ。
直撃が危険なのは、私も同じことであった。
勇者が少しずつ持ち直してくる。
振り下ろしたチェーンソーが、徐々に、私の方へ戻ろうとしていた。
その向こうにある聖剣も迫りつつあった。
押されている。
限界を超えた力を発揮する勇者が、私を押し切ろうとしているのだ。
聖剣の輝きが急速に強まっていく。
「うおおおおおおおおおあぺぇっ」
唐突に間抜けな声がした。
同時に勇者が崩れ落ちて倒れる。
動かなくなった勇者の後頭部には穴が開いて、靄のような物体が漏れていた。