第39話 カチコミですわ
それからしばらくは首都で生活を送る。
生きた人間は他にいないため、食糧は市場にあるものを回収した。
料理が苦手なリエンの代わりに私が担当することが決まり、三食共に厨房にこもる羽目になった。
マリスに調理技術はないが、前世で自炊をしていた経験がここで役になった。
日本とは勝手が違うので苦戦したものの、リエンが褒めちぎってくれたので悪い気はしない。
なんだかんだで推しとの二人暮らしは充実していた。
その日の夕食後、リエンは酒を飲んでいた。
傍らには魔導書が開かれている。
城内の書庫で見つけたものらしく、多くの貴重な魔術が掲載されているそうだ。
向かい側に座る私は、自分の右腕を注視していた。
袖から覗く手は骨だけで、指先までどす黒い炎を帯びている。
他の部位は人間のままだ。
ゆっくりと瞬きすると正常な手に戻った。
この数日間、暇な時はゴーストモードの制御の練習をしていた。
今後の戦いを考えると、今のうちに使い慣れておくべきだと思ったのだ。
世界にはまだ様々な強者が存在する。
そういった者達ともいずれ敵対するのだから、少しでも多くの対抗策を用意したかった。
属性によっては相性抜群な力を持つゴーストモードの習熟は、現段階での最優先事項と言えよう。
魔導書を読み進めるリエンは、視線を落としたまま私に問う。
「次の狙いは何だい。一国を丸ごと奪ったんだから戦争しようぜ」
「もちろんですわ。主要三大国を狙いましょう。どこも王が死んで混乱していますので、ゾンビをけしかける好機ですわ」
「はぁ、最高じゃねえか。大賛成だ」
リエンは手を叩いて笑う。
私の作戦をいたく気に入ったらしい。
魔導書を読むペースが上がり、そこからは没頭して何事かを呟き始める。
新たな術を熱心に勉強しているようだ。
やる気十分で何よりである。
そんなリエンの姿を眺めつつ、私はゴーストモードの修練を再開する。
互いの作業をしながら今後の予定を話していると、外から轟音が聞こえてきた。
もう首都内の生存者は一掃したはずだ。
怪訝に思った私は窓から街の様子を確かめる。
神々しい光の軌跡が、大通りを凄まじい勢いで突き進んでいる。
配置していたゾンビ達があっけなく浄化されていった。
光は一直線に私達のいる城に向かっている。
(あれは……)
私は目を凝らす。
光の軌跡の正体は、一人の男が持つ剣の輝きだった。