第38話 国を乗っ取りましたわ
謁見の間に断末魔が響き渡る。
ゾンビに押し倒されて喚くのはこの国の王だ。
手足や顔面を食い千切られて、大量の血を流して声を上げている。
「うごああああああああぁっ」
苦痛を訴える王がゾンビに捕食されていく。
だんだんと原形を失って、そのうち人間かどうかも分からなくなってしまった。
つい数分前までは王も元気に抵抗していたが、さすがに数の暴力には敵わなかったようだ。
たとえゾンビを全滅させたとしても、その次は私とリエンが待っている。
王の味方である兵士もゾンビになっており、勝ち目は完全にゼロであった。
私は空いた玉座に腰掛ける。
これで国の乗っ取りは成功だ。
ゾンビ達はゆらゆらと頼りない足取りで謁見の間から去っていく。
彼らには王都中の人間を残らずゾンビに変えてもらう。
何日か放置しておけば、勝手に遂行するだろう。
リエンが結界で作った椅子に座る。
彼は先ほどまでとは別の果実をたくさん抱えていた。
それを美味そうに齧っている。
近くに惨たらしい死体があるというのに呑気なものだ。
ゾンビになった王を見送った後、リエンは手を打って笑った。
「おめでとう、マリス。これで君は王様だ」
「ふふ、感謝いたしますわ」
「気分はどうだい」
「別に大したものではありませんね。達成感も小さいですわ」
ここまで円滑に進みすぎると拍子抜けしてしまう。
多少の反撃はあったものの、全体でみれば微細な動きだった。
個人的にはもっと強敵が出てくると思っていた。
それなのに玉座を手にするまで大きなトラブルは発生しなかった。
計画が順調なのはいいことだが、あまりに張り合いがないとつまらない。
少しはこちらの予想を超えてほしいものである。
ちなみに私達が乗っ取ったのは、大陸の端にある小国だ。
これといった特色はなく、大国から都合よく使われる立場に甘んじていた。
戦争時は物資の提供を強制されることが多く、慢性的に貧しいせいで治安も悪い。
乙女ゲームでは国名すら登場せず、シナリオにも一切関わらないモブ未満の扱いを受けていた。
国の情報を知っているのは、マリスとして学んだ知識の中にあったからだ。
この小国を奪った理由は特にない。
強いて言えば、戦力の低さから短期間で陥落させられるという点か。
ゾンビを増やしたい私にとって、それ以外の要素はどうでもよかった。
死者の軍勢を生み出せればそれで満足である。