第37話 城攻めですわ
高級感の漂う城の中を、大量のゾンビが行進する。
呻き声を上げる彼らは一定のテンポで歩き、絨毯を血や内臓で汚していく。
その先には鎧を着た兵士達が待っていた。
彼らは決死の表情で迎撃を試みる。
槍や盾でゾンビの行く手を阻み、魔術で薙ぎ倒していく。
兵士の努力はいくらかの成果を出したが、ゾンビは数万体にも及ぶ規模だ。
先頭が少しやられたくらいで止まるものではない。
被害と言えるようなダメージは無いも同然であった。
距離を詰めたゾンビは兵士に掴みかかって押し倒す。
そして顔面に喰らい付いて殺した。
犠牲をものともしない攻撃によって兵士は次々と死んでいった。
間もなく向こう側の陣形は崩壊し、廊下を埋め尽くすゾンビはさらなる被害を出すために進む。
喰い殺された兵士もゾンビとなって群れに加わっていた。
その光景に私は微笑む。
「壮観ですわね」
現在、私は大陸にある一国の首都を攻撃中だった。
辺境から一直線に移動し、立ちはだかる軍をゾンビにしながら突き進み、ついに城まで到達したのである。
私はこのまま城を支配するつもりだ。
自前の戦力を整えて、さらなる戦争に備えなければならなかった。
私が色々と考える間にも、ゾンビは順調に城内を蹂躙する。
一体の力は弱く、基本的にノロマだ。
非常に脆い上に簡単な命令しか通じない。
おまけに臭くて呻き声がうるさい。
ところが、数を揃えたゾンビは途端に脅威となる。
痛みも恐怖を感じないため、使い捨てる前提で突撃させることができる。
見た目のインパクトも強烈だ。
相手の士気を下げるのに効果的である。
殺した敵をゾンビにすることで補充も容易なのが良い。
ついでに倒されたゾンビも残骸を寄り集めることで肉塊のモンスターに仕立て上げていた。
別に特別強いわけではないが、大きさと重量は偉大だ。
適当に前進させるだけで相手の防御を押し潰せるのだから便利に決まっている。
一連の侵攻を経て、私もゾンビの扱い方に慣れた。
当初よりも上手く使いこなせていると思う。
所詮は魔王ジキルから奪った能力の劣化版だが、十分すぎる効果を発揮していた。
隣を歩くリエンは、市場から盗んだ酒を呑気に飲んでいる。
ただし万が一の奇襲に備えて、彼は周囲に結界を張って身を守っていた。
気を緩めているように見えて用心深いのがリエンらしさである。
「世界もいよいよ滅茶苦茶になってきたなぁ。終末戦争もすぐそこか?」
「どうかしら。先の展開は読めませんわ」
「はは、よく言うぜ。すべて作戦通りに進めているくせに」
リエンはそう言うも、本当に予想は付いていない。
厳密にはあまり深く考えておらず、行き当たりばったりで行動している。
大まかな方針や目標はあるが、過程は重視していなかった。
むしろイレギュラーな出来事を楽しんでいると言ってもいい。
もちろんミアやジキルのような不穏分子については抹殺するが、この世界をしっかり満喫するのが私のスタンスだ。
ジェノサイドルートは依然として進行中だった。