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第34話 また殺された

 夜の荒野をあたしは彷徨う。

 気味が悪いほど黄色い月が空に浮かんでいた。

 なんだか見下ろされているような気がして落ち着かない。

 胸の辺りがざわざわとしてくる。


「熱い、痛い、熱い……」


 あたしは念仏のように呟く。

 全身が燃えていた。

 肌は焼け爛れて煙を上げている。

 歩くたびに、足裏の皮膚が剥がれる感触があった。

 神経を貫くような痛みだ。

 立ち止まりたいが、動き続けて気を紛らわせないと狂いそうだった。


 無限の苦痛に苛まれながらも、あたしの意識は途切れない。

 むしろ果てしなく明瞭だ。

 そのせいで余計に辛い。


 顔に触れると、斜めに裂け目がある。

 辛うじて繋がっているが、ふとした拍子に割れて血が滲んだ。

 裂け目は胴体まで続いている。


 傷は悪役令嬢マリスにやられたものだ。

 私はあの女に再び殺された。


 迷宮の最下層で、あたしは魔王ジキルと手を組んで対決した。

 あいつは聖なる宝珠で浄化してきた挙句、燃える鎖で私を真っ二つにしたのである。

 燃える骸骨という謎の変身も遂げていた。


 すべておかしい。

 どうしてあたしがこんな目に遭っているのか。

 ただ復讐したかっただけなのに、何もかも失敗して台無しになった。


 周囲を見ると、苦しみながら歩く人間がいる。

 青白く半透明な身体で、悲痛な声を上げて徘徊していた。


 彼らは亡者だ。

 ここは冥府の世界で、死者の魂が行き着く場所なのである。

 最初は意味が分からなかったが、延々と歩いているうちに気付いたのだった。


 終わりのない荒野には変化がない。

 こんな場所にはもうとっくに飽きた。

 しかし歩くのをやめれば、もう二度と進めなくなりそうだ。

 苦痛を誤魔化すためにもどうにか歩き続けている。


 そんな中、前方の枯れた木の後ろから視線を感じた。

 あたしは眉を寄せて注目する。


 ボロボロの外套を纏うのは、人型の輪郭を持つ影だった。

 魔王ジキルだ。

 あいつもマリスに焼き殺されて冥府に落ちたらしい。

 ひっそり生き延びているかと思いきや、何もできずに死んでいたとは。

 世界征服を企む魔王としては名折れではないか。


 今更、なぜあたしの前に現れたのだろう。

 敗北の言い訳でもしたいのか。

 だとしたら思い切り罵ってやる。

 こいつが力不足だったせいで、あたしは無様に殺されてしまったのだから。


 そう考えて眺めていると、ジキルがいきなり跳びかかってきた。


「――魂を寄こせェッ」


 ジキルはあたしを押し倒して、影の刃を振り上げた。

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