第32話 変身形態ですわ
ミアとジキルが再生しないことを確認し、私は堂々と宝珠を踏み砕く。
宝珠はあっけなく粉々になった。
これで誰も聖なる光の効果を使えなくなった。
結果として弱体化を浴びる羽目になったが、吸魂の魔術で力を蓄えていたので致命傷には至っていない。
減った分はまた溜めればいいだけである。
私が満足していると、呆気に取られていたリエンが話しかけてきた。
「その姿……平気なのか? というか本当にマリスか?」
「ええ、正真正銘マリステラ・エルズワースですわ」
リエンが疑うのも無理はない。
今の私は面影が感じられないほど魔力の性質が歪み切っている。
魂の破損。
魔王の死霊術。
聖なる炎による浄化。
これら三つの要素が絡み合って奇跡的に成立していた。
総合的には大幅にパワーアップしていた。
デフォルトで黒炎を纏い、骨の身体には力が漲っている。
他の術も問題なく行使可能なため、見た目は禍々しいが実用的な能力だった。
分類上はアンデッドなので聖なる力に弱くなったものの、魂のストックは無数にある。
仮にダメージを受けても魂の替えは利くことから、デメリットも実質的に克服していた。
(元の姿に戻れるのだろうか)
ふと気になった私は己の魔力を知覚する。
黒炎とアンデッドの魔力を掌握し、全身から引き剥がすようなイメージで抽出してみた。
それを一部の魂に分配して、拡散されないように封じ込める。
すると再生魔術が発動し、骨を覆うように血肉が湧き出てきた。
そこから十秒ほどで人間の姿へと戻る。
黒炎も消えており、完全に元通りだった。
一連の流れを見ていたリエンは感心する。
「おお、よかったぜ。ずっと化け物だったらどうしようかと思った」
「淑女に向ける言葉ではございませんことよ」
私はリエンを凝視する。
何かを察知したリエンが結界の盾を張った瞬間、ほぼ同時に黒炎が出現した。
炎は結界の盾を燃やして破壊する。
無防備になったリエンは途端に焦りだした。
「視線だけで燃やすのか。すごいな」
「まだ暴言を続けますの?」
「おいおい、冗談だって。悪かったよ」
謝るリエンを見て機嫌を直す。
魔女としての経験のおかげで、新たな力を使いこなせていた。
ジキルとミアの襲撃は結果的には利益を生んでくれた。
一応、形ばかりは感謝しておこう。
黒炎を纏う骨状態は予備の魂に力をストックしており、いつでも変身できそうだ。
なかなか汎用性が高いため、存分に活用していこう。
呼び名があった方がいいと思うので、今後はゴーストモードと呼称することにした。