第31話 処刑ですわ
黒炎で燃え上がるジキルは、影を操って鎮火を試みる。
しかし、炎は一向に消えない。
属性が反転したものの、本来の浄化効果が部分的に残っているためだ。
ジキルは悶絶し、そのまま崩れて消滅した。
痕跡は残っていないが、完全に死んだかどうかは不明である。
何しろ相手は魔王だ。
どうにかして再び復活しようとするかもしれない。
まあ、少なくとも当分は私の前に現れることはないだろう。
ジキルの燃えカスを一瞥した後、私は身体の異常に気付いた。
骨の表面がぼこぼこと泡立って膨らみ、人間の顔のような形となる。
それが大量に生まれて微かに声を発していた。
「人格の分裂と破綻が起きていますわね。まあどうでもいいですわ」
蚊がとまった時のように、湧き出てくる顔を手のひらで叩き潰していく。
潰すたびに顔が悲鳴を上げたが、構わず黙らせていった。
この顔達は、飽和した魂が表層に出てきたものだ。
今の私は力技で人格を束ねて一つにしている。
ただ、こうして溢れた分が自我を主張してくるのである。
あわよくば主導権を奪おうとしているのだろう。
魂が増えるのは構わないものの、行動を邪魔されるのは面倒だ。
だから、しっかりと躾ける必要があった。
何度も叩き潰していると、顔は出現しなくなった。
ようやく大人しくなってくれた。
喚いても無駄だと理解したらしい。
すべての魂が同じ私なのだ。
自分同士で争っていては困る。
一方、未だに立ち上がれないミアは、信じられないとでも言いたげに私を睨んでいた。
ジキルの死霊術がまだ生きているようで、肉体の崩壊は始まっていない。
聖なる炎もいつの間にか消えていた。
しかし虫の息には違いなく、もはや戦闘能力は皆無に等しかった。
「憐れですわね」
私は胸を張って嘲笑する。
骸骨では表情が伝わりにくいと思ったが、ミアが悔しそうにしたので成功したようだ。
私は金属製の鎖を創造し、黒炎を浸透させて回転させる。
徐々に加速する鎖は甲高風切り音を鳴らしていた。
渦巻く邪悪な炎の軌跡を見てミアが目を見開く。
「ちょ、ちょっと待っ――」
「死になさい」
そう告げた私は、勢いを付けた鎖をミアに叩きつける。
鎖はミアの顔面と胴体を真っ二つにして、彼女を骨すら残さずに燃やし尽くした。
私は邪悪な高笑いを室内に反響させた。