第30話 大変身ですわ
「なっ…………」
呆然とするジキルが私を凝視していた。
当然のリアクションだ。
苦悶していた私が突如スケルトンのような姿になったのだから。
向こうからすれば魂を壊しただけであり、明らかに想定外の現象だった。
ジキルは困惑気味に問いかけてくる。
「な、なんだその姿は……?」
「驚かないでくださいまし。バラバラになった魂を一つずつ自律させただけですわ」
私は炎となった髪を揺らして優雅に答える。
ジキルの術は非常に強力だ。
無理に抵抗したところで魂への干渉は防げない。
復活前の残滓に近い存在と言えど、魔王の名は伊達ではないのである。
そこで私は開き直り、魂の変質を促すことにした。
すなわちジキルの攻撃を逆手に取ったのだ。
まず干渉を受けた魂を粉々にして、それからすぐさま増殖させる。
ただ修復させるのではなく、破片の一つひとつが魂の完成形として働くように調節した。
魔女として学んだ術の中には、魂の構成を改竄する能力があった。
だから理論上は可能なことが分かっていた。
実際、マリスが魂を分裂させて死を克服しようとするシナリオも知っている。
ただし咄嗟の行使はリスクも大きく、下手をすれば魂が修復せずに死んでいた。
一か八かだったが、私は賭けに勝った。
体内には分裂を終えた無数の魂が巡っている。
魔王の攻撃を乗り越えて進化を果たしたのであった。
「最高にハイですわ……」
私は己の身体をもう一度確認する。
黒炎を纏う骨になったのは、ジキルの魔力が混ざり込んだせいだう。
魂が砕けた際、私は一瞬ながらも死に至った。
そのせいでジキルの死霊術が作用し、アンデッドに変貌したものと思われる。
全身を燃やしていた聖なる白銀の炎も、諸々の影響で属性が反転したようだった。
せっかくの美貌が台無しだが、今は正直どうでもいい。
とにかく死なずに済んだのだ。
少しくらい容姿が変わったところで私という存在に違いはなかった。
「化け物め」
身構えたジキルは、先ほどよりも強い力で魂に干渉してきた。
私の魂はあっけなく粉砕されるも、増殖して数が増えるだけだった。
もうコツは覚えた。
したがってジキルの術はもはや生死に関わる攻撃ではなかった。
私は人差し指をジキルに向ける。
「目障りですわ」
指先から黒炎が噴き出してジキルを包み込む。
影の輪郭が大きく歪み、凄まじい断末魔が上がった。