第29話 ショータイムですわ
白銀の聖なる炎が荒れ狂う。
魔王ジキルの張る影の防御が剥がれていく。
しかし、内側から注ぎ足されるせいで突破できていない。
攻防は拮抗……いや、こちらが少し有利だろうか。
ジキルは炎を遮ることに必死で反撃の余裕がなさそうだった。
さらにリエンが回り込んで牽制しているため、その防御にも集中し切れていない。
ジキルの魔力はもう枯渇寸前であった。
ミアは浄化のダメージで行動不能だ。
属性的な影響により、回復能力もあまり役に立っていない。
まだしばらくは動けないだろう。
私は創造した斧に魔力を流して強化した。
燃料切れになった火炎放射器を捨てて突進する。
「一気に叩き潰しますわぁ!」
「おい待て! 近寄りすぎだっ!」
リエンの声が聞こえたが構わない。
距離を詰めた私は、振り上げた斧を叩き付ける。
影の防御を真っ二つに裂けて、内部にいる二人の姿が露わとなった。
ジキルは、私に向けて影の手をかざしていた。
「愚か者め」
ドクン、と心臓が脈打つ。
胸の内が冷えるような感覚と共に、全身から力が抜けた。
私は膝から崩れ落ちて顔面を地面に打つ。
朦朧とする意識の中、悪意に満ちたジキルの声がした。
「魂に干渉した。このまま腐らせてやる」
体内が凍り付いていく。
やられた。
魔術で魂を弄られているのだ。
術が維持できず、握っていた斧が粒子となって消滅した。
それなのに白銀の炎が全身を包んでいる。
熱い、熱い、熱すぎる。
今にも死んでしまいそうだ。
「油断したな。防御で精一杯だと思い込んだのであろう。並列術式は我が領分だ。純粋な出力は下がるが、予備の術を仕込むくらいはできる」
「ちくしょう、ですわ……」
「貴様はもう終わりだ。いくら不死身でも魂が砕け散れば生きていられまい」
必死に抵抗するも、苦しみが膨れ上がるばかりだった。
肉体の損傷とは次元が違う。
私は全身の穴から血と噴き出しながら絶叫する。
「アアアアアアアアアァァァァ……ッッッ!」
死ぬ、死ぬ。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬしぬしぬしぬしぬしぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ。
いや大丈夫だ殺してやる生き抜いてみせる絶対だ。
千切れ飛びそうな意識を繋ぎ留め、巡る血液を知覚する。
溶けた内臓を吐き捨てながら、私は甲高い笑い声を上げた。
絶頂している。
肉体が、生命が、精神が、昇り詰めて喜んでいる。
こんなにも楽しいことがあるのか、いやない。
気が付くと私は立ち上がっていた。
聖なる炎の熱さも、凍て付く魂も気にならない。
どちらもしっかりと感じている……今までよりも強烈だというのに。
絶大な苦痛すらあまりにも爽快だった。
私は自分の両手を見る。
どす黒い炎に包まれた骨だ。
顔に触れると、やはり硬い感触があった。
身体も骨だけとなって黒炎が燃え盛り、揺れる髪も炎になっている。
地獄の苦しみの果てに、私は骨と炎の化身となっていた。