第28話 肉を切らせて骨を断ちますわ
宝珠から溢れた聖なる光の奔流が周囲に浸透する。
すぐさまミアと魔王が煙を上げて悲鳴を上げた。
前者はアンデッドで、後者は影の化身だ。
神聖な力には致命的に弱いのである。
室外のゾンビにも影響が出ており、大量の呻き声の後に邪悪な反応が消失していた。
狙い通り問答無用で浄化されているようだ。
これで予備選力の投入は心配しなくていいだろう。
宝珠が落下して地面を転がる。
握っていた私の手が骨と靭帯だけになっていた。
それだけではない。
いつの間にか全身が燃え上がっている。
破裂音と共に視界が明滅するのは、眼球が高熱で弾けては再生を繰り返すためだろう。
宝珠に直接触れていたので、浄化の影響も甚大だった。
弱点という点ではアンデッドほどではないものの、私の魂は悪に寄っている。
属性的な相性は決して良くない。
ゲーム内でも魔女になった私を弱体化させるためのキーアイテムなのだから、こうしてダメージを受けるのは必然であった。
「ぐっ、く……」
私は思わずよろめく。
そばに転がった宝珠は容赦なく光を放射し続けていた。
間近で浴びるのはかなりの苦痛だが、止めるわけにはいかない。
ジキルは影を展開してガードしており、ミアもその中で守られていた。
効果が切れるまで耐えるつもりらしい。
このままではせっかくの浄化が無駄撃ちになってしまう。
リエンが私にも防御魔術を張ろうとしたので止める。
「先に、攻撃……ですわ……」
「それよりマリスの回復だ! これ以上は死んじまうぞ」
リエンが珍しく焦っている。
飄々とした彼の意外な一面を見て、私は不意におかしくなって笑った。
いつもと違う推しの雰囲気に元気が出てきた。
私は火炎放射器をミア達に向けてトリガーを引く。
紅蓮の炎が聖なる光を巻き込んで白銀に変わり、影の防御を蝕んでいった。
「焼き尽くしてやりますわぁ!」
リエンが術式を構築し、白銀の炎が収束する。
炎は一切のロスなくミア達への集中攻撃へと切り替わった。
魔術で挙動を制御してくれたようだ。
素晴らしいサポートである。
私は火炎放射器を持って前進する。
肉体が炭化する苦しみを無視し、一歩ずつ距離を詰めていく。
ここからは駄目押しだ。
至近距離から炎を浴びせて捻じ伏せる。
逃亡を図られる前に焼き殺さねばならなかった。