第27話 どんなゴミも焼けば解決ですわ
正面に立ったミアが連撃を叩き込んでくる。
苛烈な殴打と蹴りを斧で弾いて逸らし続けた。
接触の際に刃を立てているのだが、なぜか切り裂くことができない。
不思議に思っていると、とある変化に気が付いた。
ミアの皮膚が質感が先ほどまでと違う。
蝋のように白いのは同じだが、明らかに硬化している。
おそらく身体強化の亜種だ。
それによって鋼鉄と同等以上の耐久性を獲得したようだった。
短いステップで角度を切り替えつつ、ミアは高速のラッシュを浴びせてくる。
「宝珠であんたを浄化するつもりが、まさか本人が先回りしているなんてね。それを壊すつもりなんでしょ」
「ご名答ですわ」
私は片手を宝珠に向けて圧縮魔力を発射する。
ところが、命中する前に影の手に阻まれてしまう。
魔王ジキルの仕業だった。
「させぬぞ」
修復した影の手が宝珠を奪おうとするも、今度は飛んできた光球が当たって蒸発した。
妨害に成功したリエンは皮肉っぽく笑う。
「誰だか知らんが、魔術で俺に敵うと思うなよ」
影の手の断片を引っ込めたジキルはじりじりと後退する。
ぼやけた輪郭が震えて声を発した。
「……魔術師リエン。想像以上に厄介だ」
「彼は世界に愛された天才よ。攻略対象の一人だからね」
宙返りでジキルのそばに着地したミアがリエンを睨む。
彼女は攻略対象という言葉を使った。
やはりこの世界を乙女ゲームとして認識し、私のようにプレーヤーの人格を持っているようだ。
(ここで絶対に始末しなければならない)
他にゲーム知識を持つ者がいるのは危険だ。
しかも魔王を仲間にしている。
私が攻略対象のリエンと協力関係を結んだのとちょうど真逆の構図だった。
戦力的にはほぼ互角だ。
彼らの後方にはまだゾンビがいる。
雑魚をけしかけるばかりでは埒が明かないと悟って直接攻撃を仕掛けてきたものの、また乱戦になる可能性もあった。
ただし宝珠は私達のそばにあるため、状況的には五分と言ってもいいだろう。
リエンは結界による防御を張りながら私に小声で尋ねる。
「どうする。だいぶややこしいことになってきたぞ」
「分かっていますわ。対策は考えていますの」
私は半壊した斧とマシンガンを投げ捨てると、宝珠を鷲掴みにして掲げた。
触れた手が焼けるように熱い。
その苦痛を表情に出さず、悠然と微笑んでみせる。
私のやりたいことを察したミアが動揺した。
「あんた、正気なの!?」
「おかしなことを言いますのね。私が狂っていないとでも?」
片手に埋め込むように火炎放射器を創造する。
そして、私は宝珠の力を解き放つ。
「――汚物は消毒ですわ」
極光が室内全域を覆い尽くした。