第26話 因縁は根深いですわ
私は真っ先に跳びかかり、マシンガンを乱射した。
銃撃がジキルの外套を穴だらけにするも、影の身体に実弾は効かない。
ミアは獣のような挙動で回避し、大地を蹴って急接近してきた。
「はあああぁぁッ!」
叫ぶミアが膝蹴りが、私の顔面に炸裂した。
衝撃が突き抜けて頭部全体が砕け散り、視界がブラックアウトする。
それでも私は気にせず斧をフルスイングした。
掠めた感触はあったが、直撃には至らなかったと思う。
再生が始まって視界が戻ると、少し遠くでミアがこちらを睨んでいた。
彼女は裂けた片腕を庇って立っている。
斧によるダメージのようだ。
ミアはジキルに文句を飛ばした。
「ねえ、どうなってんのよ! 頭をふっ飛ばしたのに生きてるんだけど! あいつもアンデッドってこと!?」
「……高度な再生魔術だ。致命傷を瞬時に治癒している。魂を破壊すれば殺せるかもしれないが、おそらく対策を打っているだろう。魔力が枯渇するまで戦うのが妥当だ」
「うわ、面倒臭い……さっさと死んでくれればいいのに」
ミアがぼやく間、彼女の腕の傷がどんどん薄れていた。
そして数秒ほどで完全に消えてしまう。
私の再生魔術とは違う。
自我を持つ特殊なアンデッドとしての性能だろう。
蘇生の際、ジキルが仕込んだらしい。
銃撃を避けた身体能力もそうだ。
本来のミアなら反応できず蜂の巣になっているところだ。
アンデッド化で様々な戦闘向けの恩恵を受けている。
最初から私の抹殺を視野に準備していたようであった。
(魔王に恨まれることはしてないはず……いや、ミアを殺したせいか)
乙女ゲーム内において、魔王ジキルは無属性の魂を探し求めていた。
それを持っているのがミアで、あろうことか私が惨殺してしまった。
こうして報復を狙われるのは納得だが、厄介だとも思う。
ゲームではマリスとジキルが敵対するルートなど存在しないのだ。
どちらも悪役で、それぞれ無関係のルートやシナリオで登場するため接点がないのである。
まさか向こうから襲撃されたり、せっかく殺したミアをパワーアップして復活させるとは想定外だった。
(シナリオからの逸脱にはこういったデメリットもあるのか)
因果の巡りに舌打ちしつつ、私は引き続きマシンガンを撃ち込む。
ミアは俊敏に動いて弾を躱していた。
命中してもすぐに回復するため、あまり意味がない。
そもそも痛みも感じていないようだった。
隙を見せると反撃を仕掛けてくるため、斧を叩き付けて追い払う。
一方、リエンとジキルは魔術対決を繰り広げていた。
こちらは動きが少なく、傍目にはただ手をかざしているだけに見える。
しかし実際は幾重にも交差する術の応酬が行われていた。
その証拠にリエンは鼻血を垂らし、ジキルの輪郭がぼやけて欠けている。
今のところ互角らしく、どちらも一歩も譲らない殺し合いが展開されていた。