第25話 ドラマチックな再会ですわ
数分ほど戦った頃には、室内のゾンビはすべて死んでいた。
破られた鉄扉の向こうでは、尚も大量の気配が蠢いているようだが、なぜか侵入してこようとしない。
ゾンビ達は不気味なほど静まり返っている。
(術者が意図的に待機させている?)
訝しんでいた直後、部屋の外から影の手が伸びてきた。
手は私の腕をがっしりと掴む。
触れられた場所が冷たくなり、凄まじい速度で腐り始めた。
変色した皮膚が剥がれ落ち、どろどろに溶けた肉が地面に垂れ落ちる。
腐蝕は私の肩まで這い上がろうとしていた。
それを目にしたリエンが血相を変える。
「マリスっ!」
「心配無用ですわ」
私は腐った腕を斧で切り落とす。
影の手は素早く部屋の外へ戻っていった。
追撃を警戒して睨んでいると、リエンが駆け寄ってくる。
「大丈夫か?」
「問題ありませんわ。すぐに治りますもの」
切断面から新しい腕が生えてきた。
腐った腕は黄色い煙を上げて骨だけになる。
恐ろしい術だ。
少しでも対処が遅れていたら、全身が腐っていたところだった。
新しい腕を回して息を吐いていると、部屋の外から声がした。
それは悪意に満ちた、聞き慣れた声だった。
「まさかここで再会するとはねえ……」
悠々と現れたのは制服姿のミアだった。
ただし肌が不自然に青白く、元は黒かった目が赤い。
その特徴はアンデッドそのものであった。
憎悪に歪む笑みは、私だけに向けられている。
ミアの隣には、人型の外套が浮遊していた。
いや、浮いているようにみえるが、中身は影が詰まっている。
目はないのに陰湿な視線を感じる。
その奇妙な風貌を私は知っている――魔王ジキルだ。
(なるほど。おおよその状況は理解できた)
経緯は不明だが、死霊魔術を得意とするジキルがミアを蘇らせたらしい。
そして学園の死者もゾンビに仕立て上げて大迷宮にやってきた。
目的はただ一つだろう。
私の心を読んだかのように、ミアはぶっきらぼうに要求する。
「宝珠を寄こしなさい。あんたをぶっ殺すのに使うから」
「お断りしますわ」
私は斧を構えて、それからマシンガンを創造した。
ミアを始末したと思い込んでいた私のミスだ。
この世界には人間を疑似的に蘇生させる魔術があるのだから、こうなる可能性を想定しておくべきだった。
不意打ちで片腕を潰されたのは自業自得である。
しかし、ミスなんて取り返せるものだ。
こうして目の前に現れてくれたのだから、しっかり殺してやればいい。
私の気分は最高潮だった。