第19話 お宝探しですわ
私は三つの生首に手をかざす。
すると生首はパッと消えてしまった。
その現象を目の当たりにしたリエンは感心する。
「亜空間収納か。空間魔術まで使えるなんて驚きだ」
「適性がないので魔力消費は甚大ですけれどね。手軽に使えないのが難点ですわ」
二週間の自己強化により、私の魔力量の大きく増えた。
それに伴って使える術も幅広くなっており、着々と魔女の名に恥じない力を培っている。
亜空間収納もその一種だ。
ゲームで言うところのアイテムボックス機能で、ちょっとしたガレージくらいのサイズに物を保管することができる。
ただし、出し入れにもそれなりの魔力を消費するため、連発するとすぐに疲労する。
間違いなく便利ではあるものの、あくまでも補助的な術として運用すべきだろう。
(術の習得では難儀しないが、理想的な使い方をできないのがもどかしい……)
大前提として、マリステラ・エルズワースは魔術師タイプではない。
時戻し前に様々な系統の術を習得しているものの、すべて二流以下の使い手である。
相性や適性を無視するせいで発動コストがやたらと高く、リエンのような達人には敵わない。
努力だけではどうしようもないのが魔術という分野なのだ。
だからこそ私は吸魂の魔術で力の底上げを図った。
技術や才能で差が付くのなら、莫大な魔力量で押し潰すまでだ。
マリスはあらゆる展開で破滅エンドを辿る人間なので、自衛できるだけの備えは必須だった。
簡単に荷物をまとめた私は拠点を出た。
すぐにリエンがついてくる。
「これからどうするんだ? 大迷宮でお宝探しでもするかい」
「よく分かりましたわね。その通りですわ」
「へえ、マジなのか。冗談で言ったつもりだったんだが」
「最深部にある聖なる宝珠を破壊しますわ。第三者に使われると厄介ですので」
「勿体ないな。俺達で使えばいいだろ」
「破壊するのが確実ですわ。誰かに使わないことが最も重要ですの」
聖なる宝珠は乙女ゲームでも登場するキーアイテムだ。
攻略対象の男がミアのために大迷宮を攻略して入手し、魔女になったマリスを浄化する。
ルートによって細かい入手の経緯は異なれど、マリスにとって不都合なのは間違いなかった。
肝心のミアは死んだものの、別の誰かが聖なる宝珠を使用する可能性がある。
だから手っ取り早く壊してしまおうと考えたのだ。
使い道はあるが、後で奪われるリスクを加味すると消滅させるのが一番だろう。
ゲーム内でのマリスは、僅かな慢心から計画に支障が生じて破滅するのが恒例だった。
だから私は徹底的に敗北の芽を摘んでおく。
これもジェノサイドルートを維持するためだ。
念には念を入れて破滅の要因を潰しておかねば。