第18話 悪役令嬢のジェノサイドルーティーンですわ
机に置かれた生首を見て、私はリエンを称賛する。
「さすがですわね。これだけ迅速に遂行できるとは思いませんでしたわ。婚約については前向きに考えますわ」
「よし! すぐに結婚できないのは残念だが一歩前進だな。大切なのはマリスと一緒にいられることだ」
無駄にポジティブである。
本人も言っているが、結婚という形態を重視していないようだ。
上機嫌に笑っていたリエンだが、周囲を見回して不思議そうに尋ねてくる。
「それにしても、どうしてこんなボロ屋にいるんだ。資金不足ならいくらでも調達してくるぜ?」
「結構ですわ。ここは潜伏するのにちょうど良いので」
微笑む私は壊れかけの椅子に座る。
生首が置かれた机もひび割れて倒れそうだ。
ついでに壁も床も天井も老朽化が進み、廃墟同然の内装となっている。
雨宿りはできそうにない状態であった。
現在、王国内の悪都と呼ばれる地域にいる。
ここは犯罪の温床だ。
乙女ゲームでは悪党の出身地として描かれていた程度で、本編には絡まない場所である。
時戻し前にマリスとして学んだこの世界の知識を加えても印象はあまり変わらない。
しかし軽い気持ちで滞在してみると、実情はさらに酷いことが判明した。
悪都ではあらゆる犯罪が日常的に蔓延している。
表通りでは盗みが横行し、殺人すら平気で行われていた。
死体が転がっていれば身ぐるみを剥がされて放置され、死体もカニバリズム嗜好の人間のランチとなる。
地下の古代の遺跡がでは犯罪者とモンスターが跋扈するカオスな領域となっていた。
決して居心地の良い街ではない。
それでも私が悪都にいる理由は、一言で述べるならばレベルアップである。
リエンとの戦いで力不足を感じた私は、自らの課題として強化期間を設けるべきと考えた。
この街では命の価値が著しく低く、その特徴を有効活用することにしたのだ。
リエンを待つ間、私は悪都の人間を殺しまくった。
殺した魂を魔力に変換する吸魂の魔術により、ノンストップでひたすら自己強化を繰り返した。
時戻し前、マリスがよく使っていた手段であり、魔女と呼ばれる所以になった術だった。
幸いにもマリステラ・エルズワースは、周囲を圧倒するほどの美貌を持つ。
悪都を散策するだけで数え切れないほどの人間が釣れてしまうため、まさに大漁状態となった。
だから私は感謝の言葉を告げながら殺戮を展開した。
ここ数日は大迷宮まで手を伸ばして、モンスターの大群まで肉塊にした。
おかげで私の魔力は二週間前と比べて十倍以上に跳ね上がった。
全盛期はまだまだ遠いものの、ひとまず今後のための準備は整ったと言えよう。