第17話 かぐや姫の気分ですわ
この世界には主要三大国という概念がある。
具体的には王国と帝国と魔国のことで、あらゆる分野で発展を遂げている。
三大国は互いに友好的で、文化交流も盛んだ。
ただし、それは表面上の話であり、実際は水面下で利権を奪い合っている。
弱小国を盾にした代理戦争も不定期に勃発し、総評としては危うい均衡と言えよう。
各国の上層部は他の国に遅れを取らないように、或いは出し抜けるように策を張っている。
今後、シナリオの進行次第では大規模な戦いが始まるし、よその国のイケメンと愛し合うルートもある。
色々と乙女ゲームらしからぬ世界観だが、本編でも詳細な部分は省かれており、あくまでも恋愛がメインだった。
設定部分はフレーバー的な意味合いが強い。
とにかく、現時点では最低限の平穏が維持されているはずなのだ。
しかし、ここは乙女ゲームとは似て非なる世界。
最序盤から私というイレギュラーが紛れ込んだことで、既存のルートから逸脱した展開が切り開かれた。
その影響が今、私の眼前にある。
「どうだ。言われた通りやってきたぜ。すごいだろ?」
魔術師リエンが得意げに笑う。
彼の前に浮遊するのは三つの生首だ。
腐敗防止なのか、薄い氷の膜に覆われて凍結されている。
私は右の生首から順に注目する。
その生首は灰色の髪と髭を持つ初老の男だった。
男は国王である。
空洞になった片目は、本来なら魔眼がはめ込まれているはずだった。
リエンが潰したか奪ったのだろう。
中央の生首は帝国の皇帝だ。
顔に大きな古傷を持つ獅子の獣人で、全体的に派手に焼け爛れている。
あの爆発する火球を受けた傷と思われる。
最後の生首は、角を持つ青い肌の美女だった。
流れから分かるが魔国の大統領だ。
虚ろな表情で目と鼻と口から血を垂れ流しているのは、何らかの呪術の効果に違いない。
(まさか本当に達成するなんて……)
リエンが三つの生首を持ってきたのは、私が結婚の条件として提示したからだった。
正直、ここまで躊躇なく達成するとは思わなかった。
学園を出てからまだ二週間しか経っていない。
その間、私達は別行動を取っていたので過程は知らないが、信じ難いほどスピーディな暗殺である。
転移魔術を使えるリエンだからこそ成立する話だ。
私は顎を撫でつつ生首を観察する。
「偽物ではないですわね……?」
「当たり前だろ。俺は誠実な男なんだ。どうせ偽装したってマリスなら見抜くだろうしな」
歴史に残る悪行を為し遂げたと思えないほど、リエンは気楽な態度である。
ちょっと買い物をしてきたくらいのテンションに近い。
さすがにゲーム内ではここまで狂っていなかった。
(……私に触発されたということか)
リエンを殺さなかったのは、想定以上の収穫かもしれない。
通常シナリオでは仲間にならない場合でも、上手くやれば協力関係になると判明した。
たぶんその逆もまた然りだ。
ゲーム知識を活かしつつ、都合の良い時だけルートから外れる必要がありそうだった。