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第16話 乙女ゲームの主人公を舐めないで

 あたしにとってのマリスは、最低な性格のクズだ。

 乙女ゲームの悪役だから嫌われ者なのは仕方ないものの、それにしたってヤバい。

 どのシナリオでも執拗に主人公を貶めようとするスタンスは、一周回って感心されるほどだった。

 当然ながらプレーヤーからの評価は最悪で、あまりの不評ぶりで改心ルートの撤廃まで望まれる始末である。


 この世界に転生したあたしは、マリスを出し抜いて幸せになるつもりだった。

 放っておいても破滅するような女だ。

 蹴落とすのは別に難しいことではない。

 あたしはシナリオを把握しているので尚更だろう。


 それなのに、失敗した。

 あいつは乙女ゲームの知識を持つ転生者だったのだ。

 しかも中身の人格がイカれている。

 電動ドリルで嬉々としてあたしを殺すような奴なんて絶対にまともじゃない。


 少し額を撫でた後、あたしはジキルに手を差し出す。


「事情は分かったわ。あんたに力を貸してあげる」


「クク、賢明な判断だ」


 ジキルが影の手で握手に応じる。

 感触はなく、ぞっとするような冷気だけが伝わってきた。

 底知れない不気味さを放つジキルに対し、あたしは胸を張って不敵な笑みを見せつけてやる。


 弱腰ではやっていられない。

 あたしはマリスへの復讐するのだから。

 あいつが生きている限り、あたしに幸福は訪れない。

 その点でジキルとは意見が一致しており、協力関係を結ぶ意味がある。


「マリステラ・エルズワースは異端だが臆することはない。我らには手駒がある」


 そう言ってジキルが魔術を発動させる。

 周囲の砂漠がぼこぼこと泡立つように盛り上がり、地鳴りのような呻き声の合唱が始まった。

 そこから顔を出したのはゾンビだ。

 血だらけの制服を着た彼らは、あたしと同じ学園の生徒だった。


「マリステラ・エルズワースが殺した者達だ。事態が明るみになる前に死体を回収してきた」


「あの女、こんなに殺したのね……本当に狂ってるわ」


「自我を呼び起こしたのは貴様だけだ。他は我が手足として使い捨てる」


 ジキルが話す間に、ゾンビが歩き出して綺麗に整列していく。

 等間隔で並び終えると、彼らは直立不動で固まった。

 完璧に操られているようだ。

 確かに自我があるのはあたしだけらしい。

 電動ドリルの傷も無くなっているから、特別な死霊魔術を施されたのだろう。


(ネクロマンサーの魔王と死者の軍団ね……利用価値があるわ)


 あたしは無言で目を凝らす。

 ジキルのそばに試験管のような形のメーターが出現した。

 赤い液体がごく微量だけ入っている。


 実はあたしは、他人からの好感度を可視化する能力を持っている。

 メーターが赤い液体で満たされているほど好かれているのだ。

 ちょうどこの世界のベースである乙女ゲームと同じ仕様である。

 これこそが転生者としての特典であり、おそらくジキルが"妙な力"と称した正体だった。


 今になって振り返ると、マリスは明らかにおかしかった。

 好感度メーターがどす黒い液体で満たされるどころか溢れ返っていた。

 初めての現象に困惑する前に、もっと警戒すべきだった。

 ただ嫌われているだけならメーターがゼロになるだけなので、あれは憎悪だろう。

 殺したいほど憎まれていたというわけだ。


(油断してやられたけど、今度は絶対に負けない。叩き潰して破滅エンドに送り込んでやる)


 まずは魔王ジキルを篭絡する。

 こいつの好感度を上げて、あたしの言うことに従う下僕に仕立て上げる。

 そして、死者の軍団をぶつけてマリスをぶっ殺してやるのだ。

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