表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/105

第13話 本音は隠して臨むべきですわ

 リエンが馴れ馴れしく頭を撫でてくる。

 それを振り払って私は睨み付けた。


「触らないで。あなたは信用なりませんわ」


「そう言わずに聞いてくれよ。俺はずっと世界に違和感を覚えていた。マリスに手を貸すと決意した途端、運命から解放されたような気がしたんだ。未知の背徳感っていうのかな、とにかく清々しい気分になれた」


 リエンはどこか神妙な様子で語る。

 普通なら頭がおかしい人間の戯れ言と断じるだろうが、私には思い当たる可能性があった。


(まさかシナリオを認識しかけている……?)


 当然ながら現状は、乙女ゲームには存在しない展開である。

 リエンの選択は、運命から解放されたと言えるのではないか。

 ひょっとするとシナリオには強制力があり、主要人物の思考や行動に影響を与えているのかもしれない。

 私というイレギュラーがそのルールに亀裂を入れたのなら、リエンが本来とは異なるルートに流されたのも納得がいく。


 もちろんこれは仮説に過ぎない。

 推論に推論を重ねた、まさに可能性の一つだ。

 決めつけるのは早計だろう。

 ただ、検証の価値があるとも思うので、色々と試したいところであった。


 いくつもの考えを巡らせながらも、私はリエンにそっけない対応を続ける。


「おハーブでも嗜んでいらっしゃるのかしら」


「ははは、辛辣だな。そんな風に思われるのも仕方ないが」


 軽く笑った後、リエンはふと真顔になる。

 彼は私の前で静かに宣言した。


「マリスのことは絶対に裏切らない。信じてほしい」


「……それを証明できますの?」


「うーん、そうだなあ。俺がやれることならなんでも言うことを聞こう。隷属魔術で取り決めを結んでもいい」


「本気ですのね」


「当然だろ。地獄の底まで添い遂げる覚悟だぜ」


 リエンは躊躇なく言ってのける。

 軽口の割には目が本気だ。

 そこで私は無理難題を吹っ掛けることにした。

 上目遣いにリエンを見つめて告げる。


「主要三大国の王の抹殺。これを達成できたら、ひとまず認めてあげますわ」


「それだけでいいのか」


「あなたにできますの?」


「それが結婚の条件なら喜んで実行するさ」


 リエンの意志は揺るがなかった。

 明確な課題を得たことで、ますますやる気になっているようだ。

 よほど私に惚れ込んでしまったらしい。

 体感的には壮絶な殺し合いをしただけなのだが、どこが琴線に触れたのかよく分からない。

 そういえばゲーム内でも恋愛のセンスが変わっていると言われていた気がする。


 とりあえず、リエンが暫定的な仲間になった。

 戦力の大幅アップなので私としても悪くない結果である。


 彼に対しては別に恨みなどもない。

 時戻し前はミアがリエンと恋をするルートに入らなかったため、あまり接点がなかった。

 広い意味では敵対関係だったものの、気になるほどではない。


 それより大事なことがある。

 前世の私にとって、リエンは推しだった。

 マリスの人格によって抑えているが、実はずっと興奮している。

 求婚された時は気絶するかと思った。


 画面の向こう側にいた推しに愛されるというのは、ある意味では幸福なのだろう。

 マリスに転生できたことに初めて感謝した瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ