第104話 次元超越ですわ
「別世界への引っ越し……なるほど、合理的ですわね」
「だろ? わざわざ世界を直してやる必要なんてないんだ。さっさと逃げ出そうぜ」
「素晴らしい案ですわね。すぐに実行しましょう」
盲点だった。
やはり私の視野は狭くなっていたらしい。
別に根本的な状況を解決する義理などなかったのだ。
面倒なら逃げてしまえばいいのである。
考えてみれば実に単純明快で理想的な案だった。
虚無となったのはおそらくこの世界だけだ。
規模的には銀河単位で巻き添えになっているだろうが、所詮は銀河単位とも解釈できる。
確かに甚大な被害であるものの、もっと広い視点で見た場合は話が違ってくる。
私は神の力を取り込んだことで理解した。
世界とは無数に存在し、それぞれの次元に神が君臨している。
私が殺したのはその一人に過ぎず、力の及ぶ範囲も相応なのだ。
つまり虚無はほぼ無限に続くが、抜け出すことは可能だった。
死んだ神の管轄外ならば、世界も無事だろうという寸法だ。
(壊した世界を創造するより、新たな世界に行く方が楽しそうだ)
私は既に乗り気だった。
ジェノサイドルートはまだ終わっていない。
世界を超えて新たなストーリーを進めることができる。
もはや元の乙女ゲームなど関係ない。
私は真の意味で自由となれるのだ。
しばらく考え込んでいたリエンは私達に指示を出す。
「マリスの能力、俺の魔術知識、レボの種族特性で別世界への扉を作る。失敗すると全員死にかねないから慎重にやるぞ」
「承知しましたわ。完璧にこなしましょう」
「我も自信あり」
そこからはリエンの構想に沿って次元超越の扉を作り始めた。
まず私は使えそうなスキルを片っ端から取得していく。
リエン曰く、少しでも成功率を上げる秘訣になるらしい。
魔術の法則に囚われない特殊能力――スキルが鍵を握っているのだそうだ。
私はこれまでにスルーしていたスキルも確かめて、一つも見逃さないように選定していった。
レボはスライムの身体を変形させて扉の枠となる。
そして余った部分を切り離して本体にした。
水分さえあれば、いくらでも再生できるのがスライムの強みである。
なぜレボの身体で扉の枠を作ったのかと言うと、魔術吸収の特性が必要なのだという。
これで発動に際してのロスが無くなるとリエンは言っていたが、詳しいことは私にも分からない。
天才の発言なんてそういうものだろう。
重要なのは、彼の発言を信じて従うことだ。