乙女遊戯(ゲーム)症候群(シンドローム)研究序説 ~ 【悪役令嬢】に魅せられて ~
最近は『ノクターン』にばかり投稿していた影響か、お話が18禁に向かって仕舞う。orz
何とか『なろう』の枠に抑えた心算なのですが……。
問題があれば、ご指摘願います。
なお本稿完成後、18禁版を書き上げ某所にて同時公開しております。
それから本作はエログロ表現を含みますので、苦手な方はご注意願います。
諸君らは【悪役令嬢】という専門用語を知っているだろうか!?
一見すると三文恋愛小説に登場する敵役のキャラクター属性のように思えるが、歴とした医学用語である。
尤も、【悪役令嬢】が登場する性質の悪い流行り病の名称自体も『乙女遊戯症候群』という巫山戯たものなのだが……。
この流行り病に罹患すると、【王太子】の婚約者である【悪役令嬢】と、【王太子】が一目惚れする【ヒロイン】との間で、俗に謂われる乙女遊戯の如き過激な恋の鞘当てが勃発する。
遂には悪逆非道な行いをした【悪役令嬢】に対して【王太子】が三行半に倣って『婚約破棄』を宣言して放逐するという芝居の如き筋書きを辿る『劇場型感染症』である。
しかも罹患するのは、本物の王子であり、その婚約者であるのだ。因みに【ヒロイン】役の女の子は、如何いった基準で発症するのかは不明であるが、最有力な学説では【王太子】が見初める事で発病すると考えられている。
この結果、放逐された初期の【悪役令嬢】は為す術もなく非業の最期を遂げていた。最近では『ざまぁ展開』という【悪役令嬢】の反撃により、周囲への被害が拡大する傾向にある。
その対策としては、『婚約破棄』された失意の【悪役令嬢】を問答無用で捕縛し、処刑するという対処療法である。処刑方法も火刑に磔刑、斬首刑と様々な形態の処刑が執り行われている。
だがしかし、この【悪役令嬢】に罹患した乙女たちは、その殆どが高位貴族の令嬢であり、現実にも王太子の婚約者として幼い頃より厳しい『王太子妃教育』を受けていた者たちだ。将来の国母としての自尊心が高いのが玉に瑕であるが、容姿端麗にして頭脳明晰な乙女たちであったのに……。
そんな高貴な乙女たちが襤褸屑のように処刑されて仕舞う。
捨てた【王太子】も心に深い傷を負う場合もあるし、新たに王太子妃として選んだ【ヒロイン】にしても臣民や下級貴族の生まれの者が大半で、厳しい王太子妃教育に耐えられずに精神的に病んだり、自殺したりと不幸に見舞われる結末が大半である。
結果として、将来を嘱望されていた若者たちが潰れていく。
『乙女遊戯症候群』とは、人材的にも金銭的にも王国に対して甚大な被害を齎す奇病なのである。そして人的被害には【王太子】の取り巻きである重臣の子息たちや、【悪役令嬢】の取り巻きである高位貴族のご令嬢たちも含まれる。
ところで私の名前は、ジョン・コラットという。
生まれは下級貴族の三男であり、ほぼ平民に準じた質素な暮らしをしていた。
だが学業で優れた成績を修め、新進気鋭の医学博士となる事が出来たのである。
因みに私の専門は流行性の疾病であり、現在研究しているのは『劇場型感染症』の『乙女遊戯症候群』と呼ばれる特異な奇病である。
『乙女遊戯症候群』は実に奇妙な疾病であり、発症する機序は未だ解明されていない。
未知の細菌又はウィルスが関与しているのか、それとも集団ヒステリーのような精神的なものかすらも解明されていないのだ。
遍歴の騎士が、強大な力を秘めた竜に挑むが如き無謀な挑戦である事は理解しているが、かの奇病が齎す災厄を考えると、何としても治療法や予防法を確立しなければならない。
その決意の源泉となった記憶は、自身が王立貴族学園に通っていた頃の強烈な体験に基づいている。その学園には女王の如き威厳を湛えた公爵令嬢のエリザベート・リュミエ・ド・メイスン様が副生徒会長として君臨していたのである。そんな雲上人であったエリザベート様であるが、彼女の前で緊張の余り転んだ際、優しい言葉を掛けて下さったのだ。
そんな事もあり、私は密かにエリザベート様に恋慕した。だがしかし、エリザベート様は生徒会長をなさっている王子様の婚約者であったのだ。だから私の横恋慕が露見すると王家に対する不敬になって仕舞う……。
ところがエリザベート様は『乙女遊戯症候群』の【悪役令嬢】に罹患して仕舞ったのだ。そして卒業パーティーにて王子様から『婚約破棄』されたエリザベート様は、貴族籍も剥奪され、更には実家からも離縁されて放逐されたのである。
天涯孤独の無一文で棄てられたエリザベート様は幽鬼のように街道や山野をあてもなく彷徨い、遂には飢餓に耐えられずに入水自殺して果てたのである。『手出しする事は相成らぬ』という王命が無ければ、助けてあげたかったのだ。そんな辛い経験があるので、死の淵に在る【悪役令嬢】たちを何とか救ってあげたいというのが研究の動機である。
殆どの場合、『乙女遊戯症候群』が発症する舞台は貴族の子弟が通う王立貴族学園内である。
その学園に王族の男子、特に王太子が通っており、更には彼の許嫁又は婚約者も通っていれば罹患の可能性が高くなる。
そんな学園に王太子が一目惚れする下級貴族の生まれながら養女として高位貴族に取り立てられた見目麗しい令嬢がヒロインとして登場すれば、ほぼ確実に発症していると考えられる。
研究に際して私は、各国の王家に支援を求めた。
具体的には原因究明のための検体を提供して欲しいというものであった。勿論、活動資金の援助も大歓迎である。この要請に基づいて送られて来るのは、処刑された【悪役令嬢】の遺体であった。何となれば周囲に対して最も大きな被害を与える【悪役令嬢】こそが、この奇病の要であると考えられてきたからだ。
尤も、本物の王族である【王太子】の遺体は、王家の威信に懸けて送られて来る事はない。丁寧に埋葬されて真実は藪の中となる。因みに【ヒロイン】の場合も大抵の場合は生き延びているので、検体には成り得ない。
不思議な事に【悪役令嬢】の死と共に、『乙女遊戯症候群』も終息して仕舞う。この事実からも【悪役令嬢】が感染の要である事の傍証となる。
そして集められた【悪役令嬢】の検体から作られた標本は、『悪役令嬢の館』とも揶揄される資料室に保管してある。勿論、提供された検体を病理検査して活用した残りであるのだが……。
現在、『悪役令嬢の館』に資料として保管している【悪役令嬢】の標本は6名分である。
検体001号は、放逐後に森で狼の群れに襲われて絶命したという。その所為で、遺体は喰い散らかされており、唯一無傷であった右脚だけを標本としていた。そんな凄惨な状態であったにも拘らず、右脚は伸びやかでありエロチックですらあった。生前の検体001号は素晴らしい脚線美を有していた乙女であった事が理解される。
検体002号と検体003号は、火刑により処刑された【悪役令嬢】であり、遺骨交じりの遺灰が送られて来たのだが、正直に言って資料としての価値は皆無である。骨壺に入れた状態で資料棚の肥やしとなっている。
検体004号は斬首刑に処せられた【悪役令嬢】の首なし遺体であった。頭部に関しては晒している間に、暴徒による投石によって破損して仕舞ったのだとか……。私たちは遺体を病理解剖して幾つかの臓器を標本としていた。単なる臓器標本となった検体004号は、生前の容姿を慮る事は難しい。更には処刑されてからの日数が経過していた事から、腐敗し掛けていたので内臓の一部を回収するだけで精一杯であったのだ。
検体005号は絞首刑に処せられた【悪役令嬢】の遺体であった。この遺体が初めて全身が揃っている新鮮な検体であり、嬉々として病理解剖を開始した事を覚えている。だが現実には、年若く綺麗な遺体にメスを入れる時には躊躇いからか指先の動きが鈍ったものだ。それでも私には崇高な使命がある。そんな事を考えながら解剖していった。
結局のところ、有意義な病理解剖ができたのは検体004号と検体005号のみであった。だがしかし、体の隅々まで徹底的に検査したのだが『乙女遊戯症候群』の発症に繋がる発見は無かったのである。
そして最後の一体となる検体006号は、毒杯を仰いで薬殺された【悪役令嬢】であった。送られて来た当初は異臭の酷い遺体であったが、その原因は吐血、失禁、脱糞によるものであり、洗い上げて死化粧を施すと、解剖台の上に全裸で横たわる物言わぬ検体006号は鄙にも稀な美少女であったのだ。
その美しさに見蕩れ、解剖用のメスを握った手が震えた。事前調査の結果、未知の病変や細菌などは発見されなかった事から【悪役令嬢】の全身標本として一糸纏わぬ姿にて、大型の標本瓶の中で保存液に浸かり揺蕩っている。
美しい銀髪が漂い、膨らみかけの胸部も美しい。
送られて来た当初、検体006号は苦悶の表情に歪んでいたが、表情筋を整えてあげると未だ稚さが抜けない美少女であったのだ。私たち研究者はこの全身標本を密かに『悪役天使』と呼んで目の保養というか、仕事の疲れを癒す一服の清涼剤の役目を果たしている。
考えてみると研究実績の無かった最初の頃は酷い状態の遺体が送られて来ていたが、最近は状態の良い遺体となっていた。だかしかし、原因追及に繋がる発見は未だ為されていない。次第に焦る中、新たな考えが閃いた。
その考えに基づき、私はひとつの仮説を立てた。
『乙女遊戯症候群』を発症させる病変は、生体でないと維持できないのではないか!? つまり……生きた儘の【悪役令嬢】を生体解剖しないといけないという事だ。
勿論、そんな非道な事実が露見すれば身の破滅である。学内倫理委員会で糾弾され、人格破綻者の烙印が押される事となろう。
それでも人類の為にやり遂げなければならない。そんな思いに駆られた私は、近々処刑されるという【悪役令嬢】を探し、刑を執行する刑吏を買収して仮死状態の【悪役令嬢】を入手する事に成功した。
因みに袖の下というか賄賂として送った金額は、奇しくも結婚指輪の相場である3か月分の月給であった。何となくだが、件の【悪役令嬢】を見初めた気分となる。
私は送られて来た【悪役令嬢】の検体が納められた棺を受領した。
添付された報告書によると、断頭台の露と消えたと記載さているが、棺の中に納められた【悪役令嬢】の首は斬られていない筈だ。特殊な薬物で仮死状態になっているだけの予定である。最初の仕事は棺の蓋を固定していた釘を釘抜きで抜いていく。
そして棺の蓋を開けた。
中には『検体007号』となる【悪役令嬢】が納められている。彼女の周囲にはクッションとして新聞紙の丸められたものが詰められていた。普通は奇麗な花や生前愛用した品が副葬されるものだが、罪人なのでそんな配慮は為されていない。
それでも『検体007号』は美しい。波打つ金髪は棺の中で広がっており、豪奢な雰囲気を醸し出している。顔の造作は整っており、名匠の造った陶器人形のような雰囲気だ。
その反面、着せられているのは質素な貫頭衣である。これは囚人用のものであろう。それから首には包帯が十重二十重と巻かれている。普通であれば斬首されているので首と胴体が離れている。それでは輸送中にぶつかって品質が劣化する事が考えられる。
だから遺体は血抜きした後に丁寧に洗浄し、手術用の糸で仮縫いするのである。だがしかし、それだけでは無残な斬首痕が見えて仕舞う。それを避ける為に包帯でぐるぐる巻きにしていたという訳だ。
私は棺に納められていた『検体007号』を持ち上げると、解剖台の上にそっと降ろした。それから首に巻かれた包帯を取り除くと切断痕のない華奢な首が現れた。その後に『検体007号』を注意深く観察していると、非常にゆっくりとではあるが胸郭が動いている。
つまり私の指示通りに仮死状態で送られて来た訳だ。
因みに解剖実習室は防音に優れており、目覚めた『検体007号』が泣き叫んで助けを求めたとしても、室外に声が漏れる事はない。仰向けに寝かせている『検体007号』の手足を広げて拘束具で固定した。
これで『検体007号』は逃げられない。
続けて予備検査として左腕から血液を採取し、口を広げて唾液を粘膜と共に回収した。そして直ちに病理検査を実施したのだが、予想通りに未知の細菌などは発見されなかった。
それでは『検体007号』に気付け薬を嗅がせて起こし、然る後に生体解剖を開始する事にしよう。昏睡させている方が解剖はし易いのだが、意識がない状態であると生理反応に議論の余地が生まれて仕舞う。
そして私は気付け薬を彼女の鼻に近付けた。
「――……くしゅん。こ、此処は……何処!? わたくしは……処刑された……筈で……は??」
すると瞼がゆっくりと動き、宝玉のような翠眼が開かれたが、視線が定まっていない。未だ微睡んでいる状態なのだろう。
「拘束されている! だ、誰か助けてぇえぇぇ~~~」
そして意識がはっきりしてきた時点で、手足が拘束されている事実に気づいたらしく体を動かして逃げようとするが、勿論、逃げる事は叶わない。同時に豊かに膨れた双丘が ― ぽよん、ぽよん ― と動いていた。予想通りに貫頭衣の下にはブラジャーの類は着けていないようだ。それにしても怪しからん動きである。異性を籠絡させる性フェロモンの発露というか、極めて淫靡な動きである。
「目覚めたようだね、『検体007号』。お前は世の為、人の為に生体解剖されるのだ。大人しく解剖され給え」
「わ、わたくしを解剖するのですって! 誰か、助けてぇえぇぇ~~~」
「無駄だよ。この解剖実習室は防音室だから悲鳴は室外には届かない。勿論、切り刻まれている時の断末魔の叫びも漏れないからな」
「お前は誰なの!? 如何して、わたくしに酷い事をしようとしているのかしら??」
「私の名前はジョン・コラット。王立医科大学に所属する教授でね。謎の奇病である『乙女遊戯症候群』に罹患した【悪役令嬢】を生体解剖して原因を究明しようとしているところだ。因みに君は生国から研究用に送られて来た検体なのさ」
「わ、わたくしが解剖用の検体だというの!!」
「その通りだ。本当は処刑後の遺体が送られてくる手筈だったけれど、生きた儘での生体解剖が必要な事態だったので刑吏に袖の下を渡して生かした儘で送って貰ったという訳だ。従って君は、公式には死んでいる。だから此処で解剖されても問題はないのだよ」
「そ、そんなぁあぁ~~。お願いです。何でもしますから命ばかりは助けて下さい」
「こんな機会は滅多に無いから逃す訳にはいかないな。可哀想だが大人しく解剖されてくれ。そうそう選択肢があったよ」
「何でしょうか?」
「解剖台の横に手術器具が置かれた台車が2台あるのが見えるかな」
「確かに2台ありますが……。どちらも恐ろしげな器具が置かれていますわ」
「先ずは、こちらの台車に置かれているのは脳髄の観察をするためのものであり、最初に剃刀にて剃髪する。続けて頭皮をこのメスで切開し、この骨ドリルで何ヵ所か頭蓋骨に穿孔して孔を開け、こちらの骨鋸で頭蓋骨を切って開頭するんだよ。それから邪魔な硬膜などを取り除いて脳を露出させ、電極を差し込んで調査するという訳だ」
「そんな事をされたら死んで仕舞う」
「では、こちらの台車は如何だい?」
「如何だい、と言われても……」
「こちらの台車には、このメスで正中線に沿って胸部を切開する。そしてこの器具で肋骨を切断した後に、こちらの開胸器で胸部を開き、内臓を直接観察しようというものだね」
「どちらも嫌ぁあぁぁ~~~。お願いです。殺さないで!!」
「医学の発展のためには犠牲は付きものだよ。未だ見ぬ【悪役令嬢】たちを救う為にその身を捧げて欲しい」
「わたくし自身も救って欲しいのです」
「それは駄目だ。原因究明が先だよな」
「いや、イヤ、嫌ぁあぁぁ~~~。わたくしに酷い事はしないでぇえぇぇ~~~」
私と彼女の意見は平行線を辿ったが、無理からぬ事であろう。
「それでは私の一存で内臓の状態を観察させてもらうとしよう」
「ま、待って下さいな。ねぇ教授様。わたくしの乳房に興味はないかしら!? 形も弾力も味も最高なのよぉ~♪」
【検体007号】は科を作ると胸を強調しつつ、媚態で以て話しかけてきた。私も男なので、興味がない訳ではない。貫頭衣の布地越しでも見事に膨れた巨乳は頗る具合が良さそうだ。
だがしかし、開胸手術を開始すると単なる脂肪の塊になって仕舞う。メスを入れる前に感触を楽しんでも罰は当たるまい。それに、この乳房は婚約者であった王子も触れたことの無い無垢なものであろう。
私はメスを台車の上に置くと、続けてゴム手袋を外した。簡易検査で異常が無かった事も後押しした次第である。
そして私の手が『検体007号』の胸の膨らみに触れた。貫頭衣越しであるにも拘らず、途轍もなく柔らかい。その結果、私の理性の箍が外れて仕舞った。
気付くと私と『検体007号』は解剖実習室の壁際に置かれた仮眠用の簡易寝台の上に居た。つまり最後まで遣って仕舞ったという事だ。婉然と微笑む『検体007号』。成り行きとは言え、情を交わして仕舞っていた。
「処女を捧げた女の子を解剖するのは如何かと思うわよ」
「粛々と解剖すれば良かった……」
『後悔先に立たず』という難儀な状態である。今更、拘束を解いた『検体007号』が大人しく解剖台に乗るとは思えない。だがしかし、公式には処刑が終わって死んでいる筈の少女である。
「お前の処遇は、如何したものか……」
「簡単ですわよ。わたくしを教授の助手か秘書とすれば良いのですわ。わたくしも、これから【悪役令嬢】に認定される娘たちの事が気掛かりですもの」
「……それしかないか。ところでお前の事は如何呼べばいい?」
「わたくしの事はフェリシアとお呼び下さい。貴族籍も家名も捨てられましたので、名乗れるのはファーストネームだけですわ」
そして私とフェリシアによる二人三脚での研究が始まった。
フェリシアは生存している事が露見すると不味いので、長い金髪をバッサリと切ってボブカットとし、『ぶすメイク』を施した上に伊達眼鏡を掛けると、絶世の美少女が野暮ったい芋娘に変身したのであった。
更には、当事者視点で新説を唱えたのである。
曰く、『乙女遊戯症候群』の原因は【悪役令嬢】や【王太子】にあるのではなくて【ヒロイン】にあるのだという。そして【ヒロイン】の破廉恥な悪行を事細かに説明してくれた。
その中で【ヒロイン】が言っていたとされる『攻略キャラ』や『知識チート』などの言葉が問題となった。しかも未確認情報ではあるが【ヒロイン】は『異世界転生』してきた存在であるという荒唐無稽さだ。だがしかし、今後は【ヒロイン】の行動も要監視対象となった訳である。
滅多に死ぬことの無い【ヒロイン】なので検体にする事は難しい。何らかの理由を付けて呼び出せないものか。
併せて、フェリシアが金策の為に商売を始めたのであった。何でも可哀想な【悪役令嬢】たちを救うにもお金が必要なのだとか。殿様商売をして多額の負債を抱えるのではないかと危惧したのだが……。フェリシアには商才があったらしく、直ぐに手持ち資金を増やしていく。王太子妃教育の一環で、そんな事も学んでいたとは。
後は【ヒロイン】を如何に召喚して事情聴取をするかである。フェリシアの協力の下、研究が随分と捗った。安易に生体解剖しなくて良かったと安堵する私が居た。それどころか、有能な共同研究者が得られたのである。
そしてフェリシアも処刑を逃れられた事から私の事は一定以上に評価しているようだ。更には袖の下として費やした月給の三か月分だが、如何やら『婚約の証』と考えているようなのだ。あれから幾度となく肌を合わせ、私もフェリシアに対して愛情を育んでいる。
近い将来、フェリシアと身を固める方策も検討しないといけないだろう。
そして私は日々の幸運を噛み締めていた。
お読み下さりありがとうございました。
以下、後日談です。
『検体007号』から共同研究者となったフェリシアであるが、最も衝撃を受けたのは『悪役令嬢の館』と揶揄される資料室に入った時だ。【悪役令嬢】たちの標本を見て涙したフェリシアであったが、『検体007号用』とのメモ紙が貼られた小さな標本瓶の塊をみて卒倒したのである。
その小さな臓器用の標本瓶に自身の本来の運命を見たのか!?
ところが、それらの標本の存在は、最終的には許容した。何となれば、新しく連れて来た【悪役令嬢】たちを説得するのに役立つからだという。因みに、ジョン・コラット教授は既に籠絡済みであり、尻の下に敷いている。
フェリシアひとりだけでも持て余していたのだが、彼女はありとあらゆる伝手を使って各国に現れた【悪役令嬢】たちを救っていった。
という事で、【悪役令嬢】たちだけで構成されたハーレムが形成される事となる。否、ハーレムと呼んで良いものか……。『混ぜるな危険』の【悪役令嬢】たちの女狐軍団は、可哀想な【悪役令嬢】たちの救済のために動き出したのである。
【悪役令嬢】のみで構成された女狐軍団は確実に世界の在り様を変えている。だがしかし軍団長を務めるフェリシアであったが、予想外に義理堅い性格であったらしく、近々教授と祝言を挙げる予定となっていた。
そんな未来を夢想しつつ、お後がよろしいようで。
設定資料
ジョン・コラット 32歳 私は……だ。
王立医科大学の教授。専門は感染症学。
現在取り組んでいる研究テーマは、謎多き伝染病と云われる『乙女遊戯症候群』。
【悪役令嬢】として処分される令嬢たちを救いたいと考えている。
その切っ掛けとなったのは、自身が王立貴族学園に通っていた頃、親しく声を掛けてくれた公爵令嬢のエリザベート・リュミエ・ド・メイスンが【悪役令嬢】として婚約者の王太子殿下によって『婚約破棄』されると共に放逐され、非業の死を遂げた事であった。
フェリシア 検体007号 16歳 わたくしは……ですわ
金髪、翠眼、巨乳の美少女。
【悪役令嬢】として断首された後に検体として送られる手筈になっていた。ところが研究に行き詰っていたジョンは生体解剖する事を思い付き、刑吏に袖の下を渡して仮死状態の彼女を送ってもらった。
『悪役令嬢の館』とも云われる資料保管室には、彼女用の標本瓶が既に準備されていた。
検体001号
放逐後に狼に襲われて絶命した。肉片と奇跡的に右脚が残っており、右脚は標本にされている。
検体002号
火刑に処されたため、骨灰が送られて来た。参考にはならなかった。
検体003号
検体002号と同じく火刑に処されていたので、同じ処置をした。
検体004号
斬首された後に晒し首として一般公開された際に、怨恨からか頭部は破壊された。残った首から下が検体として送られてきたが腐敗が激しい状態であった。それでもスラリとした体形であった事が窺えた。臓器の幾つかが標本にされている。
検体005号
絞首刑に処された後に検体として送られて来た。比較的良好な状態であった事から病理解剖に回され、臓器の幾つかが標本にされた。ただ、原因となる細菌などは見つかっていない。
検体006号
毒杯にて薬殺されたため外傷はなし。苦悶の表情で吐血、失禁及び脱糞していた。予備検査で未知の細菌やウィルスは検出していなかった事から病理解剖は取り止められ、全身標本として保存液の中で揺蕩っている。その際、死化粧として表情を整えた事から一見すると天使のように見える。研究者たちは【悪役天使】と呼んでいる。
因みに容姿は銀髪に微乳。小柄な美少女であったが苛烈な『ざまぁ展開』により、王家に対して甚大な被害を齎したとして処刑された。