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猫王様の千年股旅  作者: ma-no
猫歴4年~14年
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猫歴11年その4にゃ~


「な、何をおっしゃっているのでしょうか……」


 ソウ市にある出版社の社長室に怒鳴り込んだヒショウ市長は、真ソウジャーナルの黒幕なのにわしの顔を見た瞬間すっとぼけてやがる。


「真ソウジャーナルを読んだからここに来たんにゃろ? そういう無駄にゃやり取り飛ばしてくんにゃい?」

「くっ……」


 ヒショウは悔しそうな顔をして数秒黙っていたので、わしは観念したと受け取って対面に座るように促した。


「さってと……どこから話そうかにゃ~?」

「いったいいつから……」

「あ、疑いを持ったところかにゃ? そりゃ、あんにゃに頻繁にうちに来てたら、にゃにかやろうとしてるのは見え見えにゃ~」

「そんな昔から……」

「敗因は、お前がわしをニャメすぎってところだにゃ」


 わしが負けを突き付けると、ヒショウはキッと睨む。


「私の負け? どちらにしても税金を使って贅沢三昧をしていたのだから、国民の怒りが消えるわけがない」

「それ、社長ともやり取りしたから省いてくれにゃ~」

「ここが一番の肝なのだから、見逃せるわけがない!!」

「お前にゃ~。真ソウジャーナルちゃんと読めにゃ~。ここ。ここに全て載ってるにゃ~」


 説明が面倒なので、使い込みの件が詳しく載っているページをわしは指差す。そこには、猫の国の財政と王族の家計簿、ハンターギルドや商業ギルドからの振り込み状況、わしが寄付しているお金の使い道が載っている。

 さらには、国民がわしを擁護している文章と、ヒショウが嘘の証言をしたことを怒っている内容も。


「う、嘘だ……」

「まごうことなき事実にゃ。ま、わしがボランティアしているのは、初期メンバーぐらいしか知らないんだよにゃ~」

「どうして隠すのですか!」

「お前みたいにゃ反乱分子を炙り出すためと言えば、わかってもらえるかにゃ?」

「うっ……」


 少し声の大きくなったヒショウは、わしに嵌められたと知ってあっという間に黙ってしまった。


「あとにゃ~。聞く相手が悪すぎるにゃ。べティとノルンちゃんって、わしをおちょくることが趣味なんにゃ。そんにゃヤツを信じちゃダメにゃ~」

「本当に嫌っているように見えたのに……」

「べティはいろいろあるからにゃ~。てか、わしを嫌ってるヤツってのは、平気で嘘つくに決まってるにゃ。市長のようににゃ」


 わしが嘘つきと罵ると、ヒショウは反論する。


「猫会議では、いつも『上手くやってにゃ~』としか言わないじゃないですか。自分の意思はないのですか!」

「最初に言ったにゃ~。民主化してるってにゃ。その決定に、できるだけ口を挟まないようにしているだけにゃ。ここ1年は、古株しか案を出していなかったもんにゃ~。みんにゃ民のためを思った政策しか出してないんにゃから、反対する必要もないにゃろ?」

「それでも、王の意思が……」

「わしは民の意思を尊重してるんにゃ。国とは民あってのものにゃ。王の意思を尊重していたら、また帝国みたいにゃ国に戻るけど、それでいいのかにゃ?」

「わ、私は……」

「あ、そうだったにゃ。市長は甘い汁を吸ってた組だったにゃ。そんにゃの知られたら、みんにゃどう思うんにゃろ~? って、もう遅いにゃ」

「え……」


 わしは真ソウジャーナルの後半を開いて、記事を指差す。


「賄賂に豪遊……帝国時代の市長はけっこう派手にやっていたみたいだにゃ。たまたま猫耳族の奴隷を(そば)に置いていなかったから助かったようにゃけど、それは差別して見たくなかっただけらしいにゃ」

「な、なんで詳しく私のことをこんなに……」

「だから、わしをニャメすぎだと言ってるんにゃ」


 ヒショウは記事に目を通して、顔を真っ青にして顔を上げた。


「その次のページが面白いんにゃけど、読まないのかにゃ?」

「ま、まさか……」

「早く読んでくれにゃ~。それとも読めない理由があるのかにゃ~?」

「いえ……」


 ヒショウは震える手で真ソウジャーナルのページを捲ると、そこには「ソウ市長、税金を私的流用」とのスクープ記事。きっちりお金の流れも証拠と共に載っている。


「あ~あ……わしを非難するだけにゃら許してやったんにゃけどにゃ~。せっかくの期待の新人市長が使い込みってにゃ~。これ、どうやって弁解する気にゃの?」

「こ、これは……」

「百歩譲って、真ソウジャーナル立ち上げは目を瞑ってよかったんにゃけどにゃ~……選挙で民衆を買収したあげく、その補填に税金を使うってアホにゃの? お前はそこそこ持ってるんにゃから、ケチケチするにゃよ~」

「……」


 ヒショウは反論もできなくなってしまったので、わしは立ち上がる。


「そろそろ頃合いだにゃ。行こうにゃ~」

「ど、どちらへ……」

「市役所にゃ。市民も集まっているだろうし、自分の口で懺悔(ざんげ)しろにゃ」

「そ、そんなことしたら、私は……」

「罵詈雑言だろうにゃ~。石ぐらい投げつけられるかもにゃ~。辞めろと大合唱だろうにゃ~。でも、それが市長のやらかしたことにゃ。せめてその声を聞いて、それにゃりの罰を受けろにゃ。じゃにゃいと、この場でわしが斬り捨てるにゃ」

「……はい」


 ヒショウは命よりも処罰を選んだので、乗って来た公用車にウロと共に乗り込み、ソウ市役所の宮殿へ直行。その道中、市民に囲まれる事態となったが、わしが公用車の屋根に登ると市民は下がって道を開けた。

 そこで音声拡張魔道具を取り出し、宮殿広場に集まるように宣伝して進み、公用車から降りて市役所のバルコニーに出ると、3人で顔を見せる。


 その瞬間、ヒショウへの非難の声が弾け「辞めろ」だとか「処刑」だとかの大合唱となるのであった。



『はいにゃ~。そろそろ静かにしてくれにゃ~。いい加減にしにゃいと、のど痛めるにゃよ~?』


 5分ほど市民にガス抜きさせたら、わしが司会をしつつ宥め、静かになったらヒショウを一歩前に出す。


「ほい。そんじゃあ市民に言いたいことがあるにゃら、好きにゃように言ってくれにゃ~」


 音声拡張魔道具をヒショウに渡したら、わしは一歩離れて第一声を待つ。


『ソウ市民の皆様……皆様の応援を裏切る行為をしてしまい、申し訳ありませんでした。今回の件に関与しているのは、私1人だけです。罪を認め、私は猫陛下の決めた処罰を受ける所存です。重ね重ね、本当に申し訳ありませんでした」


 ヒショウが頭を下げ、また非難の声が大きくなるなか、わしは隣に立って声を発する。


『と、市長は謝ってるんにゃし、今回の件は許してやってくんにゃい?』


 すると、全員ポカン。ヒショウなんか、二度見どころか四度見して固まった。そりゃ、一番裏切られているはずの王様の言う言葉とは思えないのだろう。


『使い込みしたお金も返してくれると言っていたし、どうにゃろ??』


 次のわしの言葉に、ヒショウは口をパクパクしているだけであったが、市民からは「許せない」って声が大多数だ。


『まぁにゃ~。君たちがそう言うのはわからんではないにゃ。でもにゃ。市長を決めたのは君たちにゃ。わしへの恨み、甘い言葉、賄賂……事情は様々あっただろうにゃ。その歪んだ気持ちが前市長の功績を全て打ち消したから、今回の結果となったんにゃ。つまりは、君たちの失敗でもあるってことは忘れるにゃ』


 わしが諭すように言うと、市民の声はなくなった。


『失敗にゃんて、誰でもにゃん度かやるもんにゃ。ましては国にゃんて、長い歴史を歩んで行かないといけないんにゃから、これから先、数多くの失敗をしていくはずにゃ。その失敗を真摯に受け止め、改善してこそ国が成り立つんにゃ』


 わしは左手を横に振って声を大にする。


『今回の失敗は、みにゃの失敗にゃ! だが、この失敗は後退じゃないにゃ! 前進にゃ! みにゃで良くなる方法を考えて、さらに明るい未来に前進しようにゃ~~~!!』


 わしが叫ぶとどこからかパチパチと拍手が鳴り、数が増え、大きな音となるのであった……



 市民の鳴りやまぬ拍手に対してわしは解散を告げ、ヒショウとウロを連れて市長室に移動する。そこでソファー席に腰掛け、まったりとコーヒーブレイク。

 ヒショウとウロもコーヒーに口をつけてはいるが、わしが完全にだらけきっているのでどうしていいかわからず、肘で牽制しあっている。


「あの……」


 さすがに処刑までを覚悟していたヒショウのほうが負けて、口を開いた。


「どうして私を許すのでしょうか……」

「第一声が謝罪だったからにゃ。もしもあのとき開き直っていたら、わしは容赦なく首を()ねていたにゃ。命拾いしたにゃ~。にゃははは」


 ヒショウは首をさすりながら生唾を飲み込んだ。ちなみにこれは、わしの嘘。ただの脅しだ。


「ぶっちゃけ言うと、わしとしてはこういう事態になるのを待っていたんだよにゃ~」

「ど、どういうことでしょうか?」

「だってあんにゃ粛清をしたわしにゃよ? 冷酷非道だと思われるじゃにゃい? そんにゃわしが失敗を許したらどう思うにゃ??」

「あ……恩情ある王に……」

「ビンゴにゃ~。助かるにゃ~。にゃはははは」


 わしが笑うと、してやられたという顔をするヒショウたち。


「それに遅かれ早かれ失敗するのは目に見えていたからにゃ。早いうちに起きたほうが傷は浅いにゃろ?」

「つまり私は、知らないうちに猫陛下の策略を手伝っていたと……」

「にゃはは。それも正解にゃ~。でも、税金を私的流用したのは許してないからにゃ。金返せにゃ」

「は、はい。しかし、雑誌社立ち上げで、そこまでの資金が……」

「そっちはわしが持つから、自分の懐に入れた分を返してくれたらいいにゃ」

「寛大な処置、有り難うございます」


 ヒショウは大袈裟に感謝の言葉を述べるが、まだ終わっていない。


「あとは有権者への賄賂だにゃ~」

「あ……あっ!」

「忘れてたにゃ?」

「申し訳ございません!」

「本当は失職ものにゃけど、今回の選挙ではわざと罰は決めてにゃかったから、1年間10%の減給にしといてやるにゃ」

「わざと? も、もしかしてこれも……」

「にゃはは。どれぐらい違反する奴が出るか調べてたんにゃ~」

「か、勝てない……」

「にゃ~はっはっはっはっ」


 全てはわしの肉球の上。いいように踊らされたヒショウは、これよりわしに絶対服従した家臣として働くのであった……



 その日の夜。リータとメイバイに事の顛末を報告したら……


「上手く行ったのはわかりましたけど、真ソウジャーナルが出た時はどうしてあんなに焦っていたのですか?」

「全て計画通りってわりには、すんごい焦りようだったニャー。本当に計画してたニャー?」

「アレは2人がめっちゃキレてたからにゃ~」

「「怪しい……」」

「ゴロゴロゴロゴロ~」


 王妃2人の手の上で撫で回されるわしであったとさ。


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